NINAの物語 Ⅱ

思いついたままに物語を書いています

季節の花も載せていきたいと思っています。

寂しい部屋(3)

2012-02-07 20:54:14 | 寂しい部屋
 健吾の帰宅に気付いて正代が裏口から入ってきた。
目じりに皺を寄せたいつもの笑顔で、
「お帰りなさぁい。」
健吾はこの笑顔を見ると、仕事の疲れなど吹き飛んでしまう。
鼻歌を歌いながら夕食の準備をする正代を、いま直ぐに抱きしめたいほど可愛く思える。
「今日は特に機嫌が良さそうだね。何か良いことがあった?」
「うふっ。」
正代は少女のように首をすくめた。
「今、裏の立花さんの奥さんがね。あなたが真面目で優しいから、私が幸せですって。」
この妻を更に愛おしく感じる健吾であった。

 三月、担任をしていた生徒たちは大学に進学したり、予備校に入ったり、一部は就職して巣立って行った。
健吾は今月で定年、同僚の教師たちがお祝いを兼ねた送別会を学校近くの料亭で開いてくれた。
大きな花束を女性の教師が、「ご苦労様でした。」と健吾に渡し、一同が拍手をした。
健吾は思った。
この花束を正代に感謝を込めて渡そうと。
「これからどうされますか。」
同僚から訊かれて、
「そうですね。地域のボランティアでもして過ごそうかと思っています。」
そう答えはしたが、はっきりと決めているわけでもない。
定年前に塾の講師を勧められたが、暫くはのんびりしていたいと断った。

 4月に入って市役所でボランティアを探してみた。
地域の観光案内やシニア・老人向けの幾つかの講座の講師や手伝いもある。
歴史は専門ではないが、とりあえず歴史講座の手伝いをすることにした。
月一回ある講座の資料集めやテキスト作りで、ボランティア仲間とする仕事はそれなりに楽しい。
買い物に行くにも庭仕事をする時も、いつも夫婦二人一緒でそのことに健吾は幸せを感じていた。
9月に入って、正代は市で催されている俳句と俳画の講座に週一回通い始めた。
これまで物置代わりに使っていた四畳半の部屋を整理して、彼女は自分の趣味部屋と決めた。
毎日この部屋に閉じこもって、絵を描いたり、俳句を考えたりしている。
健吾が部屋を覗こうとすると、
「見ないで。」
正代は襖を閉めてしまう。
その講座で親しい友人が出来たのか、時折仲間で旅行に行くようにもなった。
健吾が旅行に誘うと、
「この前行ってきたところだから。」
正代はにべもない返事をする。


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2 コメント

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Σ( ̄ロ ̄lll) ガビーン (おお~ちゃん)
2012-02-08 15:40:44
( ̄~ ̄;)ウーン・・・実に怪しい展開!!!

このくだりはひょっとしたら~・・・・

妻の浮気!はたまた不倫!W(=0=)W ガオォー!!

火がつくと止まらないのが男女の仲~
燃えて燃えて更に燃えて~あちちち~!

燃え尽きて~!!恋の終わり・・・・

ちょっと一人で突っ走っしまいました・・・\( . . ) ハンセイ

どうなってくのかな~
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Unknown (nina)
2012-02-08 17:31:25
おおちゃ~んさん
そういう展開もありますね。
これから考えます。
ありがとう。
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