奥入瀬渓流館の敷地内の渓流館と歌碑の間の道を進むと奥入瀬渓流の遊歩道につながる。ここからはまだ渓流は見えない。時刻は午前9時37分。道標(みちしるべ)に従っていざ出発である。
何やら橋が見えてきた。楓橋(かえでばし)である。近くに蔦川(つたがわ)という支流が流れこんでいる辺りだ。
橋上から見る奥入瀬の流れ。
橋の手前を左に進むと本格的な遊歩道である。各所に案内板や説明書きが設置されている。
これ以降流れの各所で見かける草でトクサという。縦長に生える姿が特徴的だ。
ギザギザの葉が放射状に伸びるシダ類もよく見かける。シダ類が大量に繁茂する光景を見ると「漂流教室」を思い出す。(楳図かずおさんに合掌。)
このあたりから流れが本格的に見られる。
流れの両岸から川面に覆いかぶさるように樹木が生い茂る。
少し視界が開ける。彼方からの水の流れ。水面に石が顔を覗かせる。深くはなさそうだ。
「特別名勝天然記念物 十和田湖および奥入瀬渓流」とある。
流れはふたたび草木にさえぎられる。浅瀬には石が多く見られその面には水草と苔が生える。少年の髪の毛を生やした頭のようで可愛らしい。
河畔林(かはんりん)は河川の周辺に繁茂する森林。渓流下流部にあたるこの辺りではいくつかの支流が合流する不安定な土地であるためケヤマハンノキなどが真っ先に生えて河畔林をつくり土地が安定するにつれシロヤナギやトロヤナギそしてサワグルミやトチノキなどが生えるとある。
森の奥から緑の水が揺蕩い(たゆたい)ながら流れくる。
脇から本流へと流れ込む湧水。
渡してある木橋の縁(へり)に苔がびっしり生えている。この姿も各所で見られる。
笹と羊歯と苔と清冽な水の饗宴。
焼山から2kmとあるが遊歩道に入ってからはまだ1kmほどだろう。
少し本流を離れ青い森の道になる。ところどころにせせらぎが顔を覗(のぞ)かせる。
ブナ林の始まり。大水の影響を受けない安定した湿潤地にはトチノキとサワグルミの林が発達しそれが段丘化するなどして水はけが良くなるとやがてブナ林に変わる。この付近は伐採など何らかの影響で元のブナ林が失われそのあとに再びブナが生えだしたとみられこのような林を二次林というとある。このあたりは原生林ではないということだ。
人の手で伐られたものを含め倒木も風情がある。
細く長く生えているのはブナの若木なのだろう。
こちらは黄瀬橋(きせばし)。黄瀬川という支流が合流している。
黄瀬橋からの上流の眺め。
下流の眺め。緑の中を風花のようなものがはらはらと舞い落ちてくる。ブナの花粉だろうか。緑の中を粉雪が舞う不思議な光景。思わず見とれる。
欄干には秋茜(あきあかね)。
案内板に鳥の解説があるが周囲に鳥の気配は感じなかった。
素敵な苔岩。この日のベストショットの一つ。
少し動きのある流れになってきた。
ツキヨタケというキノコ。今回はお目にかからなかった。夜に歩くこともないからなかなか会うことはかなうまい。
川面の石を漱(すす)ぐ流れ。
ブナ林の世代交代について簡単にふれているが実際にはかなり複雑な要素が絡まり合って進むらしい。(cf.若きブナが生まれるまでの物語 OFM 奥入瀬フィールドミュージアム 魚拓)
羊歯(しだ)の大群。
はじめ栗の実かと思ったが栃(とち)の実のようだ。あたりにイガが見当たらないのでたぶんそうだ。
「上北三八」とあるが「上北」は十和田市・三沢市・上北郡を「三八」は八戸市・三戸郡を表し「下北」(むつ市・下北郡)と合わせ南部地方(江戸期の南部藩の一部)をなす。奥入瀬渓流は十和田市に属する。
先程の道標から2kmほど歩いたようだ。
こちらは木造りの通路が少し高いところに渡してある。
手摺りには苔。葉は楓(かえで)だろうか。
豊かな水。森の蒼(あお)。木漏れ日。
ニホンカモシカ。長野ではふつうに道でカモシカとすれちがったがこの旅でお会いすることはなかった。
木の幹に蔦が這い川面の岩の上に木が生え聳(そび)える。
森の中を川が流れるのではなく川の流れの中に森があるようだ。
水は時に流れの途中で分岐しまた合流するを繰り返す。石の上に草木が生い茂り中州をなすのが至るところ見られる。
流れを背景に草葉の緑・樹皮の黒白・スッと立つ若木・身をくねらせる老木・水に横たわる倒木が次から次と新しい景観を生み出す。
遊歩道は時々車道に出る。
激しい流れ。ここで水は白くなり岩を揉み岩に揉まれながら進む。
「岩の上の植物 ここから上流側には大きな支流がなく、渓流を下る水のほとんどは十和田湖から流れ出たものです。そのためどんな大雨でも増水することはまれで、川の中の岩はどれにも植物が生え、奥入瀬特有の景観を形づくっています。岩の上にはヤマツツジやムラサキヤシオ、ホツツジ、アオダモ、コミネカエデ、タニウツギなどが見られます。」とある。水上の岩の上に咲く花とは何とも面白そうだ。
倒木が流れを堰(せ)き止め水は迂回して新しい流れをつくる。流れのあちこちで事件は起こり渓流は多様な景観を呈する。
森の果てから水は静かに渾渾(こんこん)と流れてくる。こんな景色は見たことがない。見たことがあるとすれば夢の中でだ。
新緑の季節にはエゾハルゼミ盛夏にはエゾゼミ・アカエゾゼミ・コエゾゼミの声が聞かれるという。セミの名称中の「エゾ」からこの地の蝦夷との関係の深さがうかがえる。
浅瀬では水は滑るように流れる。驚くほど静かだ。透明な流れに手を浸してみる。
静かだ。
岸辺の岩にも苔がついており木漏れ日で日向ぼっこしている。
再び流れが激しくなる。
流れはやや狭くなり視界には苔生(こけむ)した岩・蔓や灌木の緑・ブナの樹皮の白が交錯する。
流れる白の水飛沫(みずしぶき)・苔生(こけむ)す岩の緑と黒・青草の繊細な曲線・水辺を這う樹皮の黒・悩ましげに手を伸ばす樹の根の群れ。
流れが激しいところでも川面の岩には苔が生えている。先の説明板にあったように十和田湖の水が調節されて流れ込むこの川は大雨でも増水しないため流れの中の岩には草どころか木さえ生える。この川の独特の眺めだ。
草木が生い茂る巨岩がゴリラに見えた。
不意に大きな岩がゴロリと転がっている。太古の昔火山の噴火によってできた土地。国立公園に指定されていることもあり往時の姿を今に留めているだろう。
美しすぎる。
夢の風景。
浅瀬は音もなく滑らかに流れる。この時私は無音の世界にいた。
石ヶ戸の休憩所に到着。11時12分。焼山から1時間40分。遊歩道を5kmほど歩いたことになる。
(その2につづく)
20240901 奥入瀬渓流を歩く(その1)ー渓流館〜紫明渓〜石ヶ戸-青い森への旅の記録03
付記
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