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台風一家

あさり堀り

実家の海の家に帰り、晩御飯が終わりそろそろお風呂に入って寝ようかと言う時間になってから伴侶が「アサリを掘りに行く」と言い出した。
3月とはいえ外はすでに真っ暗で大変寒く、風もあるようだったので、冗談かと思っていたが、伴侶は頭にヘッドランプをつけて一人、上着を着ると出かけてしまった。

いくら昼間の潮の状態が悪かったからといって、まさかこんな夜更けにでかけるほどアサリを掘るのが好きだったとは、あきれつつも半ば関心しつつ、私はさっさと子供たちを二人風呂に入れて寝支度を進めた。
私を誘ってもこないと判っている伴侶はたった一人で真っ暗な海に。

彼は出て1時間ほどしたときに便意を催したらしく「トイレ」と帰ってきて、バケツいっぱいのアサリを平たいプラスチックトレーに流し込むと、まるで業務のようにまた海に帰っていった。
私から見れば寒い孤独な海岸で一人砂を掘るなどという作業は少々怖い気もしたが、彼に言わせると無心の境地でひとつ作業に没頭している瞬間は癒しすら感じたという。
彼が大量のアサリを持って帰ってきたときにはすでに9時を過ぎていたと思う。

次の日に庭で火を起こし、あさり好きのこいちゃんのために早速大きめのものを焼いて食べさせたら、「熱い熱い」と言いながらも海の香りたっぷりのアサリにかぶりついた。
伴侶のあさり堀の名目は「こいちゃんのために、仕方なく」と言うことらしい。
それほど危険な作業に出かけるわけではないのだから、素直に「趣味」と答えればよいものを、どうもそれでは格好がつかないと思うようだ。
私に「そこまでして掘るのは変だ変だ」と言われるので、そのように笑いながら皆に話すのだが、つり好きの父も同じような状態に置かれているらしく「仕方なく」海に出るらしい。

まったく…涙ぐましいほど、家族思いの彼らたちにはもう脱帽である。
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