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2005年11月18日~19日に開かれた関西大学人間活動理論研究センター主催の第2回目の国際シンポジウム「新しい学びの挑戦 境界越境のための協同にむけて」に、今年も勤務の都合で1日だけ参加しました。19日のプログラムの冒頭に行なわれたオックスフォード大学のアン・エドワーズ(Anne Edwards)教授の講演は、学校図書館における学びと仕事のあり方をモデル化したいという私の問題意識にとって、きわめて示唆に富むものでした。Relational Agency: learning to be a resourceful practitionerというタイトルの意味するところを私の理解に従って日本語で表すと「つながりを活かす働き(力):豊かな資源を活用できる専門職となるための学び」となります。Relational Agency(つながりを活かす力)とは、他者に援助を提供すると共に他者からも援助を求めることによって世界との関係を築いていく能力のことです。豊かな資源を活用できる専門職になるために必要とされるのは、問題を理解して、取り組む能力、理解したことを説明する能力、状況を読む能力、その状況から資源となるものを取り出す能力、そして自らが資源となる能力です。エドワーズ教授によると、依存関係とは異なるこのような能力は、安定的で固定した関係よりも、むしろ人間活動のさまざまな局面における不安定で流動的な関係の中で他者と積極的に協同することによって育まれ、高められるといいます。
他者と協同して自らの置かれている状況を変え、それによって自分たち自身を変えていく活動をヘルシンキ大学のユーリア・エンゲストローム(Yrjo Engestrom)教授は「拡張による学習」(1)と呼びます。いま、ここにある困難な状況に対応していくには、組織や文化(制度や日常的行為)の枠を越えて、他者との柔軟で流動的な関係を作っていくことが必要です。このような学びや仕事のあり方をノットワーキングといいます。ノット(knot=結び目)とは、ゆるやかな絆のことで、それぞれのコミュニティの文化を背景に持つ個人と個人を結んで、目的や動機を共有する新たな協同のシステム(コミュニティ)を形成します。それは、学校だけでなく人間のあらゆる活動場面において、児童生徒ばかりでなく専門職の学びと成長にも適用できる生涯学習の基本的な原理といえるでしょう。
話を私の問題意識に引き寄せてみましょう。人と人、人と資料をつないで、児童生徒の学びを創出する学校図書館の機能を果すには、学校図書館職員が、その力を存分に発揮できる環境づくり、とくに学校の内と外を通じての人間関係の構築が鍵になります。21世紀におけるアメリカの学校図書館の基準を示した『インフォメーション・パワー』(2)は、学校図書館の諸活動を通して児童生徒が情報リテラシーを身につけていく上で学校図書館メディアスペシャリストと情報技術者、教師、地域の人材をも含めた専門職とのパートナーシップの構築が重要であると述べています。学校図書館専門職が利用者のニーズに応えられる力量と信頼性を獲得するには、専門的知識と技能だけでなく、他分野の専門職との関係性を維持し発展させていくコミュニケーション能力と、変化する状況への柔軟な対応能力が求められます。学校図書館専門職がノットワーキングを通して拡張された情報サービスを行なうことによって、今後、多くの学校共同体において響き合い、学び合う関係が生み出すだされることを期待します。
ちなみに関西大学人間活動センターのプロジェクトは「社会変化の担い手としての学校」という概念によって進められています。これにならって、私たちもまた「社会変化の担い手としての学校」の教育活動を支える学校図書館というテーマを追求していく必要があるのではないでしょうか。
(1) ユーリア・エンゲストローム著、山住勝弘他訳『拡張による学習』(新曜社、1999)
(2) アメリカスクールライブラリアン協会・教育コミュニケーション工学会編、同志社大学学校図書館研究会訳『インフォメーション・パワー 学習のためのパートナーシップの構築』(同志社大学、2000)
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