鞠子は自宅で座ってケイタイを右手で持ちながら、左手で洗濯物をたたんでいる。近づいてきたチワワがたたまれていた靴下を加えようとしていた。
「だめよ。ダメダメ」
ケイタイの相手の裕子の声がした。
「ダメなの?」
靴下を取り上げながら鞠子は
「何のこと?」
「旅行のことよ。ねェ、いいでしょう?」
「別に私に聞かなくたって。でも誰といくの?」
「初めての一人旅」
「えーっ」
「それは大丈夫。はじめは一人でも向こうに行けば沢山いるの」
「ああ、団体旅行ね」
「あのねェ、もう少しオシャレな呼び方あるでしょ」
「はぁ?」
「一千万円もかかるんだから」
鞠子はギョッとした顔になる。ケイタイの
向こうでピンポーンと鳴った。
裕子の自宅は二階。裕子は二階の玄関を開けながらケイタイを切った。
ドアを開けると宅急便屋がお辞儀をした。
「お兄さん、ありがとうねェ」
何束もの段ボールを宅急便屋が持っている。
「他にもあるんですけど、持ってきていいんですか?」
「お願い」
「お引っ越しですか?」
「昔の私とお別れするの」
「えっ?」
「いやねぇ。離婚じゃないわよ」
裕子ははしゃいだ。まるで子どものようだった。