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「ミシンと金魚」 永井みみ

2025年02月02日 | 本 レビュー

「ミシンと金魚」2024/5/21

永井みみ

第45回すばる文学賞受賞作

主人公は認知症の女性、安田カケイさん。一人称で語られる話は、最初ちょっと読みづらいかな?と思いつつ、160ページとあまり長くないので、あっという間に読み終えました。母が自分を産んですぐに死に、夫が子供を置いて蒸発し、赤ん坊を背負いながら毎日毎日ミシンを踏んだこと・・・

話には引き込まれるものがあったのですが、読後感はあまりよくありませんでした。アマゾンや他のカスタマーレビューをを読んでいると、感動しましたとか、泣きましたとかあって、星の数も多いのですけれど、私は違いました。

あまりにも不運を詰め込んだ内容に、気持ちは暗くなるし、もう少し希望があってもいいのではないか?死んだ息子の妻からの仕打ちもひどいし、デイサービスで、恋愛沙汰に巻き込まれるシーンなど、もうお腹いっぱいって感じでした。

どうにもモヤモヤする読後感の正体はいったい何だろう?と考えこんでしまいました。フィクションとはいえ、介護士が通院同行で、医師に薬について意見するところとか、デイサービスで起きた事故を改ざんする場面など、うーん、それってどうなんだろう?と違和感を感じました。そもそもデイサービスで、介護士がカケイさんに「カケイさんは米山さん(男性)がすきなんですよね」。と詰め寄る場面。米山さんが「アイラブユー」というと、介護士2人が歓声をあげるって・・・場を盛り上げるためなんですか?何かいやな気持ちになりました。

P153

しみじみ、おもう。

わるいことがおこっても、なんかしらいいことがかならず、ある。

おなし分量、かならず、ある。

 

人生の最期に、このように思えることは幸せなんでしょうか?私はどうもしっくりきませんでした。本人がそう思うのならそうなんでしょう。でも、どうみても同じ分量だとは思えないんですけどね。夜寝るとき、あしたの朝、目が覚めなきゃいいのにと思っていたカケイさん。苦しかった毎日からの解放は「死」ということになる。それもなんだかなぁ・・・誰でも最期は死にますが「死」が救いとなるっていうのが、なんだか悲しかったです。

ただ、昔一緒に暮らしていた犬2匹がリヤカーを引いてお迎えに来るシーンは素敵だなと、そこはペットと長いこと暮らしてきた私には共感できました。