KERC活動日誌

柏アーリー・リコーダー・コンソート
古楽リコーダーアンサンブルの日々あれこれ

ジョーバン・バロック・アンサンブル第18回演奏会「甘き響き~ダルシマー,リコーダー,チェンバロによるアンサンブル」 レポート

2017-05-04 05:30:00 | 演奏会の紹介/報告 2016~
昨4月29日に柏市・中村順二美術館において開催された、ジョーバン・バロック・アンサンブル第18回演奏会「甘き響き~ダルシマー,リコーダー,チェンバロによるアンサンブル」の模様をレポートいたします。
 
今日の演奏会は常連楽器のリコーダーとチェンバロに、バロックの合奏で使われることは極めてめずらしいハックブレットが加わってのアンサンブル。出演者とそのプロフィールについてはこちらをご参照ください。
 
~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~

耳に馴染んだ名曲がハックブレットが加わることでどのように響くのか、非常に楽しみで、この日を心待ちにしていた。
会場の中村順二美術館の1室は、幹線道路に面した約50名収容の細長なサロンで、当日は端午の節句にちなんだ展示が所狭しと施されていた。
 
 
コンサートは14:00、鴨川先生のオープニングMCの後、D.Ortiz(c.1510-c.1570)の「《幸せなわが眼》によるレセルカーダ 第2番」で幕開き。まずはダルシマーとチェンバロのデュオ。
木製の箱に金属弦を張った同属の楽器だけあり、よく音が融け合う。残響のある音が耳に心地よい。
鴨川先生がこの日使用したチェンバロは、ダルシマーの音量に合わせてチョイスしたもので、初期イタリアンスタイルの軽い材質でできた「よくしゃべる」楽器とのこと。音色、音量とも会場のサロン的な雰囲気、空間によくマッチしており、さすがの選択と感心した。
 
ここでリコーダーが加わり、同じくOrtizのパッサメッツォ・モデルノを演奏。華やかな曲調でリコーダーが軽やかに歌い、オープニングにふさわしい1曲だった。
 
続くダルシマー奏者の小川氏によるMCは、ハックブレットという呼称や歴史、そして意外に身近な楽器であることを解説。要点は以下のとおり。

・ダルシマーは台形の箱に張った金属弦を木のばちで叩いて音を出す「打弦楽器」の1つで、イタリアでは「サルタリオpsaltario」、ドイツ、スイスでは「ハックブレットHackbrett」、英米では「ハンマー。ダルシマーhammered dulcimer」、東欧では「ツィンバロムcimbalom」、イランでは「サントゥールsantour」、中国では「揚琴(やんきん)」と呼ばれる。
・ハックブレットとはドイツ語のhacken(みじん切りにするの意)+brett(板)に由来しており「まな板」を意味する。
・ダルシマーdulcimerは、ラテン語のdolce melos(甘美なメロディー)が語源らしい。今日の演奏会のタイトルはこれにちなんで命名。
・一般にはあまり知られていない楽器かもしれないが、音は結構耳にしている。火曜サスペンス劇場のデラララ~ンという不吉な響きの不協和音や、映画「犬神家の一族」、久保田早紀の「異邦人」、NHK連続ドラマの「花子とアン」「あさが来た」などの曲にも、印象的に使われている。
 
この日小川氏は、ドイツ製のハックブレットのほかに、中型のバロック・サルテリオ(イタリア製の1750年台のレプリカ)、小型のダルシマー(中世に使われていたタイプで、2本ずつの金属弦が張ってあるが、本来はガット弦)の計3台を持ち込む力の入れよう。すべて音律が異なる調整で、実際に曲を弾きながら違いを聞かせてくれた。

・まずピタゴラス音律に調弦した中世のダルシマーによるサルタレッロ saltarelloの独奏。サルタレッロは中世イタリアの3拍子の舞曲。
 
・次にバロック・サルテリオとリコーダーのデュオで、G.P.Telemann(1681-1767)の「デュオ」より第2楽章。
サルテリオの紡ぐ冷涼な空気感のアルペジオと、リコーダーの物哀しくも甘く温かい音色とが対照的な響き。
1楽章のみの演奏であったが、できればもっと聴きたかった。このテレマンのチョイスはテレマン没後250年というメモリアル・イヤーにちなんでのことか。
 
続いて小川氏はハックブレットに移動し、ファエンツァ写本より「コンスタンツィア」を演奏。
内省的な旋律が、永年の人の営みに摩耗した石畳みの上を流れていくイメージを喚起する、そんな静謐な音の連なり。
 
ここで鴨川先生と入れ替わり、J.J.Froberger(1616-1667)の「組曲 第30番 イ短調 《憂鬱を晴らすためにロンドンで作曲》」(
Plainte 《嘆き》- Courante - Sarabande - Gigue)のチェンバロ独奏。
 
前半の最後を飾ったのは、J.J.Quantz(1697-1773)の「トリオ・ソナタ ハ長調」よりAffettuoso - Vivace。有名な聞きなれたフレーズをハックブレットが奏でる新鮮な響き。よく歌うリコーダーとハックブレットをチェンバロが安定感抜群の演奏で支える。
ちなみに、クヴァンツには、フルートの名手であったフリードリヒ大王の演奏に彼だけが拍手をしてよいという、彼のみに与えられた特権があった、と高橋先生のMC。これは、難しいパッセージに差し掛かったところでミスしそうな時に大きな音で拍手して、王を励ます(ミスを聴こえにくくする?笑)意図があったという。
 
 
ティータイムを挟み、コンサートは後半へ。後半最初は今日もっとも期待していたF.Couperin(1668-1733)「恋のうぐいす」のリコーダーとハックブレットとのデュオ。
ハックブレットの繊細な音が夜更けの静寂に澄明な夢を描き出しているよう。それにつけても名演奏に水を差す交通騒音が残念。
高橋先生は、昨年の山野楽器リコーダーフェアでのミニコンサートでもこの曲を演奏されていたが、体調のすぐれなかったその時の演奏が恋の痛みを切々と歌うがごとく聴こえたのとは対照的に、今回は恋の歓びを朗々と歌っているように感じられた。
 
次のJ.Oswald(1710-1769)の《四季の歌》より「スノードロップ」はAffettuossimo - Gavottaという構成で、Affettuossimoは明日香先生も他の曲で見たことがないという、Affettuosoの最上級の表記。
スノードロップには恋の恨みを表す花言葉があるとのことで、Affettuossimonoの美しくも切なげなメロディが印象的。
チェンバロのストップを使った伴奏がリュートあるいはテオルボにも似て、ハックブレットのきらびやかな音色と好対照をなし、すばらしい効果をもたらしていた。
 
続いて、B.Marcello(1686-1739)の「リコーダー・ソナタ ニ短調 Op.2-2」(Adagio - Allegro - Largo - Allegro)では
第1楽章と第2楽章、第3楽章と第4楽章をそれぞれattacca気味につなぎ、対照的に構成。
この曲は高橋先生が中学校受験の際に演奏した思い出の曲とうかがったことがある。そのためか、随所にディミニューションが挿入され、楽器の鳴りも本日一番であったように感じられた。
 
プログラム最後となるE.F.dall'Abaco(1675-1742)の「トリオ・ソナタ ト長調 Op.3-11」(Grave - Allemanda- Ciaconna)では、クヴァンツ同様鴨川先生の盤石のチェンバロの上でリコーダーとハックブレットのインタープレイが闊達に展開され、スケール感の大きな躍動感のあるチャッコーナでプログラムを締め括った。
 
満場の拍手に応えてアンコール。曲はアイルランド民謡の「わたしのかわいい子牛ちゃん」。
ハックブレットとチェンバロの淡い哀感を帯びたアイリッシュな響き。そしてリコーダーの情感に満ちたメロディが会場の空気を震わす。
こうして名残惜しくこの日のコンサートは幕を閉じた。
 
[記:べ]
コメント    この記事についてブログを書く
« 5月、6月 日程と会場 | トップ | プロが教える!リコーダー上... »

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

演奏会の紹介/報告 2016~」カテゴリの最新記事