ユジンは降り注ぐ太陽の光で目を覚ました。ねぼけたままとのなりの布団を見ると、チュンサンの布団はきれいにたたまれており、棚の上に会った彼の荷物がない。
ユジンは、はっと起き上がって急いで外に出た。すると、民宿の前に一人の男性が立っているのが見えた。ユジンはチュンサンかと思って期待してみたが、振り向くとそれはサンヒョクだった。サンヒョクは穏やかな目でユジンを見ていた。寝起きのすっきりしない頭では、なぜ彼がここにいるのかよくわからなかったが、チュンサンがいなくなったことだけは理解していた。
「サンヒョク、、、ねぇチュンサンはどこなの?ねぇどこなの?」
「チュンサンは、チュンサンはもういないんだ」サンヒョクがうつむきながら言った。
「うそでしょ?なんでチュンサンがいなくなるの?なんで?」
サンヒョクはあらかじめチュンサンと打ち合わせたとおりに告げた。
「チュンサンは、、、チュンサンはお母さんに絶対に君との結婚を許さないと反対されたんだ。もしも君と結婚するなら絶縁すると言われたんだよ。だから、これ以上君を悲しませることはできないと別れることにしたんだ。本当なんだ。君とは別れるって。君と二度と会うつもりはないって。君に伝えてくれと頼まれたんだ。」
別れを告げるサンヒョクもまたとても辛そうだった。ユジンの目からはとめどない涙が流れ始めた。
「うそでしょ?嘘よ。そんなはずない。信じられない。絶対信じない。」
そういうと、ユジンはやみくもに走り始めた。サンヒョクはそんなユジンを一生懸命追った。
やがてユジンに追いつくと、ユジンの腕をつかんだ。するとユジンは関を切ったように大声で泣き始めた。サンヒョクはそんなユジンをそっと抱きしめたが、ユジンはのがれようとサンヒョクの腕の中でもがく。しかし、次第にその元気もなくなってきて、最後は何も言わずにサンヒョクの腕の中で泣きじゃくるのだった。サンヒョクはそんなユジンを抱きしめて、途方に暮れたまま背中をさするしかなかった。
そのころ、サンヒョクの家では、母親のチヨンがサンヒョクを心配していた。息子が昨夜から戻ってこないのだ。チヨンはまたサンヒョクがユジンのところへ行ったのではないかと心配していたが、父親のジヌは今までの経緯を知っていたので、取り合わずに話を聞いていた。すると、チヨンはジヌをすっと目を細めて言った。
「あなた、何か知っていることがあるのね?」
ジヌは狼狽した。チヨンに出会う直前のミヒとのことをチヨンには知られたくない。知ったらチヨンがまた取り乱すだろう。ジヌは慌てて取り繕うと、そのまま書斎に入ってしまった。
そして、先日チュンサンの母親のカンミヒと喫茶店で話した内容を思い出していた。あの日、ミヒはよそよそしい様子で、ジヌを冷たい目でじっと見ていた。ジヌはそんなミヒに昔を思い出すように語りかけた。
「ヒョンス(ユジンの父)が結婚したころを思い出すよ。君はヒョンスが結婚したころに死のうとしただろ。あの日の夜を覚えている?あれからすぐに君は逃げるように去っていった。だからチュンサンは私の子だと思ったんだ。私から逃げるために行ってしまったのかと。」
しかしミヒは冷たい目をして言うだけだった。
「昔の話なんて聞きたくもないわ。」
「あの夜、あの夜にチュンサンはもうお腹の中にいたのか?」
「ジヌ?」
「ヒョンスを違う女性に奪われたから君は死にたかったんだとずっと思ってた。でも、彼の結婚を知った時には、君のお腹の中にはすでにチュンサンがいたんだね。彼はヒョンスの子だったなんて。だから死のうとしたってやっとわかったよ。この前チュンサンと話す機会があってね、それで分かったんだ。」
独り語りのように胸の内を話すジヌを見て、後ろめたそうな顔をするミヒだった。
二人はコーヒーを飲み終えると店を出た。この短い出会いの中で、ジヌは気持ちに整理をつけたつもりだったが、どうしても最後にミヒに聞きたいことがあった。
「ヒョンスを好きだったのに、なぜチュンサンを身ごもっていることを言わなかったんだ?彼を引き留めたかったんだろう?妊娠したと打ち明ければ、彼は結婚をやめて君のもとに戻っただろうに。」
すると、ミヒはジヌを憐れむような目で見つめた。
「ねぇ、あなたとヒョンスの違いがわかる?人は愛する者の言うことを信じるものだわ。あなたは私を本当に愛してくれたけど、彼は違ったのよ。それがあなたと彼の違いよ。」
そういうとミヒは謎めいた微笑を残して去っていった。ジヌはミヒが残した謎の言葉の意味が分からなくて、しばらく考えていた。そして気が付くとすぐ後ろにサンヒョクが立っていた。先ほど妻のチヨンに「帰ってきたら自分の書斎に来させるように」と言ったことをすっかり忘れていたのだった。ジヌはサンヒョクに聞きたいことがどうしてもあったのだった。