21 浅野内匠頭
に登場した医師と裕子はバスに乗っていた。
医師はホテルのタクシーなら安心だと言っていたがスタッフに連絡したら反対されたらしい。タクシーでなくバスでと言われ しかもスタッフの二人も乗るといった。バスに乗っていたのはほとんど外国人。医師はバスの一番うしろの窓際に裕子を座らせた。もちろんその隣に座った。スタッフ二人は前の方に座っている。バスが走り始めてからずいぶん経っている。スタッフは船の客と医師が勝手にバスから降りてどこかに行ってしまったら大変だから前に座っているんだわ。もしスタッフが後ろに座ってグズグズしていたら二人がどこかに行ってしまう それを心配しているんだと裕子は妄想中。デートなんて言ってたけど何も言わないのねと医師の横顔を見つめる裕子。その時医師が裕子の方を見た。裕子はドギマギ。
「片山さん」
「はい」
あれ? さっきは片山裕子さんだったのに片山さんに戻ってしまっていた。
「片山さんのご主人のお父さまも医師でしたか?」
え!? これがデートの会話?
「サラリーマンでした ただ主人が小児麻痺にになってしまって よくなって歩けるけど走ることが出来なくなってしまったんです 医者になって子どもたちを治したいと思ったそうです」
「素晴らしい話ですね」
「先生のお父さまはやはり?」
「はい 高校に入った途端言われたけど嫌で嫌で でも母親に泣かれてね」
「お優しい」
「印度はカーストでね」
「カースト!?」
「意味は生まれです」
「あぁ 聞いたことあります 主人も印度にいたらお医者さんになれなかったんですよね」
「船に乗っていろんな国に来たのに意外と見物してなくて特に印度にはどうしても会いたい人がいて」
「初恋のインド人?」
「会ったことない人です」
「えぇ!?」
「昔のひとですよ」
それっきり医師は遠くを見ていて何も言わなくなってしまった。これデートかな? 首をかしげる裕子だった。