古事記 上つ巻 現代語訳 三十六
古事記 上つ巻
沼河比売の返歌
書き下し文
尓して其の沼河比売、いまだ戸を開かず、内より歌ひ曰く、
八千矛の 神の命
ぬえくさの 女にしあれば
吾が心 浦渚の鳥ぞ
今こそは 吾鳥にあらめ
後は 汝鳥にあらむを
命は な死せたまひそ
いしたふや 天馳使
事の 語りごとも こをば
現代語訳
しかして、その沼河比売(ぬなかわひめ)は、いまだに戸を開かず、内より歌って曰く、
八千矛(やちほこ)の 神の命(みこと)
ぬえくさの 女(め)ですから
私の心は 浦渚(うらす)の鳥です
今こそは 吾鳥(わどり)にあらめ
後は 汝鳥(などり)にあらむを
命は 殺さないでください
いしたふや 天馳使
事の 語りごとも こをば
・ぬえくさの
萎草(ぬえくさ・しなやかな草。なえた草。しおれた草)のしなやかなところから、「女(め)にかかる枕詞)
・吾鳥(わどり)
自分の思うままになる鳥
・汝鳥(などり)
あなたの鳥。あなたの意に従う鳥
・いしたふや
天馳使 (あまはせつかひ)にかかる枕詞
・天馳使 (あまはせつかひ)
語義未詳・天皇の走り使いをする者の意とする説、天空を駆けて走り使いをする者の意とする説、宮廷神事や雑役の走り使いをする者の意とする説などがある
現代語訳(ゆる~っと訳)
すると、
その沼河比売は、
戸を開かず、
中から歌って言うことには、
八千矛神の命(みこと)よ
なよなよとした草のような女ですから
私の心は、
浦渚(うらす)の鳥
今の私は、
わがままな鳥ですが、
やがて、
あなたの意に従う鳥になります
ですから鳥たちの命は
どうぞ殺さないでください
いしたふや 天馳使が
これを、事の伝え語る言葉にしましょう
続きます。
読んでいただき
ありがとうございました。