会計ニュース・コレクター(小石川経理研究所)

通貨デリバティブで経営難、金融庁が実態調査へ(読売より)

通貨デリバティブで経営難、金融庁が実態調査へ

金融庁が、メガバンクなどの主要行を対象に、「通貨デリバティブ」の販売方法や取引先の損失状況などについて実態調査に乗り出すという記事。

「金融庁は〈1〉銀行が取引先などに無理な販売をしていなかったか〈2〉損失のリスクを事前に説明していたのか――などの点を調べる。」

週刊ダイヤモンドに詳しい記事が出ているようです。

中小企業の破綻増加は必至!
銀行がはめた為替デリバティブの罠


「円安になれば輸入価格は上がる。そのリスクを回避する手段として提案されたのが「通貨オプション」という、聞きなれない商品だった。」

この記事で最初に取り上げているのはいわゆるゼロコスト・オプション(レンジ・フォワード)だと思われます。例えば、輸入を行う会社が、ある為替レート(例:105円)で外貨を買う権利を取得(オプションを取得)すると同時に、それより少し円高の、ある為替レート(例:95円)で外貨を買う義務を負う(オプションを売却する)契約です。オプションの取得と売却が同時であるため、見かけ上は、手数料がかかりません。これ自体は、為替予約の変形みたいなものでそれほど危険な商品ではないと思いますが、記事を読むと、非常に長期の契約だったようです。そのため、想定外に円高になると、企業側は、割高な外貨を長期にわたって買い続けなければなりません。

「本来、X社は円高になれば権利を行使せず、市場で売買することで円高のメリットを受けられる。ところが実際には、メリットどころか、多額の損失を被るハイリスク商品だ。

 さらに「ギャップ」「ノックアウト」などと呼ばれる銀行側に有利な契約を結ばされるケースも多く、企業が受け取る利益は限定され、損失は拡大する。契約期間は5~10年と長く、解約の際には、契約内容や為替レートにもよるが、おおむね数千万~数億円もの違約金が必要となる。これが手数料ゼロのカラクリなのである。」

銀行の販売方法にも問題があるようです(みずほがやり玉に挙がっています)。

「契約時に説明義務を十分に行っていないケースも多い。経営者たちから聞こえてくるのは、「円高になるとリスクが急増するなんて説明されていない」「解約時に多額の違約金が発生するなんて聞いていない」などの怒りの声である。

 みずほは「商品を理解できない人には売っていない」と主張するが、前述のような経営者の声が小さくないのは事実である。

 なかには明らかな問題事例もある。07年に契約したある輸出企業。社長はくも膜下出血を複数回、起こし、その後遺症で判断能力が低下していた。にもかかわらず、「円高による為替リスクを回避するため」という事実に反する名目で通貨オプションを販売した。」

「通貨オプションを契約した中小企業の多くはみずほの融資先だ。ある経営者は「数千万円の融資を申し込んでいる時期に話を持ちかけられたので断れなかった」と嘆く。取引がない企業に対しても、融資や融資枠を持ちかけた後に、通貨オプションの契約をするケースが散見されている。」

会計処理を考えてみると、企業側は中小企業ですから、デリバティブに対する時価会計は適用されず、現金ベースで処理しているのでしょう。他方、金融機関側は、時価会計なので、契約時点で取得したオプションの時価と引き受けたオプションの時価の差額を利益として取り込んでいると思われます。

本来、中小企業にもデリバティブの時価会計を導入し、リスクに敏感になってもらう必要があるのですが、なぜか中小企業団体は時価会計に消極的です(少なくともそのように見える)。
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