一条きらら 近況

【 近況&身辺雑記 】

女のわがまま

2001年04月15日 | 女のホンネ
 ある会の後、久しぶりに会った親しい知人男性と、コーヒー・ラウンジでおしゃべりした。
「相変わらず、例の薬を飲んで、バラ色の人生を送ってるんでしょう?」
 私は悪戯っぽく笑って、冷やかすように言った。昨年、50代半ばの彼に誘われて食事を共にした時、
「魔法の薬ができて、ぼくの人生が、またバラ色に輝き出したんだ」
 と、個室ではないフグ料理店のテーブルの上に、ショルダーバッグからバイアグラの大ビンを取り出し、置いたので、私は慌てて、
「こんな所で、そんな物出さないで下さいッ」
 人目を気にして恥ずかしく、そう言ったのを思い出したのである。
 最近はあちらでもこちらでもバイアグラ。流行のその魔法の薬を、見せびらかしたり、飲んだ経験を話したりしては、女性たちの物欲しそうな顔(!)を期待しているようで、おかしくなる。もちろん女性の物欲しさはバイアグラに対してではなく、タフマンに変身可能な彼自身とわかっている。
 ところが、その日、彼は私の冷やかす言葉にニヤリともせず、
「それが、このごろ、あの薬を飲まなくても、できるようになったんだ」
 自分でも不思議だという顔つきで、そう言うのだ。
「あら、じゃあ、文字どおり治療薬だったわけですね。それで、持続力なんかもバッチリ?」
 彼を見つめて聞き返した。すると、
「持続力……うーん、それがイマイチなんだよね」
 と、正直な答え。
「それが肝心ですものね。男性にとっても。女性にとっても」
 最後の言葉を強調して、いじめてみたくなった。
 彼には長い期間の愛人がいて、彼女との心情的な関係を延々と語り続ける。わがままで浪費癖のある彼女を、愛しているから許してしまうと、ノロけている。
「でもね、女って、性的に満たされてないと、自分のわがままが愛人を困らせることで快感を覚えるのよね」
 私は、断定的な口調で言った。
「うーん、なるほど、ベッドでの快感が不足のせいか……」
 私より年上で人生体験も豊富な彼が、思案気な顔つきになるのを見て、内心、楽しくて仕方ない。
「性的に満たしてくれる愛人には、女って、わがまま言わないものだと思うわ」
「う~ん」
 彼が悩める顔つきになるほど、私はひそかに喜びを味わった。

 ※カテゴリーの『女のホンネ』は、スポーツ新聞連載エッセイを加筆しました。
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