そしてミヒが黙ってソファに座ると、目も合わせずに立ち上がって窓辺に行って、黙って外を見ている。ミヒは淡々と言った。
「ユジンが私のこところに来たわ。」
するとチュンサンは驚いてミヒを振り返ったが、すぐにまた外を見始めた。
「あなたの気持ちはよくわかるわ。」
チュンサンは氷のような声で言った。
「わかる?へぇ、わかるんだ。」
ミヒは大きくため息をついた。
「やめろよ」
チュンサンは大きな声を出したが、顔は外を見つめたままだった。ミヒはもう一度大きなため息をついて言った。
「とにかく、彼女と別れなさい。今すぐ別れるの。これ以上長引くと二人共もっと辛くなるでしょ?」そして立ち上がってチュンサンの近くに行こうとした。
「もしあなたが言えないなら、私がユジンに話すわ。」
すると今度こそ、チュンサンはミヒを振り返った。その顔には苦痛と悲しみが浮かび、目には涙を浮かべていた。しかし、ミヒは決して手綱を緩めなかった。
「なぜあなたたちが決して結婚できないのか、私が話すわ。」
「やめて」
「いいえ、話すわ」
「絶対にダメだ。ユジンには言わないで。ユジンはきっと耐えられない。」
チュンサンは懇願した。ミヒはチュンサンの顔を見て悟った。ああ、この子は本当にヒョンスの娘を心から愛しているのだ、求めているのだと。それは、ミヒが全身全霊で求めたのに、決して得られなかったヒョンスの愛を思い出させた。ユジンは最愛の息子まで奪っていく。ミヒはユジンが憎くてたまらなかった。彼と大嫌いなあの女の子供だというだけで。あの一家をずたずたに引き裂いてやりたかった。チュンサンをかわいそうに思う気持ちが急速に萎えていく。自分の声が地獄から湧き上がる魔王のように思えた。
「じゃあ、今すぐ決めなさい。別れる?それとも私がユジンに理由を話す?チュンサン?」
ミヒは10年前チュンサンから受けたあの視線を再び感じた。孤独、怒り、悲しみ、絶望、あきらめ、そして憎しみ、、、。でも、今度は私も負けない、許すわけにはいかない、ミヒは腹をくくった。
チュンサンは心の底から絞り出すような声で言った。
「、、、別れるよ、、、。」
その顔には底なしの絶望が浮かび上がった。ミヒはその言葉を聞くと、安どのため息をついて静かにマンションを後にした。後に残されたチュンサンは崩れ落ちるように再び座り込んで涙を流した。もうどこにも希望という文字は残っていなかった。
アパートの自室に戻ったユジンは、泣き疲れて眠ってしまった。そんなユジンの携帯に、待ち望んでいた電話がかかってきた。相手はチュンサンだった。チュンサンは余計なことは一切言わずに、今下に来てる、と言って電話を切った。ユジンはうれしくて、泣きはらした顔のまま、急いで外に降りて行った。たった一日会えなかっただけなのに、まるで何年もあっていなかったかのように恋しかった。顔を見ると涙があふれて止まらない。チュンサンには何をされても許してしまう自分がいる。それなのに出た言葉はたった一つ。
「何よ?」
つい素直になれなくて、強がってしまった。
チュンサンはユジンの顔を見て心が痛くて仕方がなかった。ユジンが昨夜から不安でどれだけ自分を求めて探し回ったか、心配で怖がっていたかが一目見て分かったからだ。
「ユジン、、、」
「私がどんなに心配したかわかる?」
「ごめん」
チュンサンの顔はとても静かで痛みに喘いているようだった。
「連絡も取れないし、どこに行ってたの?」
「いろいろあって」
「何があったの?」
「大したことじゃないよ。」
「私には話せないこと?」
「そうじゃないよ。でも、ちょっと複雑で。でももう全部終わったから大丈夫。」
「それじゃ、もう私は心配しなくてもいいのね。」
「、、、そうだよ。もう何も心配ないから。」
無表情でそう言うチュンサンを前に、ユジンはぽろぽろと涙を流した。なぜか大丈夫という言葉が、全く意味通りには聞こえずに、ただただ悲しくてたまらなかった。ユジンは急いで涙を手の甲で拭うと言った。
「わかったわ。無事に戻ってきたから許してあげる。」
ユジンが言うと、チュンサンが愛おしそうに、ユジンのほほの涙をそっと指で拭った。チュンサンはそのままユジンを強く抱きしめた。
1日ぶりのチュンサンの胸は温かくて、懐かしいにおいがした。ユジンは思わず、両手で強くチュンサンを抱きしめた。ずっとこのままでいたかった。このまま彼と別れてしまうのは嫌だった。すると、その気持ちがチュンサンにも伝わったのか、チュンサンが言った。
「ユジン、今から海を見に行かない?」