[あるお母さんの物語]
アンデルセンの童話から送り致します。
小さな家の中には青白い顔をした一人の赤ちゃんが眠っていました。
家の外は深い雪で覆われて埋まっていました。
冷たい氷のような風が、窓ガラスをヒュウヒュウと揺すり続けました。
赤ちやんはひどい病気で熱があり、苦しそうに息をハアッとつくのでした。
お母さんはどうすることも出来ずに、悲しみに胸が押しつぶされそうで、ただじっと赤ちやんを見つめていることだけしか出来ませんでした。
突然、ドアがパタンと開きました。
氷のような冷たい風と一緒にみすぼらしいおじいさんが立っていました。
おじいさんは寒さに震えていて、麻で編んだボロボロの服を着ていました。
何もする術を持たないお母さんは、ただぼんやりと見つめていて、小さな壺の中のビールを、ストーブで暖めようとしました。
おじいさんは、赤ちゃんのそばに座り、ゆりかごを揺すりました。
赤ちやんは深いため息をしながら、小さな手を動かしました。
お母さんは、せつなにおじいさんにすがりつくように言いました。
[この子はいつまでも私のものです。神様は連れていかないでしょうね。]
するとおじいさんは困ったように黙って横を向きました。
おじいさんは死神だったのです。
お母さんはがっかりしてうなだれ、涙が頬をつたい流れて、目の前は真っ暗になりました。
お母さんは崩れる様に座り込み目を閉じました。
そしてそのまま何かに引き込まれるように意識が遠のきました。
それはほんのわずかな間でした。
目を開けたお母さんは、見振るいをし「私どうしたのかしら?」
と言いながらあたりを見回すと、
[アッ 坊やがいない]
その時、
古い柱時計がギシッと物音を立て、大きな鉛の紐がほどけて、床にドスンと落ちました。
柱時計は、そのまま動かずに止まってしまいました。
お母さんは冷たい水を浴びせられたかのように、ぞっとし、家の外に飛び出しました。
[坊や、坊や、何処にいるの?]
続く‼