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小さく青いサフランがしおれかかっていました。
「私の坊やを返して!
返さないというのなら、ここにある花を全部引き抜いてやる!」
お母さんは両手に花を握りいいました。
「なんというわがままだ。
おえは他の母親も自分の子供が死ねば、どんなに悲しむか分かるかね?」
「ああ、こんなに酷いことがあるのでしょうか?
同じ人間に生まれたのに、こんなにも違う一生を送るとは、信じられません。
あんな不幸な眼にあうのなら死んだほうがましです。
天国へ召されたほうがどんなに幸せかしれません。
でも、でも・・・・
あの幸せな人生のほうが私の坊やの人生であるかもしれない?
どうぞ死なせないでください!
坊やの命をください!」
お母さんはすすり泣きだしました。
「いったいどうしたらいいのだ?
お前は私にどちらかを選べというのか?
どちらにしたらいいのだ。」
「お前の言うことは私にはさっぱり分からぬ。
自分の子供を返してほしいのか?
それとも知らないところへ連れて行ってほしいのか?」
「ああ、神様。
私には、もはや何もかも分かりません!
と言うやいなや、お母さんはどっと崩れて、土の上にひざまつきました。
「どうぞ、神心のままになさってくださいませ。」
お母さんは深く深く、うなだれてしまいました。
赤ちゃんは死神と一緒に、遠い遠い国へと旅立って行きました。
翻訳松谷みよ子 アンデルセン童話より
翻訳文に手が加えてあります。
次は
乾 孝氏の評論の一部です。
死にかけたわが子の魂を、死神の手から奪い返そうとする
お母さんの熱烈な行動力は、人間を超える超人的なものがありますが、どんな障害の前にも屈することのない真の母性愛の自由な表現です。
宿命にゆだねるのではなく、自分の意思で納得のいくまで闘い続けていくという積極的な行動力がはっきりと記されています。
がむしゃらに自分の本能のままに危険をものともせずに走り続けたお母さんは最後に悟ります。
どんなに強い愛を持った母親でも、自分の愛のために子供の運命を変えることはできない。
変えてはならない。
子供の命は子供自身のもの、母親が親でも干渉することのできない領域で、その運命は子供の道なのです。
おかあさんが願ってはならないことを願っても神様はそれを聞き届けてはくれないのです。
(一部手が加えてあります)
ボッティチェリ
アンデルセン童話は大人の童話です。
あるお母さんの物語はあなたの物語です。
赤ちゃんの延命治療に一考を投げ掛けます。難儀な大手術をしても、余命は短く後に後遺症や障害が体にも脳にも残ります。
最後まで読んでいただきまして、誠にありがとうございました。
アンデルセンは作家としても、大きなお城の暖炉の上にある燃え尽きないローソクなのかもしれません。
素敵なアンデルセン❗
今日もありがとう❗