![「光」の方](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/05/62/730dc34e38491f191eef041829677dc7.jpg)
昔、高貴な男ありけり。その男のもとにいた女に、内記にあった藤原敏行という人が夜這いした。されど女はまだ若かったので、文もしっかりとは書けず、言葉の使い方も知らなかった。まして歌など詠めなかったので、かの主である人が、案を書いて、女に書かせてやった。男はすっかり感激した。さて男が詠むには、
あなた想う気持ちに勝る涙川
逢うこともなく袖ばかり濡れ
返し、例の男が、女に代わって、
袖ほどの浅さなのね涙川 流れてしまうと言ってください
と言ったところ、男は、たいそう感激して、今日まで丁寧に巻いて文箱にしまってあるという。
男が、文をよこした。女を得て後のことである。「逢いに行きたいが、雨に降られて空模様を見て困っています。我が身幸いならば、この雨は降らなかったものを」と言ったところ、例の男、女に代わって詠んでやらせた。
問うこともできぬ想いはそのくらい わかりましたの雨ばしゃばしゃと
と詠んでやったところ、蓑も笠も取らずに、びっしょりと濡れて慌ててやってきたとさ。
伊勢物語 涙川 百七段 わかりやすい訳 現代語訳
つれづれのながめにまさる涙川 袖のみひちてあふよしもなし
あさみこそ袖はひつらめ涙川 身さへながると聞かば頼まむ
かずかずに思ひ思はず問ひがたみ 身をしる雨はふりぞまされる
男、かわいい。竹取物語は究極。それにしても、ほとんど訳さなくてもいいくらい、現代の表現に近いのに驚かされる。こういったものを、国語の教科書に載せればいいのに。歌もいいし。画像は、「今年の10大ニュース」?