2022 年 3 月期有価証券報告書および過年度の有価証券報告書等の訂正報告書の提出、並びに 2022 年 3 月期決算短信の訂正に関するお知らせ (PDFファイル)
東京産業(東証プライム)のプレスリリース。(7月29日付)。
過年度有価証券報告書等や2022年3月期決算短信を訂正したとのことです。遅れていた2022年3月期の有報も提出したとのことです。
2018年3月期から2021年3月期までの有報などを訂正しています。2022年3月期は、決算短信の訂正を行っています。
直近の2022年3月期で影響額を見てみると...
(左から、訂正前、訂正後、影響額。単位は百万円)
第3四半期において、12億円もの純資産影響額がありました。
不正の内容については、2022年3月期有報の注記でもふれていますが、監査報告書のKAMでも取り上げているので、ここでは、それを引用します。
「注記事項(追加情報)及び(連結損益計算書関係)に記載のとおり、東京産業株式会社(以下「東京産業」という。)において、従業員による架空循環取引が行われていた。
架空循環取引は、税務調査の指摘を契機として東京産業が実施した取引実態の調査で発覚した。東京産業は、専門的かつ客観的な視点から架空循環取引の事実関係を明らかにし、不正に計上された売上を網羅的に把握する必要があると判断して、2022年5月に外部専門家を含む特別調査委員会を設置した。特別調査委員会による調査の結果、契約書等の一部の証憑が偽造されていたこと及び過年度より架空循環取引が行われていたことが判明した。
特別調査委員会による調査結果を受け、東京産業は架空循環取引により当連結会計年度に一旦計上された売上高1,166百万円及び対応する売上原価1,093百万円を取り消すとともに、不正関連損失808百万円を計上している。過年度の架空循環取引については、当該取引に係る売上等の修正が必要であると判断し、過年度の有価証券報告書等の訂正報告書を2022年7月29日に提出している。
また、不正な売上が計上されていたことから、東京産業は当該不正事案が生じた部署の業務プロセスに係る内部統制に開示すべき重要な不備が存在すると判断した。(以下省略)」
監査上の対応は...
「当監査法人は、架空循環取引により不正に計上された売上が網羅的に集計されているかどうかを検討するため、当監査法人の不正調査の専門家を関与させ、主に以下の監査手続を実施した。その上で、架空循環取引に係る修正処理が適切に行われているかどうかを確かめた。
(1) 特別調査委員会の調査結果及び結論の評価
●架空循環取引の調査を目的として東京産業が設置した特別調査委員会について、特別調査委員会及び調査委員の能力並びに客観性を評価した。
●特別調査委員会による調査の過程において各調査委員から調査状況の説明を受け、質問するとともに、調査報告書を閲覧した。特に以下の調査手続の範囲及び調査結果の内容について検討した。その上で、特別調査委員会の結論の妥当性を評価した。
・関係する従業員に対するヒアリング及び関係する従業員の電子メール等の閲覧
・全役員及び全従業員に対するアンケート調査
・関係する取引先に対するアンケート調査及びヒアリング
(2) 類似した不正な売上の有無の検討
●データ分析の専門知識を有する者を関与させ、過年度及び当連結会計年度の取引データに発見された架空循環取引と類似した特徴のある取引があるかどうかを検討した。
●発見された架空循環取引と類似した特徴のある取引について、取引の実在性を確かめるため、得意先から入手した契約書及び注文書等と照合した。」
会社が設置した調査委員会の結論をうのみにするのではなく、自前の専門家を投入する必要があるのでしょう。
調査報告書も開示されています。
特別調査委員会の調査報告書受領に関するお知らせ(PDFファイル)
「調査開始の経緯」によると、2022年3月期の決算作業中には、不正の事実は把握していたようです。当初は、過年度訂正までは考えておらず、2022年3月期の特別損失として処理し、決算発表まで行いましたが、結局、きちんと調べようということになって、特別調査委員会を設置したようです。
「 当社は、2022 年 1 月 17 日から開始した東京国税局による税務調査の過程において、営業第三本部プラントインフラ機器部国際インフラ課所属(当時)の X 氏が関与する一部取引について、4 月下旬に、取引の実体に疑義のある売上等が存在する(以下「本件架空取引疑義」という。)との指摘を受けた。
これを受けて、当社内での調査を実施したところ、販売取引の一部において計上根拠の確認できない取引があったほか、一部の仕入先に対して実体の伴わない送金を行っていたことが判明した。
これに伴い、当社は、2022 年 3 月期決算において、実体が伴わないと考えられる売上高及び売上原価についてはこれを取り消すとともに、支払済の金額 528 百万円については回収可能性が現時点では見込まれないことからその全額について貸倒引当金を計上し、貸倒引当金繰入額を特別損失として処理した上で、2022 年 5 月 13 日付でこれを適時開示した。
また、X 氏から提示を受けた通帳履歴データを調査したところ、多額の現金による入出金が判明し、X 氏による横領の可能性を含んだ資金流出の疑義(以下「本件資金流出疑義」という。)が認識された。」(報告書1ページ)
不正の概要。X氏の個人的不正という結論です。
「本件架空取引疑義について、調査対象期間に X 氏が起票した売買約報告書に対する悉皆調査を行った結果、当社において実体のない資金移動が実行され、結果的に架空の売上高及び売上原価が計上されていること(以下、「本件架空取引等」という。)が判明した。これらは、案件ごとの利益確保のために行われた原価の付替や他社への立替払いの依頼を
発端として、その清算のために架空取引が創出され、その偽装のため、多数の実体のない資金移動が行われたものである。
こうした行為はいずれも基本的に X 氏個人により考案、実行されており、当社の組織的関与を示す証拠は発見されなかった。ただし、当時の X 氏の同僚であった A 氏については、架空取引のための書類の作成や入出金の依頼などにおいて、深く関与していることが認められる。もっとも、A 氏の本件架空取引等への関与は、自ら積極的・能動的に行ったものではなく、X 氏の指示どおり作業を行ったものにすぎず、消極的・受動的なものであった。」(報告書16ページ)
「原価付替」というのは、「当初見積もりを超過する原価が発生した場合に、これを他の案件に付け替える行為」(報告書における説明)です。
その具体的な手口は...
「X 氏が行った原価付替は、以下のような 2 つの方法で実施された。
① 超過原価が発生した仕入先への支払について、別の取引先に立替払いを依頼し、その補てんとして、後日別案件に関する原価であるかのようにして支払う方法
② 超過原価が発生した仕入先への支払に対応する架空案件を創出した上で、特定の取引先に当該架空案件の売上を装って入金を依頼し、後日別案件に関する原価であるかのように支払い、補てんする方法」
単純に、帳簿上だけで、A案件の原価をB案件に付け替えるというのではなく、取引業者を巻き込み、架空の受注案件までねつ造し、実際に資金を動かすというような、複雑かつ大がかりなことをやっていたようです。
X氏が不正を隠すことができた背景は...
「X 氏は、取引の決裁に必要な書類について提出期限を無視して可能な限り提出を遅らせ、なおかつ取引先の事情があると偽って、上席者に迅速な決裁を依頼することで、決裁の際のチェックをすり抜けるための工作を行っていた。H 氏も、こうした期限間際に決裁申請を受けた結果、チェックが不十分なものとなっていたと供述している。ただし、X 氏がこうした書類の期限徒過を行っていたことに対し、H 氏が度重なる指導や叱責を行っていたことも、メールから見受けられている。しかしながら、X 氏は直属の上司を無視した行動をとっており、本来上司にすべき報告や連絡、資料の提出がなおざりにされていた。
その背景として、X 氏及び H 氏がともに供述するところでは、課の主業務であるワ案件は X 氏が開拓した領域であったことから、上席者を含む他の課員の案件の理解度が X 氏に対するそれを大きく下回っていた点が挙げられる。また、H 氏は、X 氏が■■■■■■■■■かつ所属部門の■■■でもある I 氏と入社当時に共に仕事をしていたつながりを利用して
おり、これに忖度して X 氏の態度を抜本的に改めさせることができなかったとも供述している。
X 氏は、こうした環境の中で周囲からの干渉を受けづらい独自のポジションを確立し、不正行為を繰り返すことを可能としていたものと考えられる。」(報告書31ページ)
X氏やX氏の配偶者にも資金が流れていたそうです。
「J 氏の供述と X 氏配偶者口座の入金状況の整合性に鑑みれば、本件架空取引等を通じて l社に送金された資金が X 氏個人に還流された可能性が極めて高い。...本件架空取引等の結果として当社から本件資金流出先に流出している資金は約 6 億 6 千万円となっているが、以上を踏まえれば、約 3 億円にも及ぶ X 氏本人及び配偶者の口座への現金入金額について、l 社を利用した方法と同様に、t 社、u 社、v 社、w 社を通じて当社の資金が還流されたものである可能性について否定できないものと思料する。」(報告書36~37ページ)
「なお、本件架空取引等を行った X 氏に対しては懲戒処分の対応が必要であることはいうまでもないが、本件架空取引等によって流出した資金が X 氏個人に還流された可能性は極めて高いことから、当社において更に必要な調査を行った上で、X 氏に対する法的責任の追及も検討されるべきである。」(報告書59ページ)
ということで、不正の全部が明らかになったわけではなさそうです。