台風一家

さよならホタル

ホタルが良かった、綺麗だったと余韻に浸りながら、昼間に見つけた温泉に着いた。
時刻は9時半。

何だか嫌な予感がするな〜…。
伴侶が車を停めると、駐車場に入れるのももどかしく、すぐさまドアを開けて慌てて入り口に向かった。
えーと、最終受付は……9時半?!
大慌てで階段を駆け上がり、四人分のチケットを買おうとしたが無情にも「本日は終了しました」の看板が。

どうしよう…入りそびれてしまった…風呂に…。
しょんぼりと車に戻ると腹立たしさがこみ上げてきて、川べりで足踏みしたあの5分が非常に貴重な時間のような気がしてきた。
仕方ないが、こうなることはある程度予想していたので、持参した体ふきで交代しながら車内で体を拭き、新しい服にお着替え。
サービスエリアで歯磨きをしようといっくんと共有トイレに向かうと黒い虫が落ちていた。
ホタルみたいな模様やな〜…。
いっくんに聞くと
「ホタルや!」
ほんまか〜?
半信半疑の私を納得させようと、いっくんがその虫を紙コップにすくい、芝生に降ろしたところふわりふわりと光り始めたではないか。
なんでこんなところに?
飛ばないし動きも悪い。
もしかしたら命が終わるのかもしれない。
車中からその光を見つめ、思わず
「可哀想やな…」と言うと
「ホタルはな、光るから切ないねん…。」と諦めたようにいっくんに言われた。
「ちゃんとカップルになれるのが全体の何割か知ってる?80%くらいは出会えずに死ぬねんで。」
まだ元気のない私にいっくんは続けた。
「だってな、考えてみ?ダンゴムシが光ったら大変やで。あれだっていっぱい死んでる。」
まあ…そうやな…。
少し納得してきたぞ?
「ホタルは光ってしまうから命が無くなるのが判るだけや」
…。
考えると切なくなって来たので、もう言い返すのをやめた。

夜中、トイレに行きたくなって目が覚めた時には、あの仄かな光はどこにも見つけることが出来なかった。
人知れず消えていく命が星の数ほどある。
あまりにも平和で幸せな毎日に人事になり、忘れている過酷な現実。
車に戻り眠り続ける子供達を見ると胸が締め付けられた。
いつかお別れが来た時に、愛しぬいたと言える親でありたい。
後悔しない日々をこれからも過ごすために邁進してゆきたいと改めて感じるのだった。
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