恐怖日和 ~ホラー小説書いてます~

見よう見まねでホラー小説書いてます。
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掌中恐怖 第十八話『じいさんに聞いた話』

2019-04-13 12:35:57 | 掌中恐怖

じいさんに聞いた話

 若い頃じいさんは遊び人だったという。
 山一つ越えた町で遊んだ帰りの山道のこと。
 夜空は晴れ渡り満月が煌々と照っているので、深夜にもかかわらず辺りはぼんやりと明るかった。
 昔は地道で周囲に熊笹など生い茂っていたが、その笹薮が風もないのにがさがさと音を立てた。
 知らぬふりして先を急ぐと今度は青白く発光するものが藪の中をすうっと進んでくる。
 後ろからカンカンという鐘の音も聞こえ始めてきた。
 こんなところにそんな光も音もあるものか。自他ともに認める豪胆なじいさんは狐狸が自分を化かそうとしているに違いない、騙されてなるものかと鼻息も荒く歩を進めた。
 やがて鐘の音が聞こえなくなり、草むらの気配も消えた。
 家に到着すると眠っている家人の邪魔をせぬようそっと部屋に入り、風呂にも浸からずそのまま寝た。
 翌朝、家人に山道での出来事を話すと昨日は雨が降っていてどこにも出掛けなかったじゃないかと笑われた。
 そういえばそうだ、じゃすべて夢だったのかと自分で自分を笑ったが、朝風呂に入ろうと服を脱ぐと体中に歯形がついている。
 家にいながら狐狸に化かされたのかと考えるも、その歯形、どう見ても人のそれにしか見えない。家人の誰かが今でいうドッキリを仕掛けているのかと疑ってはみたが、その後、このことに触れる者は誰もなく、いまだにあれは何だったのかわからないと、当時小さかった俺を膝に乗せじいさんは語ってくれた。
 だが、俺の生まれる前から両親どちらのじいさんもすでに鬼籍に入っていたし、親類にも近所にも該当する人間はおらず、俺にその話をしてくれたのがいったい誰だったのか、今もってわからない。

恐怖日和 第十二話『打ち上げ花火』

2019-04-13 12:25:10 | 恐怖日和

打ち上げ花火

「ぼくな、さっちゃんのこと好きやけ。花火いっしょに行こうな」
 ちょっとだけお頭の弱い近所の男の子がわたしを花火大会に誘う。
「やだよ。よっくんと行くなんて。おもしろないわ――
 そやっ、打ち上がった花火取ってくれるんやったら、行ってもええよ」
 わたしは意地悪な笑いを浮かべて無理難題を押し付けた。これならきっとあきらめるだろう。
「そんなこと言うてもあんなん取れやん」
「そしたらあかんわ」
 よっくんはうつむいたままじっと何か考えていた。宙を見つめたまま唇を突き出したり引っ込めたりしている。こういうふうに固まってしまうとどれだけ時間がかかるかわからない。
「ほな、うち浴衣着せてもらわなあかんけ、帰るわ」
 聞こえているかどうかわからないが一応そう伝え、わたしはよっくんの前から立ち去った。

「気ぃ付けて行っといで。知らん人についてったらあかんよ」
 浴衣を着せてもらいお母さんに見送られて玄関を出る。
 きっと、きょうもわたしが一番かわいい。
 にんまりして団扇を仰ぎながら下駄をからころ鳴らす。
 途中の木陰からよっくんがひょこっと出てきた。
「さっちゃん。こっち来てえな。花火つかまえるけ」
「やだよ。そんなんウソに決まってるわ」
「なあほんまやけ、来てえな、なあ、なあ」
「もううるさいな。ちょっとやで」
 しつこいよっくんは自分の言い分が通らないと大泣きする。
 こんなところで泣かれてはこっちが恥ずかしいので後をついていった。
 神社裏の川縁に着くとよっくんは得意げな顔で振り返った。
 川面に映った花火を「取った」言うつもりやな。あほくさ。
「なあ、もう始まるけ、うち行くわ」
 よっくんは返事もせず、岸の脇に置いてあったバケツで川の水を汲んだ。
 ひゅるるる、ぱぱああん。
 花火の打ち上げが始まった。
 色とりどりの花がバケツの中に咲く。
「なっ。取れたやろ」
 にっと笑った顔にわたしはひどくむかついた。
 よっくんのくせに小賢しい。
 無視して行こうとすると手首をつかまれた。
 汗ばんだ手の平にぞっとして力いっぱい振り払ってしまった。
 花火の音に混じってどぶんと水の跳ねる音が聞こえたが、振り向きもせずそのまま立ち去った。
 それが何の音なのか気にもしなかったが、もし気付いていたとしてもきっと振り返らなかっただろう。
 翌日、よっくんが行方不明だと村中が騒いでいたが、わたしは知らん顔していた。
 それから花火は観に行ってない。

 あれから十数年が経つ。
 高校進学を機にわたしは村を離れ、きょう婚約者を連れて実家に帰ってきた。
 折しも花火大会の日で、ぜひ観たいと彼に乞われて川辺にやって来た。
 久しぶりの打ち上げ花火は懐かしくとてもきれいだった。
 その美しさに見惚れ過ぎて背後から漂う腐敗臭とぽたぽた滴る水の音にその時まったく気づかなかった。