「源氏物語と枳殻邸大茶会」に行ってきました。「古典の日」制定五周年記念のイベントで、私は源氏物語が聞きたくて8月1日の受付開始と同時に申し込んでいたのですが、2・3日ほどで満席になってしまったそうです。
「桐壺」「空蝉」「夕顔」「葵」の巻をアレンジし、「甦る千年の恋」と題して、原文と現代語訳を織り交ぜて朗読してくださったのは、「古典の日」朗読コンテストの歴代受賞者6名からなる朗読グループ「古都」の皆さんでした。香を焚きしめた京都渉成園・枳殻邸(きこくてい)の広間に雅な言葉が響き、ゆったりと聴衆を包み込んで展開する光源氏と女性たちの美しくも哀しい物語に、私は瞬く間に魅了されてしまいました。その秘密は、どうやら朗読者たちの深く安定した息遣いにあるようです。多彩かつ微細な声の表情の変化が、みごとにコントロールされていて、それに同期するように、聴いている自分の息もからだも整ってくる。演者が圧倒的な演技で聴衆を巻き込んだのではない。朗読者の呼吸と、それを受け止めようとするさまざまな聞き手の呼吸とが、たがいにせめぎ合いながら融け合っていくダイナミックなプロセス、そこに時間をともにできた喜びがともなう。そんな「芸術的」経験を意識したのは、ずいぶん久しぶりのように思います。
第二部では、夕顔の巻を千年前の発音で読んでくださいました。最初のうちは、独特の発声法と聴きなれない音韻に戸惑い、現実離れしたAIの音声のようにも聞こえましたが、こまやかな情感をともなって広がる独特な声のひびきが、しだいに意味をもったことばとして聴きとれるようになってきて、ドラマチックでありました。
その場に居合わせた他者と息を共有できてこそ、私たちは真に時間を共有したと言えるのでしょう。表現を微細にコントロールしてくれる深く安定した息、その息を整えてくれるのは、その場の状況の変化に柔軟に対応できるからだであり、それを見守り適切に方向づけてくれるあたまである。さまざまな気づきを通して学ぶことが多く、自らの課題と出会って、心もとない我が朗読修行のためにも励みになったひとときでした。
ちなみに、会場となった渉成園枳殻邸は、徳川家光が東本願寺に寄進されたものですが、その昔、光源氏のモデルと言われる河原左大臣・源融(みなもとのとおる)が暮らしていたところから、「源氏物語」ゆかりの屋敷とされています。
「古都」の朗読会、次回は、来年の3月、芦屋で谷崎潤一郎の作品を中心に朗読する。11月から申込受付が始まります。
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