晩秋の気候、ブダペストでの衝動

チェコのプラハに長居しすぎたので、足早に移動している。東欧はもう晩秋だ。
ポーランドのクラクフでは曇りの日が多く、薄綿の軽いジャケット（プラハのフリーマーケットで６０円）を羽織っていた。クラクフから直行バスに乗って８時間でハンガリーのプダペスト。多少南下するので暖かさに期待した。
バスは鉄道に比べると時間はかかるが、手軽で格安だ。途中の国境では、欧州出身者はパスポートの存在を示すだけ、欧州外の者はパスポートを回収され、出入国スタンプが押されて戻ってきた。バスの中で待っているだけ。空港のように荷物検査や出入国審査の列に並ぶ必要はない。
＜ホステルの部屋から見降ろす街＞
ハンガリーのブダペストに入ると、気候は涼しさを越えて寒くなっていた。ジャケットの下に厚手のセーター（トレボンのセカンドハンドショップで６０円）を着てちょうどいい。風が吹く時は、手袋が恋しいほどだ。
「太陽が出る日は、もう少し暖かいんだけどね」とホステルのスタッフが言う。９月初旬だが、もう晩秋の陽気だ。曇り空が続き、時折小雨が降る。寒い。
＜剥げた壁にレンガが見える＞
ブダペストはドナウの真珠と呼ばれるほど美しい街だと聞いた。が、滞在しているホステル周辺は、世界遺産に指定されている風致地区のすぐそばにもかかわらず、壁が剥げたビル、落書きされ抜け殻となったビルが点在している。滞在しているホステルは、築１００年以上の石造の古いマンションの５階フロアーを賃貸したもの。入り口の防犯鉄格子、今にも止まりそうな小さなエレベーター、壊れて上がらなくなった窓の木製ブラインド、忘れられた歴史の煤を見ているかのようだ。セキュリティがしっかりしているとも言えるが、建造物入り口の大きなドアからスタートし、自分の部屋のドアを開けるまで、合計５つの鍵を持たされた。
＜２つめのドア＞
日本はまだ残暑が激しい時期と聞いた。残暑は苦手。だが、９月初旬にこうも寒いと体と心が停滞する。とやや後ろ向きな気持ちでブダペストの中心街を歩いているうちに、小さな旅行代理店が無数に存在していることに気付いた。
「Last Minutes」という宣伝文句が随所で目に付く。「締め切り間近、最後の売り」とでも言おうか、出発日指定の極端に安いツアーが並ぶ。

どの代理店のウインドウにもギリシアの小島滞在格安ツアーの広告が目立つ。クレタ島８日間49,900Ft（約33,000円）、ロドス島８日間39,900Ft(約26,000円）！目を疑うような価格だ。
思わず、代理店に入って訊ねた「どうしてブダペストの旅行代理店にはギリシアツアーばかり並んでいるのですか」「どうしてこんなに安いのですか」と。
ツアーデスクの男性が嫌な顔もせずに答えてくれた理由は４つ。
①バカンスを海岸の太陽の下で過ごしたいハンガリー人が多い
②格安航空会社が飛行ルートを持ち、滞在費も安いのがギリシア
③同じ海岸地域のスペインもイタリアも比較的高い
④夏休みのピークを過ぎたのでホテルによって空く日が出てきた
というわけで、ホテルの空き部屋状況と飛行機シートの確保状況を組み合わせ、投売りツアーが日々組まれているというわけだ。ただし、多少のトリックがあって、航空機給油税等は別途、空港－ホテル間の送迎はオプションになる。

で、つい申し込んでしまった。ブダペストの寒さに追い立てられ、ロドス島８日間。あまりに安い。滞在はアパート形式のホテル。外食は飽きるのでキッチン装備は好都合だ。このところの多少の疲労感を解消したい。北欧、東欧とあれもこれも学ぶことが多すぎて、頭の中が飽和状態になっている。地中海の青い海沿いでしばらくボーっとしながら、今までの記憶を整理し、学んだことを組み直す時間がほしい。
出発は数日後。
＜ホステルの中庭からエレベーターを見る＞