裕子は自宅の二階外階段で開いた玄関に立っていた。階段を降りて行く宅急便屋に向かって大声で
「お兄さん、お兄さん、ありがとね」
という。
ちょうど外から自宅に戻ってきた聡せ美。
宅急便屋の車が遠ざかっていくのを見た聡美だが外階段に近づいて見上げると玄関から段ボールの束を入れている裕子が見えた。
外階段の下から聡美は
「お母さん」
ギョッとして下を見下ろす裕子。
聡美は見上げて
「お母さんが『お兄さん』って呼ぶから徹さんがいるのかと思ったわ」
「あらぁ、宅急便屋さんよ。ホントのお兄さんは大阪」
「あらぁ、今日は金曜日。徹さん帰ってくるわよ」
裕子はしまったという顔をする。
「お母さん晩ごはん今日一緒にしましょう」
「はーい」
といいながら段ボールを玄関から押し込む裕子。
徹の自宅一階に入った聡美は買って来た物を冷蔵庫にしまう。
裕子が外階段をパンプスで降りていく音がする。
チラッと上を見た聡美。
「今日もデパートね」
内階段をそっと上がっていく聡美。
裕子の自宅二階ドアを開けると山ごとの段ボールがあった。
夕方になって車を走る聡美。
新横浜駅では多くの車が並んでいる金曜日の夕方。
ロータリーで車の運転側に座っている聡美。聡美に向かって手を振りながら近づいて来る徹。
車内で運転している聡美と助手席の徹。
「あのね」
と言ってから聡美は何も言わない。
「えっ! 何か欲しいものあるの?」
「イヤね〜お母さんのこと」
「バァさんが何だって」
「どこかに行きたいみたい」
「どこへ」
「さぁ、でも段ボールが山ごと」
「何だよソレ?」
「お母さんの気持ちはわかるわ」
横の聡美をじっと見つめて
「転勤族やめようか?」
「そういうことじゃないの。女はみんな違う街に行ってみたくなるのよ」
首をかしげる徹。