学生時代の友人、Dの話。
「あれは、マジ怖かった」と開口一番、Dは言った。
だが、見た目がチャラいせいなのか、あの場所はマジやばいと訴えても誰も信じてくれないらしい。
あの場所とはP県とQ県の境にあるX峠だ。
そこは峠道と並行して高速道路も走っている。
あたりに民家はなく、街灯も自動販売機も設置されていないため、光源といえば高速から漏れてくるオレンジ色の光と走行車のヘッドライトだけだった。
鬱蒼と茂る雑木林の重なった枝に隠されて昼間は走行音しか聞こえないような山中だが、一か所だけ枝の重なりが途切れている場所があり、金網や防壁もないそこからガードレールと走行中の車が少しだけ見える。
ある深夜、Dは急に思い立って隣市に住む友人に会いに行こうと車を飛ばした。
広くて走りやすい国道は遠回りになるため、先を急いだDは近道だが狭い上にカーブの多い酷道と呼ばれているX峠をルートに選んだ。
ドライブが得意なのでどんな道でも走るのは苦痛でなかったが、峠に入ったあたりで急に尿意をもよおして困ってしまった。
もちろんコンビニなどあるはずもなく、真夜中の山中を薄気味悪いと思いながらも立小便しようと停車し、車外に出た。
そこがちょうど件の場所だったという。
雑木林に向かって小便していると走行音が聞こえ、通過するヘッドライトの逆光でガードレールが黒く浮かび上がった。
そこに人影も見えた。
高速道路の方を向いてガードレールに座っている。
チャックを上げながらDは老人が迷い込んでいるのかもしれないと思った。
警察に連絡しないといけないな。
尻ポケットのスマホを探っているとまた走行音とヘッドライトが近づいてきたのでDは顔を上げた。
人影がこちらを向いて座っている。
その頭がごろっと落ちた。
信じられなかったが、次に来たヘッドライトに浮かぶ影にはやはり頭がない。
震えが足元から這い上がり、Dはその場から動けなくなってしまった。
見ちゃいけない。
そう思い、無理やり足元に視線を落とした。
薄暗いオレンジ色の光が下草の生えた地面に枝葉の影を映している。その中で男の生首がじっとDを見上げていた。
悲鳴を上げると同時に身体が動き、Dはすぐさま車に飛び乗った。急いでその場を離れると猛スピードで峠を越えた。運転が下手なら事故っていたかもしれないが、無事に友人の住むアパートに着いた。
蒼い顔で訪ねて来たDを見て友人は驚いたが、話を聞くと大笑いし、まったく信じてくれなかったという。
だが、確かに見間違いではなかった。
自分をじっと見ていた男の顔は今でもありありと思い出せるし、思い出すと怖気が走ると言ってDは身震いした。