見果てぬ夢

様々な土地をゆっくりと歩き、そこに暮らす人たちに出会い、風景の中に立てば、何か見えてくるものがあるかもしれない。

旅の風景■英語の嫌いなフランス人

2006-08-13 00:09:39 | 過去の旅
フランス人は冷たい。と日本を出発する前に聞いていました。

パリのリヨン駅で、ローマ行きの列車チケットを買おうとした時のこと。
長い列に並んでやっと窓口にたどり着き、列車名と目的地、時刻を告げると、ガラスの向こうに座って応対していた中年男性職員は、憮然とした顔で何かまくし立てるだけで、発券する気配を見せてくれません。

チケットに必要な必要最低限の英単語をゆっくりと告げるのですが、係員の表情は険しくなるばかり。
フランス語は挨拶程度しかわからないので、相手が何を言っているのかまったくわからず、後列に並ぶ人たちのことも気になりながら途方にくれました。

すると左手のオープンカウンターから、「こっちに来て」という英語が聞こえました。見ると、ガラス越しのチケット売り場とは別のカウンターから、若い職員が笑いながら手招きをしています。
「どこへ行きたいの?」と彼は流暢な英語で話しかけてきました。
「3日後の昼一番の列車でローマへ」とほっとして私。

彼は目の前のパネルを操作しながら、可笑しそうに言いました。
「ここはフランスだからね。フランス語を知らないのだったら、あなたは最初に自分の国の言葉で話しかけなくちゃ。それでも、どうしてもだめだったら最後の手段として英語。フランス人は誇り高いから、英国も英語も好きじゃない。」
「ここは一般チケットを扱うカウンターじゃないけれど、日本から来てくれたお客さまだから特別に発券します」

それからパリに滞在した3日間は、彼の言う通り、できるだけ日本語を最初に使うようにしました。

バス停では、地図を広げて「ここに行くバスは?」と隣で待っていた高齢の男性に指でルーブル美術館を示したところ、彼は、やってきたバスに先に乗って私を手招きしました。4つ目のバス停で、彼は「ここで降りるんだ」と身振りで示し、私と一緒に降りました。

降りた位置で、ルーブル美術館の方向を身振りで示した後、自分は、戻るからという動作をしました。驚いたことに彼は、道路を渡って反対側のバス停にまた並んだのです。自分が乗る予定のバスとは違うバスに乗り、私をルーブル美術館まで送ってくれたのでした。


それから3日後のリヨン駅。
パリでの短い滞在期間に、忘れがたい思い出をもらい、感慨深い気持ちでドーム型のプラットホームを歩いていたその時、ローマ行きの列車の乗り口に、見覚えのある顔が立っていました。「日本語を使った方がいい」と笑顔で忠告してくれたあのチケットカウンターの職員でした。

「列車に乗れるか気になって。フランス人はプライドが高いけど、フランスを嫌いにならないでよ」と。

3日前に発券した列車を覚えていてくれていた彼の心遣いに、フランス人の優しさがダブルパンチとなってやってきて、私は目眩がするほどのショックで涙が出そうになりました。

「いつか帰っておいでよね」と手を振ってくれた彼に「日本にも来てください」と言ってしまってから、初めて、日本人のホスピタリティについて考え始めました。


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