2000年にTom Frank氏がリリースしたPhoenix Cups and Ballsです。カップとボールとウォンド、そして証明書が専用ケースに入ったセットでした。銅合金(COPPER-ALLOY)のカップセットが1000セット(価格199.5ドル)、ニッケル・クロムメッキ(NICKEL CHROME-PLATED)のカップセットが100セット(価格299ドル)リリースされました。銅製カップの材料として純粋な銅ではなく他の金属を混ぜたのは強度を増すためです。カップの高さは約7.6cm、口径は約8.6cmと書かれています。重さは私が購入したNICKEL CHROME-PLATEDカップの場合、175gから188gとカップによって結構差がありました(;^ω^)重量感がありますが重すぎることはないです。発売時の広告らしき画像がありました。
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形はRoss Bertramのカップの形を継承しており、ポールフォックスのように球形を最大限に入れることができるる形ではありません。テニスボールは微妙でマジックカフェでは入らないという意見がありました。私のカップでは入るけど一緒に持ち上がってしまいます。しかし、氏のDVDではファイナルロードとしてテニスボールを使ってますので空気の入り方やメーカによっては入るかもしれません。
この形にはファンも多いです。ポールフォックスよりも好きだ!と書かれたコメントを見たこともありますし、チャーリー・ミラーも「男のカップ」と呼んで気に入っていました。ただし、この意味は「強さ」の意味合いも含みます。
フェニックスカップの問題点としては、ショルダー・ビード「shoulder bead(side bead)」(カップの中央部にあるライン)が低い、もしくは、ショルダービードより下の部分の広がりが大きく、故に口径が大きくなっているため、スタックしたときに「attic」(スタックされたカップ間の空間。「屋根裏部屋」という表現をされます)が狭くなってしまうという事です。なので、付属するTAYADE-STYLEのボールは入っても、1インチの完全球のボールは入りません。TAYADE-STYLEのボールも完全に入っているのか?と思うくらいです。また、スタックしたときにぐらつきがあることも問題点として言われています。あと、リムの隙間がDanny Dewのポールフォックスカップのように広いですね。
ボールはTAYADE-STYLEと呼ばれるボールで先に述べたように完全な球形ではなく、長軸1インチ、短軸7/8インチです。さらに、ボールの周りに紐が巻かれており、転がりにくくなっています(このボールの作成は大変で1個当たり45分かかると氏はビデオで言っています)。ちなみにTAYADEというのは1970年代にマジック用品を作成していたインドの方の名前だそうで、彼が作ったこのタイプのボールをセットに含むヒンズーカップも有名です。
Indian Style Cups, Balls and Wand by D.A. Tayade
ウォンドはアイアンウッド(IRONWODD)で作られており、長さは約32.1cm、太さ約11mmです。アイアンウッドは枕木にも利用されるような、硬くて水などに強い木です。残念ながら私がeBayで購入したカップセットにはウォンドが付いていませんでした。
以上のように、このカップセットは非常に強いコンセプトに基づいて作られています。それはストリートでの過酷な演技に耐えうる強いカップという事です。
Tom Frank氏がマジックキャッスルでカップ&ボール演技をしているを下記に示します。氏はもともとストリート系であったこともあり、観衆を惹きつける力強い演技をします。従って、強く叩くことに耐えうるカップとウォンド、転がり過ぎないボールが必要だったんですね。
一般的なバーノンの手順とは違うオリジナルの手順ですね(とにかくバンバン叩きますね(;^ω^))。演技の途中でカップの貫通や指のマジックを入れているところも観客を惹きつけ続けるための工夫だと思います。ヴァーノンのて順に慣れてしまっているので違う手順を見ると少し新鮮に感じますよね(;^ω^)
Tom Frank氏はカップ&ボールのDVDを自身のサイトを通じて販売しています。
https://tomfrankmagic.com/products/
DVDでは、氏の手順の解説や、いくつかのパターンでの演出、具体的には、音楽だけで喋らない演技、喋りながらの演技、ストリートの演技などが収録されています。また氏が集めたカップの映像やカップ&ボールの歴史についての映像もありました。自身の持っているカップの紹介映像では、一般的なカップの作り方などについても説明していて興味深いです。そこでは素晴らしいカップ職人としてJim Reiser氏の名前が出てきます。氏のカップも1つだけ持っているのでいつか紹介したいと思います。
DVD購入時に少しやり取りがあり、2つほど質問をしてみました。それについて丁寧に解答して頂けたのでここにそれを記します。私の素人質問に丁寧に答えてくれた氏に感謝します。
<質問>
Your cup is similar to the shape of Ross Bertram's cup as well as Charlie Miller's cup. I would like to know if there is a reason you chose that shape instead of the Paul Fox type other than you like the shape.
<回答>
When I was a young man, my cup of choice was the Charlie Miller cups made my Magic Inc. It wasn’t so much the design that I liked but I liked the sturdiness and durability of the cup as well as the price. Later Both the Miller and the Bertram cups stopped being made. I asked Jay Marshall of Magic Inc., if I could replicate the design of the Miller cup as I loved them and and gone through more than a few sets by that time. He said yes. I made the Phoenix cups stronger than any other cup on the market, by adding lead to the copper. I hope this answers your question.
<質問2>
what do you consider most important in your cup and ball act that may have been discussed on the DVD?
<回答2>
As to the most important aspect to my cups and balls routine, is a more difficult question. I suppose a genuine love of magic, misdirection, the rich history of the effect and the impact it has on an audience. I spent half of my life as a street performer and it never failed to build a crowd.
上記のTomの回答にありますように、このカップの歴史的流れは、ポールフォックスとはまた違った面白さがあります。ポールフォックスほど普及しませんでしたが、一部のファンには好まれています。大きくは4つほどのカップがシリアルに作られています。
まず、原点となっているのがロス・バートラム(Ross Bertram)のカップです。
https://www.bidsquare.com/online-auctions/potter-potter/bertram-cups-847728
このオークションのカップは1965年に作られたカップのようですね。ページでは中は映っていませんがRBの文字が刻まれていると思います。ロス・バートラムがこのタイプカップを始めた手作ったのは1940年頃だそうで、ポールフォックスはその少し前に作られていたようです(世に出るのはもう少し後になりますが…)
ロス・バートラム(Ross Bertram)の演技映像もありましたので貼り付けておきます(Egyptian Cups and Balls)。
Ross Bertram performs Egyptian Cups & Balls | Magicana
上記演技はロス・バートラムのDVDの2巻の最後収録されています。
https://www.frenchdrop.com/detail?id=1381
次に、チャーリー・ミラーカップ(Charlie Miller Cups and Balls)です。
ロス・バートラムのカップの形を継承してチャーリー・ミラーカップというカップがJay Marshallが経営するChicagoのMagic Inc.から発売されました。本商品は1970年代と書かれてますね。銅製です。
Lot Detail - Charlie Miller Cups and Balls.
チャーリーミラー自身は Greater Magic Video LibraryのVol.29(Charlie Miller & Johnny Thompson)でカップ&ボールについていろいろ話したり演技をしたりしていますが、銀色のカップ(銀とかクロムのメッキでしょうか?)を使っていて、ビデオの中では、ニューオリンズのBrad Holbrook(綴りまちがってるかもしれません)からもらったもので、ロス・バートラムカップだと言っています。また、この形や強さが好きだと言っており、ラフに扱っても大丈夫な「It's a man's cup!」だと言っています(多分…)。ビデオではちょっと確認できませんでしたが、彫刻されているかもしれません。
Charlie Miller & Johnny Thompson, Volume 29 GMVL (DVD)
このビデオで上手くチャーリーミラーから話を引き出しているジョニートンプソンのカップも実はロス・バートラムタイプのカップです。銅カップ(チャーリー・ミラーカップ)にシルバーのメッキがされており、エジプト風の彫刻がされています。
Lot Detail - Johnny Thompson’s Engraved Cups and Balls. Set of three fin...
そして、Tom Frankが作ったフェニックスカップ(Phoenix Cups and Balls)です。
上記質問への回答にあるように、Tom Frankは丈夫で強いチャーリー・ミラーカップを好んで使っており(デザインはそんなに好きでなかったと書いてますが(;^ω^))、販売されなくなったので、Jay Marshallにその形を使ったカップを作ってもいいか?と問い合わせ、許可をもらったので作りました。ただ、さらに「強い」カップにしたかったため、純粋な銅ではなく、他の素材を混ぜることでより硬く、丈夫に作ったとのことです。このカップの特徴(悪い点も含め)は上で記した通りです。
最後に、Phoenix II cupsです。
Tom Frank氏が作ったフェニックスカップの問題点を改善するため、RNTIIがPhoenix II cupsを作りました。Mad Jake氏がRNTIIのプロジェクトとして12個のカップを作りました。変更点はショルダービードを少し上げてスタックしたときの屋根裏部屋の空間を広くし、1インチのボールが3つ入るようになりました。またテニスボールも入るようになりました。形としてはロス・バートラムスタイルの広がりが大きいカップに比べると、ショルダービードから口までの広がりを抑えた形になっています。Mad Jake氏はTom Frank氏に許可をもらってこのPhoenix II cupsを作りました。
Tom Frank氏がPhoenix II cupsについて書いたページです。RNTIIから申し出があったときにこれまで言われていた問題点を改善するようお願いしたそうです。
PHOENIX II CUPS • COPPER • ANTIQUE BRONZE FINISH - The Genii Forum
Mad Jake氏は最初12個のセットを作ったとマジックカフェでは述べてますがその後どういう商品展開をしていったのかはわかりません。ただ、現在RNTIIを後継したDonnie Buckley氏のRINGS-N-THINGS MAGICでは、Phoenix II cupsを現在も販売しています。
Phoenix 2 Cups | Copper | Polished Finish
以上、フェニックスカップの紹介とその元カップと後継カップでした!