ある会の後、久しぶりに会った親しい知人男性と、コーヒー・ラウンジでおしゃべりした。
「相変わらず、例の薬を飲んで、バラ色の人生を送ってるんでしょう?」
私は悪戯っぽく笑って、冷やかすように言った。昨年、50代半ばの彼に誘われて食事を共にした時、
「魔法の薬ができて、ぼくの人生が、またバラ色に輝き出したんだ」
と、個室ではないフグ料理店のテーブルの上に、ショルダーバッグからバイアグラの大ビンを取り出し、置いたので、私は慌てて、
「こんな所で、そんな物出さないで下さいッ」
人目を気にして恥ずかしく、そう言ったのを思い出したのである。
最近はあちらでもこちらでもバイアグラ。流行のその魔法の薬を、見せびらかしたり、飲んだ経験を話したりしては、女性たちの物欲しそうな顔(!)を期待しているようで、おかしくなる。もちろん女性の物欲しさはバイアグラに対してではなく、タフマンに変身可能な彼自身とわかっている。
ところが、その日、彼は私の冷やかす言葉にニヤリともせず、
「それが、このごろ、あの薬を飲まなくても、できるようになったんだ」
自分でも不思議だという顔つきで、そう言うのだ。
「あら、じゃあ、文字どおり治療薬だったわけですね。それで、持続力なんかもバッチリ?」
彼を見つめて聞き返した。すると、
「持続力……うーん、それがイマイチなんだよね」
と、正直な答え。
「それが肝心ですものね。男性にとっても。女性にとっても」
最後の言葉を強調して、いじめてみたくなった。
彼には長い期間の愛人がいて、彼女との心情的な関係を延々と語り続ける。わがままで浪費癖のある彼女を、愛しているから許してしまうと、ノロけている。
「でもね、女って、性的に満たされてないと、自分のわがままが愛人を困らせることで快感を覚えるのよね」
私は、断定的な口調で言った。
「うーん、なるほど、ベッドでの快感が不足のせいか……」
私より年上で人生体験も豊富な彼が、思案気な顔つきになるのを見て、内心、楽しくて仕方ない。
「性的に満たしてくれる愛人には、女って、わがまま言わないものだと思うわ」
「う~ん」
彼が悩める顔つきになるほど、私はひそかに喜びを味わった。
※カテゴリーの『女のホンネ』は、スポーツ新聞連載エッセイを加筆しました。
「相変わらず、例の薬を飲んで、バラ色の人生を送ってるんでしょう?」
私は悪戯っぽく笑って、冷やかすように言った。昨年、50代半ばの彼に誘われて食事を共にした時、
「魔法の薬ができて、ぼくの人生が、またバラ色に輝き出したんだ」
と、個室ではないフグ料理店のテーブルの上に、ショルダーバッグからバイアグラの大ビンを取り出し、置いたので、私は慌てて、
「こんな所で、そんな物出さないで下さいッ」
人目を気にして恥ずかしく、そう言ったのを思い出したのである。
最近はあちらでもこちらでもバイアグラ。流行のその魔法の薬を、見せびらかしたり、飲んだ経験を話したりしては、女性たちの物欲しそうな顔(!)を期待しているようで、おかしくなる。もちろん女性の物欲しさはバイアグラに対してではなく、タフマンに変身可能な彼自身とわかっている。
ところが、その日、彼は私の冷やかす言葉にニヤリともせず、
「それが、このごろ、あの薬を飲まなくても、できるようになったんだ」
自分でも不思議だという顔つきで、そう言うのだ。
「あら、じゃあ、文字どおり治療薬だったわけですね。それで、持続力なんかもバッチリ?」
彼を見つめて聞き返した。すると、
「持続力……うーん、それがイマイチなんだよね」
と、正直な答え。
「それが肝心ですものね。男性にとっても。女性にとっても」
最後の言葉を強調して、いじめてみたくなった。
彼には長い期間の愛人がいて、彼女との心情的な関係を延々と語り続ける。わがままで浪費癖のある彼女を、愛しているから許してしまうと、ノロけている。
「でもね、女って、性的に満たされてないと、自分のわがままが愛人を困らせることで快感を覚えるのよね」
私は、断定的な口調で言った。
「うーん、なるほど、ベッドでの快感が不足のせいか……」
私より年上で人生体験も豊富な彼が、思案気な顔つきになるのを見て、内心、楽しくて仕方ない。
「性的に満たしてくれる愛人には、女って、わがまま言わないものだと思うわ」
「う~ん」
彼が悩める顔つきになるほど、私はひそかに喜びを味わった。
※カテゴリーの『女のホンネ』は、スポーツ新聞連載エッセイを加筆しました。