今日も元気さんぽ俳句メシ

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春愁ふ

2021-02-22 13:25:40 | 日記



              恋しき子犬の匂ひや春愁ふ





              捨て子犬抱きし学舎や春愁ひ



 小六の時、校庭に子犬がどこからか迷い込んで来ました。
飼い主らしき人は見当らず、みんなでワイワイ囲んで抱き上げたりしては子犬と遊んでいたのです。
やがて始業のベルが鳴り、みんなは教室に戻りました。
誰もいなくなった校庭にぽつんと残された子犬を見ると、僕は少し迷ったものの、抱き上げて教室に戻りました。多少の不安も抱いて。
やがて先生が教室にやって来て、教室の後ろの方でよちよちしてる子犬に気がつきました。
気づいて、ちょっと驚いた先生の様子にクラス中が盛り上がります。先生の顔の反応に。
「子犬どうしたの?」と訊いたと思います。するとすぐに誰かが「校庭に迷い込んで来た捨て犬みたいです。」と説明しました。
先生はそれを聞くと「そうか。」と独り言のように言いました。それから、窓からの午後の日に照るポマードの髪の横顔に、「どうしたものか。」といった表情を見せました。クラス中が先生の言動を成り行きをじっと見守っています。この時、僕は咄嗟に「家で飼います。」と赤面しつつ言ったのです。
「えっ」と言った表情を見せた先生は、前列の僕の机の前に来ながら「〇〇君が飼うのか。」とすぐ前に来ると顔を近づけて嬉しそうな顔をしました。ワーワーと熱気と活気のクラスメイトの声の中で。

 子犬を抱いて2,30分の道のりを歩いて帰り着くと早速、祖母に見せて犬小屋になるような木の箱を探しました。
少し手を加えてみすぼらしいながらも犬小屋らしくこしらえました。名前は何にしようかと、祖母にも訊きながら考えました。
祖母は、母が仕事から帰ってきて見たら何と言うだろうと心配しながらも見守ってくれました。
僕と子犬との一番しあわせな時間でした。あまりにも短いしあわせなひとときでした。
翌日、授業が終ると、早く逢いたい気持ちで息せき切って走って帰って来ました。
だけど、子犬が見当りません。庭にも畑にも縁の下にも、どこにももういなかったのです。

「家が貧しいのに犬を飼える余裕なんか無い。」と言うのが母の理由でした。
あとからあとから出て来る涙に、空っぽの犬小屋に浮かぶ子犬の姿が滲んで仕方ありませんでした。


     春かなし忘れ得ぬ子犬の匂ひ







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