物音ひとつしない
目が覚める度に不安は増すばかりの美和子
叫びたくても声が出ないばかりか身体も動かない
指先だけでも動けば・・・・
必死に神経を指先に集中した
動いた
少しだが指先が動いた
コンクリートの床を指先で引っかいた
カリッ
音が出た
もっと神経を集中させた
カリカリッ
誰かが部屋に居てくれたら
少しでも音が聞こえてくれたら
やがて美和子の爪が割れた
痛い
割れた爪は音を出せなくなった
みんな私を探して家には居ないのだろうか?
子供達は?
どの位の時間が過ぎていったのだろう
指先から流れる血の臭い
美和子は泣いた
嗚咽に似た声が喉の奥から出た
暫くすると夫の声が聞こえた
『ほらほら~重たい荷物は持っちゃ駄目だよ』
『いや~ね~卓也さんは心配性なんだから』
誰と一緒なの?
女?
私の事など忘れて早くも女を作ったの?
もしかしたら、私を閉じ込めたのは夫の卓也だったのか?
それなら辻褄が合う
私が邪魔になったんだ
きっと、ずっと前から女が居たんだ
悔しい・・・・このまま死んでたまるものか
美和子は激しい恨みで歯軋りしていた
やがて歯軋りしていた歯が折れた
口の中も血で溢れた
流れ出る血
絶対に生きて出てやる
夫に復讐してやる
子供達は身内の誰かに預けてでもしてあるのだろう
このコンクリートの収納庫は最初からあったのではない
卓也が私を閉じ込め殺す為に作った棺桶に違いない
そうと解れば、このまま卓也にみすみす殺されてたまるか
さっき泣いた時に喉から少しの嗚咽を出せた
美和子は喉から振り絞って嗚咽に似た声を絞って出した
美和子の声は届くのだろうか?