『ねえ、この辺りでいいんじゃない?』
ここは、八甲田山の麓の田代平という、ちょっとした盆地
友人8人でキャンプ
楽しいキャンプになるはずだった
わざわざ田代平のキャンプに参加するだけの為に遥々、東京から来たくれた友人も居た
午後1時、テントも張ったし椅子もテーブルも準備万端整った、あとは鉄板で焼肉や好きな物を焼いたりして賑やかに笑い声響く楽しいキャンプ
簡易トイレも設置してある
男性3人は学生時代の同級生
食べて飲んで楽しい語らいの時間など、あっと言う間だ
辺りは暗闇になった、キャンプファイヤーの炎が素敵
夏のキャンプと言えば、お決まりの怖い話しが出る
『なぁ知ってるか?場所は知らないが自殺の多い場所があるんだぜ』
『この原っぱでか?』
『くる途中にあったかもしれないし、この先なのかは知らないが、キャンプ場の道路脇が多いらしいぞ』
『そう言えば、くる途中に結構、車が停まってたな』
『大抵は山菜採りだが自殺の為に停めてる車もあるって話しだ、俺の友人の知り合いが、田代平のわき道に車を停め排気ガスで自殺してた話しだけど聞く?』
みんな興味津々で聞き入った
その話しはこうだった
早朝、山菜採りの為に車を停めた場所、その時はべつだん何事もなかった
午後3時に山菜採りを終えて車に戻った時に前方にグリーンの車が停まってた、車内から女性が手を出して手招きをする
若いカップルのドライブだとしか思ってなかった山菜採りの人は気にも留めずに、その場を去ろうとしたら
『・・・・・・・・・・・・・。』
何やら自分に話しかけてるようだ
そう思ったので近づいて行った
すると女性が
思いっきり怒鳴ったのでムッとして側には行かず
さっさと自分の車に乗って、その場を離れた
10分程走ったら何と、さっきの車が後ろにピッタリくっついてる
危ない人だと思い、必死に距離を置こうとしたが、どうやっても、くっついて走ってくる
やっと人の多い萱野茶屋と言う観光地まで出て土産屋の駐車場に車を停め店の中に走り込み、暴走族のような車に追いかけられたと助けを求めた
彼はバックミラーで車のナンバーを、もしもの時にと暗記し、店主に全てを話したのだ
そこの店主は、舗装されて広く開けた山道だし無謀な運転をする若者も多い
しかし田代平は道幅も狭く、そんな無謀な運転は事故に繋がる
後で見つけたら一喝せねばと思った
怒鳴られた人もお茶を飲んで気分も落ち着いたし
さっきの車も見当たらない、お礼を言って帰って行った
店主は、聞いた話しから現場まで悪さする暴走族を懲らしめる為に3人で行ってみた、たしか、この辺りって言ってたぞ、山に詳しい店主は、時間と距離と特徴を聞いただけで場所が分かった
しかし、それらしい車は走ってないし停まってもいない
引き返そうとしていた時だった
車の部品が落ちていた
フェンダーだった
無謀な運転する、どこかの若者が競い合い、どこかにぶつけでもしたのだろう
フェンダーを拾い上げて、その先を見るとホイールが落ちている
よくよく見ると、車の部品が山の斜面に向かって小さいが散乱している
『おい、ここで事故があった話し聞いてるか?』
『いや最近は聞いてないぞ』
3人は山の斜面を覗いた
草木が覆い茂る中を掻き分けて見た
そこには車があった
隠すように木や草で覆い隠されていた車の中に男女の死体があった、
車はガムテープで隙間を塞ぎ、明らかに自殺だと分かった
覚悟の自殺だったのだろうが、あまりにも長い間、誰にも見つけてもらえなかった為に男女の二人は『早くしろよ』と怒鳴っていたのかもしれない。
その車はグリーンでナンバーは、先ほどの山菜採りの人が言っていた番号だった
発見されて家族の元に帰った今でも、その場所で山菜採りをする人に『早くしろ』と怒鳴る声がするのだそうだ。
『うわ~この辺りじゃないよな?』
『まさか~偶然にでも、そんな場所にキャンプはしないさ』
『そうよ、盆近いんだし、怖い話しは止めてよ、あっちでキャンプしてるカップルなんか楽しそうに飲んでるよ』
『そうだな、明日は川に釣りに行こうぜ』
『キャンプは楽しまなくっちゃね、そろそろ寝ようよ』
酔いもあって、みんな直ぐに眠りについた
早朝、悲鳴が聞こえた
隣でキャンプしてたカップルの悲鳴だった
用足しに、ちょっと斜面を降りたらボロボロになった車を見て悲鳴を上げたのだった
私達も全員で、その場所へ
夕べ話してた車が、その場所に残されていた
遺体は運んだが車は、その場所に放置したままだった
今でも、キャンプシーズンになると、その車は走っているそうだ