ここ数年は本当に行きたいところへ行けなかった。本当は湖畔で避暑をしたかった。その第一候補が十和田湖だった。十和田湖を調べていて奥入瀬を見つけた。奥入瀬はなんとなく聞いたことがある程度の未知の土地だったが調べて見ると渓流のある魅力的な地だった。しかしそこへの経路を調べると旅行の計画が立てにくかった。東京方面から奥入瀬に行くだけで半日かかるので初日は移動で終わらざるを得ない。また宿もこれがという適当なところが見つからない。奥入瀬と十和田湖を歩くだけなら安宿ボロ宿で構わないが湖畔の避暑は洋室がいい。エレベーターはほしい…etc。それにしても当地の宿泊事情がつかみにくかった。ネットで調べても営業しているのかどうかすら不明な宿が多かった。奥入瀬から十和田湖への移動も手探りだった。奥入瀬渓流の約14キロを歩くのに荷物はどうするのか。歩いた後に次の宿にどうやって移動するのか。バスはどれぐらい便数があるのか。全部が全部が予定が立たなくてもある程度の目途はつけなければならない。彼の地に行ってヒッチハイクや野宿は自分はよいとしても周りに迷惑をかける恐れがある。そんなわけで十和田湖行は断念して昨年(2023年)は鰺ヶ沢に行ったのだ。さらに遡(さかのぼ)れば2015年の田沢湖への旅も同じ経緯だった。そういう意味では今回の奥入瀬・十和田湖への旅は10年越しの念願だった。
さすがにここまでくれば夏でも涼しいだろうという湖畔の避暑をしたかったのだ。
とはいえ今回も計画立案には苦慮した。当初は8月初旬を考えていたが仕事の上でも私事においても都合が邪魔し結局一度立てた旅程を一旦破棄して再度計画を練り宿と列車の予約を取り直した。
そうして迎えた旅行初日8月31日。折から台風10号が西日本から超スロースピードで東進してきていたのでその雨で新幹線が止まるのではないかとヒヤヒヤしつつ通常ならそんなに早く出ないのに東京駅へは新幹線の発車時刻1時間前には到着するよう自宅を発つつもりだったが例によって何やかやしているうちに少し遅れ気味に自宅を出たのである。
6時30分自宅発。6時35分平野発川崎市営バス生田駅行に乗車。6時39分生田駅南口着。6時54分生田発小田急線各駅停車新宿行に乗車。生田の空は薄曇りである。
6時58分登戸着。7時00分同駅発小田急線快速急行新宿行に乗車。7時15分新宿着。7時24分新宿発JR中央線快速東京行に乗車。7時38分東京着。8時18分東京発JR東北新幹線はやぶさ7号に乗車。座席はけっこう混んでいた。
9時48分仙台着。仙台で用事を済ませ10時41分仙台発はやぶさ11号に乗車。
昨年も通った仙台から北の風景が懐かしい。
たぶん盛岡駅。
いわて沼宮内(ぬまくない)駅。
二戸駅。
12時01分八戸駅に到着。
宿の送迎バスまで時間があるので駅の待合室でお弁当を食べながら時間を潰すことに。
待合室は軌道上にあり通過する新幹線車両を望むことができる。
東山魁夷の絵画『緑の詩(A Poem of Green)』が飾られていた。
鎌倉・南北朝期の国宝の鎧(よろい ※レプリカ)が展示されていた。
八戸は旧南部藩にあたり南部馬の名産地でもあるらしい。
是川遺跡は縄文時代晩期の遺跡。2021年(令和3年)に「北海道・北東北の縄文遺跡群」として世界文化遺産に登録されている。
これが青い森鉄道かしら。
八戸三社大祭は300年以上の歴史を持つ祭り。えらい盛り上がってそうである。
「八戸えんぶり」は伝統芸能の舞で「烏帽子」(えぼし)をかぶって踊る祭り。
「震災復興祈願の像」。東日本大震災の復興を祈念し是川遺跡の土偶(国宝)をモデルに造られたとのこと。
蕪島(かぶしま)はウミネコの繁殖地だそうである。
八戸はあまりよく知らなかったがいろいろと盛り上がっているようだ。
そうこうしているうちに送迎バスが来たので乗車し13時30分奥入瀬に向かう。八戸から内陸方向に1時間30分ほど西進。はじめ少し雨が降っていたがやがてあがった。初めての土地なのでわからなかったがおそらく奥入瀬川沿いに走ったのだと思う。
尚このバスは宿の無料送迎バスでこれを利用しない場合JR東北バス「おいらせ号」に乗らなければならない。時間は同じぐらいだが奥入瀬渓流の入口である焼山(やきやま)まで運賃2000円で十和田湖の休屋(やすみや)までだと2時間30分で3000円程かかる(いずれも八戸駅から)。奥入瀬の焼山あたりで無料送迎バスがある宿は私が調べた限り二つだけでこれが宿を決めた理由の一つである。
15時頃「奥入瀬 森のホテル」に到着。(例によって写真を撮り忘れたので下の1枚は翌朝撮影のもの。)
エントランスでこのワンコ人形を見てああ森の緑を強調しているのだなと思ったがそれだけでないと知るのは少し後になってからのことである。
チェックイン。
入室。部屋が広い。公式サイトで35平米以上あるとの表記を見てホントかなあと思いつつ予約したがホントに広かった。建物自体は新しくはないがしっかりしていて清潔感もある。調度もくたびれ感のないしっかりした感じのものだった。外は緑が見えるのみで静かである。
とりあえず喫煙所で煙草を一本吸った。屋外であるが何か緑の「気」が充満していてその「緑の圧力」とでもいうべきもので煙草を吸う気が無くなるというか煙草を吸うのが苦しく感じられた。それで一本の半分も吸わないうちに煙草を消した。「こんなきれいな空気を吸わないのはもったいない」とか「緑の豊かな香気を味わわないことに罪悪感を覚える」とかではない。緑の何かが横溢していることに向かわざるを得なかった。奥入瀬の先制パンチを喰らった感じである。
緑の洗礼を受けた後は温泉の洗礼を受けに来た。こちらは八甲田山麓の猿倉温泉の源泉だそうである。サウナ・水風呂・露天風呂と一通り揃っていて楽しめるお風呂であるが個人的には「温泉」というだけで満足である。
夕食はレストランで。奥入瀬ビールはきれいで爽やかなキリッとした味わいで美味しかった。やはり水がいいのだろう。
料理はフランス料理のコースで地の物を活かしたメニュー。浪岡は津軽平野東部の地域(青森市)。新郷村は青森県三戸郡の村でかつての南部地方に位置する。竜飛(たっぴ)は津軽半島北端の岬(みさき)。竜飛岬は地図上では龍飛崎(たっぴざき)と表記される。鮴は「めばる」。
日本酒は4種類ぐらいいのがあったが聞いたことのないこれを選んだ。飲むとフルーティな中に米の旨味とナッティな香り(桑の実?)がする。やや濃醇だが後切れがいい。個性的で美味しいお酒であった。調べると鳩正宗(はとまさむね、十和田市)が造る地元飲食店向け限定ブランドらしい。レア。これは初日から美酒に出会えて幸いである。
料理はどれも素材を活かしていて楽しめた。特に美味しいと思ったのは県産牛もも肉のグリルだったが写真を撮り忘れてしまった。食べることに集中すると他のことができなくなる。それだけ美味しかったということ。日本酒もしかり。日本酒のセレクトを相談したギャルソンさんにお薦めいただいた「蒼川おいしかったです!」と言うと彼も嬉しそうに笑った。
この晩は早く寝た。前晩2時間程度しか眠っていなかったのと翌朝の奥入瀬渓流14キロハイクに備えてである。
* * * *
翌早朝。目覚めた。午前3時半ころである。窓の外を見た。驚いた。青黒いキャンバスに大量の宝石をぶちまけたような夜空が広がっていた。一番親しみのあるのはオリオン座だがそれだけではない。空にはこんなに星があったのかと思われるほど。この地は標高400メートルほどだからそれほど空気が薄いわけではない。それでもこれだけの数の星が見られるのか。しばらく見とれた後にカメラに収めたが三脚がなかったのでまともに写っているものはなかった。しかし明け方までこの夜空のショーを楽しんだ。(↓の写真ではもう夜が明け空が白み始めている。)
二度寝して5時半頃起床。館外散策をして入浴。朝食をとりチェックアウト前に館内散策。
朝食はスタンダードな洋食。こちらは夕食・朝食共にバイキングではないので個人的にはうれしい。
こちらの喫茶室は時間がなくて利用しなかったができればここでゆっくりお茶したかった。
この日は奥入瀬渓流ハイクに出かけるため午前8時にはチェックアウト。宿の人に相談すると無料送迎バスで奥入瀬渓流のスタート地点である奥入瀬渓流館まで乗せていってくれるという。これもうれしい。
静かで星空の美しい素敵なお宿で奥入瀬ハイクに向けて英気を養うことができた。お世話になりました。本当はもう一晩泊まりたかったが予約できなかった(お休みだったらしい)。次は二晩ぐらい泊まりたいなと思う良宿であった。
そんなわけで奥入瀬渓流に向けて宿を発つ。
青い森への旅の滑り出しはこんなふうだった。
20240831 奥入瀬 森のホテルへー青い森への旅の記録01ー
付記1
JR東北バス「おいらせ号」は季節によって一日の便数が異なる。現在(2024年11月)は一日2往復であるが私が行った8-9月は一日4往復はあったと思う。最後の便が15時台に十和田湖(休屋)着なので早めに移動しなければならないが奥入瀬渓流沿いの停留所を利用する場合は青森駅発の「みずうみ号」も一日7便ほど通るので奥入瀬ハイクの際はこれも利用できる。尚今年2024年については運行は11月中旬まででそれ以降は翌年の春まで八戸から奥入瀬・十和田湖へのバスの運行はなくなる。
付記2 奥入瀬 森のホテルについて
ネット情報で元々「かんぽの宿」であったものがリニューアルしてホテルになったという情報を見たので調べて見ると2005年3月末閉鎖の「十和田保養センター」が「奥入瀬 森のホテル」として営業とwikiにあった(wikipediaかんぽの宿20241116閲覧 魚拓)。そもそも「かんぽの宿」とは旧郵政省時代に郵便局の簡易保険加入者を対象とした宿泊可能な保養施設・老人福祉施設であり基本的に「福祉施設」であったが郵政民営化に伴い売却・閉鎖されたのである。部屋の贅沢な広さ立地の良さリーズナブルな料金はこんなところに起因するのだろう。
付記3
つぶやいていない曲。
Gigi Perez - Sailor Song (Official Music Video)
Bright Eyes - Art Garfunkel
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