裕子は銀座を歩いていた。
文房具屋さんに寄ってから銀座四丁目を目指す。突然銀座四丁目あたりでチャイムの音がした。小学校音? でも通っていた銀座の小学校のチャイムは確か違う。昼のごはんの12時だ。犬は体内時計を持っているけど人間だって同じだわと裕子は思った。特に戌年の鞠子は12時頃になると機嫌が悪くなる。
「鞠子ちゃんは銀座一丁目駅から歩いて四丁目に向かうのよね」
と裕子は思ってキョロキョロ眺めたら偶然鞠子を反対側に見つけた。犬みたいにお腹すかしている鞠子が小走りになった。
「鞠子ちゃん慌てないで転ばないで」
叫びながら鞠子のところに走り出した。クラクションの音がした。叫び声。
一軒家の二階。ガバっと飛び起きる裕子。 暖かい冬の朝昼。
慌てて電話に飛びつく裕子。受話器を取る鞠子に
「鞠子ちゃん、私、死んじゃったのよ」
「ママ、死んだ人は電話出来ないの」
「だって、銀座であなたを助けるためにひかれたの。雑誌に出るかも」
「その程度の出来事は雑誌に出ないの。忙しいからまたね」
切られた受話器にため息交じりの裕子。裕の大きな写真に目を移して、
「パパ、もう3年ね」
裕子が目を閉じれば走馬灯のように蘇る。写真を引っ張り出して、アルバムの中の過去に戻っていく。
「お姑さんはきつかったけど亡くなって。だけどすぐにパパを迎えに来ちゃった。私に取られたからヤキモチ焼いたんだわ」
ゆっくりアルバムを眺めて行くと写真もカラーから白黒に変わる。ふと目を止める裕子。クルーズ船に乗っている若い頃の裕。
「パパ、船ってステキ?」
「素晴らしいよ、いつか一緒に乗ろう、世界一周」
裕の写真を抱きしめる裕子。
「私、世界一周する。まだまだ死にたくないもん。しばらくはパパをお母さんに預けとくわ」
あふれる笑顔