先日、小さなショックを受けてしまった。レストランで、ある男性と食事を共にしていて会話が弾んでいる最中、
「若いころ、と言うのは、やめてくれないか」
そう言われたのである。何度もではなく、たった一度、その言葉を口にしただけなので、エッと私は驚き、思わず彼の顔を見つめた。
怒っているわけでは、ないらしい。私がある食べ物のことを、
「若いころから、ずっと苦手で……」
と言った、その言葉に対してである。食べ物の好みは、年齢とともに変わることがあるが、その食べ物は長年、苦手で食べられない、と言いたかったのである。
それに対して、彼の言葉が全く意外だったので、私は、自分がキョトンとした顔つきの自覚があった。
そんな私を見て、彼は言葉を続けた。
「ぼくより年上の人間が、若いころ、と言うのは、かまわないんだ。だけど、自分より年下の人間が、若いころ、と言うと不愉快になる」
私は一瞬、言葉を失った感じで、食べている料理もワインも、味がわからなくなったほどだ。
彼は私よりかなり年上であり、別の業界の人で、知り合ったのは10年も前だが、食事を共にしたり飲みに行ったりするのは年に1度あるかないかという感じ。
ただし、電話がかかって、おしゃべりすると、決まって長電話になる。本をたくさん読んでいて、知的な職業についていて、いろいろ教えられることも多いので、尊敬もしていた。
けれど、そのことがあって、彼の一面をかいま見たような気がして、何だか失望してしまった。
(年齢差を忘れて友達みたいな話し方してたからかしら? 目上の人っていう意識が不足してたせい?)
(若い、という言葉があてはまるのは二十代までなのだから、大半の人間にとって人生では若くない時のほうが長くなるのに、その言葉にこだわるなんて……)
(若いころ、なんていう言い方は、長時間おしゃべりしていれば一度ぐらい出てくる、ありふれた言葉なのに……)
(しかも自分より年上の人間が、「若いころ」って言うのは不愉快じゃないって、どうしてなの?)
その夜は眠れないほど、彼の心理や感性について考え込んでしまった。
そう言えば、いつか友達が、〈年齢コンプレックス〉という言葉を口にしていた。自分が年齢を重ねていくことに、異常なくらい、こだわりを示す。他人との会話のやり取りで、年齢のことが出てくると、ナーバスになり、不快そうにし、話題を変えたり、皮肉や嫌味を口にしたり。
そんな〈年齢コンプレックス〉を秘めているのは、男性が多いと彼女は断言していた。
現代は、大半の女性が、美容に気を遣うし努力もするから若々しく見えて、周囲からも実年齢より若いと言われて輝いている。
ところが大半の男性は、さまざまな原因から精神ストレスが溜まっているため、疲れて老けて見える人が少なくない。
そんな男性たちは年齢を重ねることに不安を覚え、自信を喪失し、それで若さとか老いとかいう言葉に神経を逆撫でされるのだとも言っていた。
男は疲れていて、女は元気いっぱい、なんて茶化さないで、男性たちももっと恋をして胸のときめく時間を過ごし、若さと元気とエネルギーを取り戻して欲しい。
「若いころ、と言うのは、やめてくれないか」
そう言われたのである。何度もではなく、たった一度、その言葉を口にしただけなので、エッと私は驚き、思わず彼の顔を見つめた。
怒っているわけでは、ないらしい。私がある食べ物のことを、
「若いころから、ずっと苦手で……」
と言った、その言葉に対してである。食べ物の好みは、年齢とともに変わることがあるが、その食べ物は長年、苦手で食べられない、と言いたかったのである。
それに対して、彼の言葉が全く意外だったので、私は、自分がキョトンとした顔つきの自覚があった。
そんな私を見て、彼は言葉を続けた。
「ぼくより年上の人間が、若いころ、と言うのは、かまわないんだ。だけど、自分より年下の人間が、若いころ、と言うと不愉快になる」
私は一瞬、言葉を失った感じで、食べている料理もワインも、味がわからなくなったほどだ。
彼は私よりかなり年上であり、別の業界の人で、知り合ったのは10年も前だが、食事を共にしたり飲みに行ったりするのは年に1度あるかないかという感じ。
ただし、電話がかかって、おしゃべりすると、決まって長電話になる。本をたくさん読んでいて、知的な職業についていて、いろいろ教えられることも多いので、尊敬もしていた。
けれど、そのことがあって、彼の一面をかいま見たような気がして、何だか失望してしまった。
(年齢差を忘れて友達みたいな話し方してたからかしら? 目上の人っていう意識が不足してたせい?)
(若い、という言葉があてはまるのは二十代までなのだから、大半の人間にとって人生では若くない時のほうが長くなるのに、その言葉にこだわるなんて……)
(若いころ、なんていう言い方は、長時間おしゃべりしていれば一度ぐらい出てくる、ありふれた言葉なのに……)
(しかも自分より年上の人間が、「若いころ」って言うのは不愉快じゃないって、どうしてなの?)
その夜は眠れないほど、彼の心理や感性について考え込んでしまった。
そう言えば、いつか友達が、〈年齢コンプレックス〉という言葉を口にしていた。自分が年齢を重ねていくことに、異常なくらい、こだわりを示す。他人との会話のやり取りで、年齢のことが出てくると、ナーバスになり、不快そうにし、話題を変えたり、皮肉や嫌味を口にしたり。
そんな〈年齢コンプレックス〉を秘めているのは、男性が多いと彼女は断言していた。
現代は、大半の女性が、美容に気を遣うし努力もするから若々しく見えて、周囲からも実年齢より若いと言われて輝いている。
ところが大半の男性は、さまざまな原因から精神ストレスが溜まっているため、疲れて老けて見える人が少なくない。
そんな男性たちは年齢を重ねることに不安を覚え、自信を喪失し、それで若さとか老いとかいう言葉に神経を逆撫でされるのだとも言っていた。
男は疲れていて、女は元気いっぱい、なんて茶化さないで、男性たちももっと恋をして胸のときめく時間を過ごし、若さと元気とエネルギーを取り戻して欲しい。