(当サイトに寄せられたコメントで教えていただきました。有名な山口弁護士のブログにも同様のコメントがなされています。)
同報告書では、パートナーローテーション制度が機能しなかった例として、東芝の監査を詳しく説明しており、その中で以下のように述べています。
「東芝は、証券取引法監査が導入された 1951 年から会計監査を受けている。新日本監査法人は、同監査法人の前身の監査法人時期を含めると約 47 年間、個人事務所の時期を含めると約 63 年間にわたり、継続して同社の会計監査を受嘱し、実施していた。」
いかにも、長期にわたって監査人交代がなかったことが、不正見逃しにつながったという方向に持って行きたいような記述となっています。
個別決算の監査に関しては、報告書記述のとおりのようなのですが、連結決算の監査人を見てみると、プライスウオーターハウス(最後はPwCと提携していた中央青山)が、比較的最近まで(2000年ごろまで)証取法監査を実施しています。つまり、連結決算だけをみれば、新日本が連続して監査していたのは10年前後(粉飾年度までの期間)ということになり、他の大企業と比べて特別に長いというほどでもありません。
もちろん、個別監査を長期継続していた以上、なれあいが強まったはずとみることはできるでしょう。しかし、他方で、個別と連結の監査人が違うという二重監査(一種の共同監査ともいえる)は、監査チームに緊張感をもたらして、監査品質にはプラスだったかもしれません。また、いずれにしても、公的な報告書として、連結の監査人は交代していたという重要な情報を(意図的に?)隠していたというのは、きわめてアンフェア-だと思われます。報告書の中では、詳細な実例として、東芝しか取り上げていないので、なおさらです。
出所:
https://www.toshiba.co.jp/about/ir/jp/library/sr/sr2000/162.pdf
金融庁の記憶メカニズムは極端に短期的であり、直前の不正事例しか記憶に残っていないようです。今回の報告書では、東芝事例を取り上げているわけですが、その前の大きな不正であるオリンパスに関しては、むしろ、監査人交代をしたがために不正発見が遅れた事例とみることもできます。また、新興上場企業の不正では、当然、連続監査期間は非常に短いわけで、監査人ローテーションは役に立ちません。もちろん、カネボウの事例のように、長期継続監査が悪影響をもたらしたであろう不正もあるわけですが、さまざまな不正事例を丁寧に検討すれば、長期継続監査だから不正を見逃したという割合は、それほど大きくないように思われます。
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