第3章 経営危機の乗り越え方
資金繰りに困ったり、急激に売上が落ちてきたら、この章をお読みください。
(5) 【連動式財務三表】を作成して自社の問題を把握する
最初にやることはお金を借りてくることではなく、お金が出て行く事を止めること、すなわち「止血」です。そのためには今に至った根本的な原因を掴まなければなりません。
私が、事業の再生に取り組む際に最初にとりかかることは、クライアントから3期以上の決算書を頂いて【連動式財務三表】を作成することです。
【連動式財務三表】は私が考案した財務分析と問題・対策発見表です。簡単に言えば過去3年分と当期を含む未来5年分の貸借対照表(B/S)・損益計算書(P/L)・キャッュフロー計算書(C/F)が1枚の表で見れるものです。この表を作成することによってもうけた金がどこに行ってしまったのか、借りた金がどこに消えてしまったのかが手に取るようにわかる上に再建計画の柱のひとつ資産・負債対策が見えてきます。
また、経営再建現場で【連動式財務三表】の内容を説明する際に、貸借対照表や総勘定元帳の勘定科目ががなぜこの順番に並べられているのかを経営者の方に質問しながら現状把握しながら同時に対策を考えていただきます。私がデューデリ1をして、原因と対策を教える方が簡単なのですがそうはしません。というのも経営者になぜそうなるのかを会得してもらう必要があるからです。
たとえば、
貸借対照表の資産と負債と資産の関係を図で描いて説明し、
「貸借対照表の資産の勘定科目は現金に変わりやすいものから順番に並んでいるのですよ。ですから最初が現預金ですね。あなたの会社はこれがほとんどゼロに近いので資金繰りに窮しているのですが、その下には売掛金や商品在庫、その他立替金や未収金が結構ありますね。さて、どうしますか?」と問いかけると、
「売掛金を上の現預金に変えればいいんですね。売掛金や替金、未収金をチェックして、滞留している相手先にアクションを起こします。売上が減少しているのに、商品在庫がここ数年増えています。在庫の中身を精査して、現金化するようにします。」
などというよな答えが返ってきます。
このようにして、再建しながら経営者としての知識を知恵に変えていただくのが私のやり方です。
先に総勘定元帳も同じ順で勘定科目が並んでいると言いましたが、あなたは総勘定元帳をご存知ですか。「ああ、決算が終わったら会計事務所が持ってくる厚いファイルのことことだ。」という経営者ならまだしもですが、「そんなの見たこともない。」とか「税理士事務所が預かってくれている。」という企業がほとんどです。ところが、総勘定元帳は事業再生の対策の宝庫です。【連動式財務三表】の損益計算書で前年に比べて以上に旅費交通費が増えている場合、すぐに総勘定元帳でその科目をチェックします。損益計算書の順番通りに並んでいますので厚いファイルの中からでも簡単に旅費交通費が見つかるはずです。そこには期首から順番に旅費交通費の仕訳伝票が並んでいます。
【経営再建プログラム】ではこのような問答が繰り返し行われて、経営者自身が原因と対策を考え、実行に移していくことになります。その結果、財務諸表を数字ではなく、お金としてとらえ、同じ売上で最大の利益を出せる力が身についてきます。これが結果として経営者の経営能力を高め、内科治療となって企業の体質を健全企業に変えていきます。債務超過から【経営再建プログラム】を経て正常企業、健全企業さらに無借金企業に到る企業が高い確率で出てくる最大の理由です。
企業再生において第二会社方式の会社分割などの外科治療は非常に有効です。しかし、第二会社の実質経営者が前社長である場合、基本的な体質は変わってないのですから早晩再び経営危機に陥る可能性が大きいと考えます。
1 デューデリジェンスの略称。デューデリジェンスとは本来投資対象を詳しく調査することを言いますが、税理士や経営コンサルタントが使う場合は企業の財務内容を詳しく精査することを言います。
次回は、第3章 「経営危機の乗り越え方」 (4)【日繰り資金繰り表】を作れば対策が見えてくる です。
このブログ、「中小零細ファミリー企業版 『長寿幸せ企業』の実践経営事典2017」は井上経営研究所が発信しています。
井上経営研究所(代表 井上雅司)は2002年から、「ひとりで悩み、追いつめられた経営者の心がわかるコンサルタント」を旗じるしに、中小企業・小規模零細ファミリー企業を対象に
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