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LIPER(情報専門職の養成に向けた図書館情報学教育体制の再構築に関する総合的研究)学校図書館研究会の2年間にわたる調査結果をまとめた中間報告(2005年9月)がPDFファイルで提供されています。学校図書館専門職の在り方に関して、このような画期的な調査研究に携わられた皆さんに心から敬意を表するとともに、報告に触発されて私見を述べさせていただきます。
報告の中でとくに目を引いたのは、図書館職務を6つの観点から見た平均実施率のアンバランスです。学校図書館の職務を平均実施率の高い順に並べると「児童生徒の学習支援」「図書館利用の活性化」「開かれた図書館経営」「教職員の教授支援」「メディアの多様化」「ITの導入」となっているそうですが、これは日本の学校図書館の現状を見事に映し出していると思います。
報告では、また、有資格者であっても学校図書館の職務を担当することを避けようとする「隠れ司書教諭」の存在も取り上げられています。とくに教科の専門職という意識が強い中学・高校の教員は、「教えること」や「学級担任」、「課外活動」などを通して子どもと関わることには生きがいを感じるが、学校図書館のテクニカルな仕事は本務ではないと考える傾向があるようです。たしかに「司書」と「教諭」それぞれに求められる資質や職務は異なる部分があるので、「充て職」として発令される(可能性のある)司書教諭有資格教員が自らの教諭としてのアイデンティティを強く意識し、主張したくなるのは当然といえるでしょう。それに、わずかな予算で購入できる程度の(主に読み物中心の)蔵書を受け入れて整理し配架して児童生徒に貸し出すだけの仕事なら、非常勤の司書やボランティアの皆さんの手を借り、生徒の図書委員と一緒にやれば、ある程度のことはやっていけるのではないでしょうか。学校図書館が頻繁に利用されるようになり、年間予算が増え、扱う図書の数が増えていけば、さらに多くの人手が必要になりますが、それでも、財政難の折から、新たに正規・専任の学校図書館専門職員を配置するところまで行政や理事会を説得できるでしょうか。なぜ、いま、学校図書館に専任の学校図書館専門職が必要なのか、専門職にどのような資質と専門性が求められるのかを説得力のある形で示す必要があります。そのためには、まず、各学校において、意欲ある優れた学校図書館担当職員が生かされる環境をつくり、学校図書館に資金と人と技術を投入することによって創出される新しい学びと教育の形を具体的に示すことが必要だと考えます。ほんの一部ではあっても、すでに、そのような実践を進めている学校や地域も存在していますし、これからそのような環境を創りだせる可能性のある学校も少なからずあるはずです。そのような学校や地域の意欲的な教師や学校司書が、お互いに情報を交換し合い、学びあいながら学校図書館が作り出す豊かな学びを広げていってほしいものです。
これからの学校教育に求められるもの
情報化、国際化が進む現代社会にあって、これからの学校教育は、児童生徒のメディア活用能力やコミュニケーション能力を高め、問題をよりよく解決する能力を培うことによって、多様性の共存と協同を促進する社会を構築していくことをめざすべきだと考えます。そのためには、「読み書き、計算」といった反復練習や、基本的な知識の理解と記憶によって達成される「基礎学力」だけでなく、習得した知識や技能を応用し、主体的に生きる営みに役立てる力も必要です。そして何よりも、既成の知識や慣行、他者や自分の考えや行動といったものを、より広い状況に照らして批判的に検討し、構想を立て、新たな知識・情報を生成するといった、建設的で創造的な思考力を育てなければなりません。それは、社会から見れば「自立した市民の育成」、個人から見れば「自己実現」という課題を、統合されたひとつの目標として教育することにほかなりません。
このような現代の教育課題に応えるために、学校図書館は、学校の情報基盤として教育活動に関わるとともに、現場における教育改革の一翼を担う必要があります。そのために早急に取り組むべきことは以下の4つに集約されるのではないでしょうか。
(1) 「読書のための学校図書館」という意識を払拭し、メディアセンターとしての機能を強化する
けっして読書を軽んじているわけではありませんが、今なお「読み物」中心の蔵書構成になっている学校図書館が多いのも事実です。今後も「読書活動の推進」の名のもとに学校図書館の読書センター化が安易な形で進むことを懸念します。学校図書館は、読書センターであるだけでなく、学習情報センター、コミュニケーションセンターとしての機能を強化する必要があります。多様な学習テーマに対応できる多様なメディア環境を整備し、教師や児童生徒の必要に応じて提供するとともに、児童生徒が必要に応じてメディアや情報の妥当性と信頼性を自分で評価し、選択できるように指導したり、ともに学び合う場として再生する必要があります。
(2) 教育課程の編成と展開に参画し、学習指導の改善を提案し、支援し、推進する
多様なメディアを活用する学習指導において、学校図書館は、カリキュラムの編成から授業案の作成と実施まで一貫して授業支援を行なうことが求められています。しかし、今なお、情報教育や「総合的な学習の時間」など児童生徒の主体的な学びを促進する意欲的な取り組みが、学校図書館や司書教諭の関与なしに進められているケースも多いようです。プロジェクト学習や問題解決学習など児童生徒が主体的に知識や技能を学ぶ過程で、多様な資料や情報を収集、整理、提供することはもちろん、そのような学びを推進するために、教師一人ひとりの相談に応じ、授業改善の方策を提案し、支援することもまた司書教諭の大事な仕事です。従来の「調べ学習」をこえて、問題解決、課題達成など、矛盾の克服や創造性開発に向けた学びを促進し、最近の社会構成主義や人間活動理論にもとづく新しい教育理念を「総合的な学習の時間」のみならず一般の教科指導や、その他の教育活動においても積極的に展開してもらいたいものです。そのためには、教師や児童生徒が求める情報を的確に把握することはもちろん、無自覚的・潜在的なニーズを掘り起こしてサービスを提供することも、学校図書館専門職員が身に付けるべき経営手腕のひとつとして必要になるでしょう。また、学校図書館の守備範囲を限定しないで全教員と積極的にかかわりながら、既成の手続き(ルール)や発想も見直して、利用者の便宜をはかっていくことも必要でしょう。
(3) 学校図書館の経営を組織化する
従来、充て職の司書教諭が図書館に常駐していないことが多く、学校司書などの職員が一人で学校図書館の職務を担当することになり、ともすると学校全体の動きから孤立する傾向がありました。しかし、これからの学校図書館は、児童生徒や教職員、保護者に対しても、情報サービスはもちろん、さまざまな提案や働きかけを行なうことが必要です。それは一人で対応できることではないので、現場の状況に応じて、さまざまなスペシャリストのチームを構成することが望ましいでしょう。司書教諭、学校司書、係り教諭、およびボランティアなどの協力者を組織して学校の内と外に開かれた経営を協同で行い、学校外の諸機関や学校内の他の部署と対等な立場で連携していくことが必要です。このような組織にあっては、司書教諭は、組織をまとめ、児童生徒と教師にたいしてファシリテーター、コーチの役割を果たすといった形でのリーダーシップが求められるでしょう。
(4) 教員研修
上述のような学校図書館にあって、司書教諭は、教科教員をもって充てるという現在の制度ではその役割を十分に果すことは望めません。メディア専門職としての知識と技能を持った専任の司書教諭の養成と配置が必要です。しかし、このような学校図書館や専門職の役割について、一般の教員に十分に認識されていないのが現実です。学校全体で学校図書館の再生に取り組む体制を作るためには、まず、司書教諭だけでなく管理職や一般の教員を対象としたリカレント教育を地区や学校単位で実施する必要があるでしょう。
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LIPER(情報専門職の養成に向けた図書館情報学教育体制の再構築に関する総合的研究)学校図書館研究会の2年間にわたる調査結果をまとめた中間報告(2005年9月)がPDFファイルで提供されています。学校図書館専門職の在り方に関して、このような画期的な調査研究に携わられた皆さんに心から敬意を表するとともに、報告に触発されて私見を述べさせていただきます。
報告の中でとくに目を引いたのは、図書館職務を6つの観点から見た平均実施率のアンバランスです。学校図書館の職務を平均実施率の高い順に並べると「児童生徒の学習支援」「図書館利用の活性化」「開かれた図書館経営」「教職員の教授支援」「メディアの多様化」「ITの導入」となっているそうですが、これは日本の学校図書館の現状を見事に映し出していると思います。
報告では、また、有資格者であっても学校図書館の職務を担当することを避けようとする「隠れ司書教諭」の存在も取り上げられています。とくに教科の専門職という意識が強い中学・高校の教員は、「教えること」や「学級担任」、「課外活動」などを通して子どもと関わることには生きがいを感じるが、学校図書館のテクニカルな仕事は本務ではないと考える傾向があるようです。たしかに「司書」と「教諭」それぞれに求められる資質や職務は異なる部分があるので、「充て職」として発令される(可能性のある)司書教諭有資格教員が自らの教諭としてのアイデンティティを強く意識し、主張したくなるのは当然といえるでしょう。それに、わずかな予算で購入できる程度の(主に読み物中心の)蔵書を受け入れて整理し配架して児童生徒に貸し出すだけの仕事なら、非常勤の司書やボランティアの皆さんの手を借り、生徒の図書委員と一緒にやれば、ある程度のことはやっていけるのではないでしょうか。学校図書館が頻繁に利用されるようになり、年間予算が増え、扱う図書の数が増えていけば、さらに多くの人手が必要になりますが、それでも、財政難の折から、新たに正規・専任の学校図書館専門職員を配置するところまで行政や理事会を説得できるでしょうか。なぜ、いま、学校図書館に専任の学校図書館専門職が必要なのか、専門職にどのような資質と専門性が求められるのかを説得力のある形で示す必要があります。そのためには、まず、各学校において、意欲ある優れた学校図書館担当職員が生かされる環境をつくり、学校図書館に資金と人と技術を投入することによって創出される新しい学びと教育の形を具体的に示すことが必要だと考えます。ほんの一部ではあっても、すでに、そのような実践を進めている学校や地域も存在していますし、これからそのような環境を創りだせる可能性のある学校も少なからずあるはずです。そのような学校や地域の意欲的な教師や学校司書が、お互いに情報を交換し合い、学びあいながら学校図書館が作り出す豊かな学びを広げていってほしいものです。
これからの学校教育に求められるもの
情報化、国際化が進む現代社会にあって、これからの学校教育は、児童生徒のメディア活用能力やコミュニケーション能力を高め、問題をよりよく解決する能力を培うことによって、多様性の共存と協同を促進する社会を構築していくことをめざすべきだと考えます。そのためには、「読み書き、計算」といった反復練習や、基本的な知識の理解と記憶によって達成される「基礎学力」だけでなく、習得した知識や技能を応用し、主体的に生きる営みに役立てる力も必要です。そして何よりも、既成の知識や慣行、他者や自分の考えや行動といったものを、より広い状況に照らして批判的に検討し、構想を立て、新たな知識・情報を生成するといった、建設的で創造的な思考力を育てなければなりません。それは、社会から見れば「自立した市民の育成」、個人から見れば「自己実現」という課題を、統合されたひとつの目標として教育することにほかなりません。
このような現代の教育課題に応えるために、学校図書館は、学校の情報基盤として教育活動に関わるとともに、現場における教育改革の一翼を担う必要があります。そのために早急に取り組むべきことは以下の4つに集約されるのではないでしょうか。
(1) 「読書のための学校図書館」という意識を払拭し、メディアセンターとしての機能を強化する
けっして読書を軽んじているわけではありませんが、今なお「読み物」中心の蔵書構成になっている学校図書館が多いのも事実です。今後も「読書活動の推進」の名のもとに学校図書館の読書センター化が安易な形で進むことを懸念します。学校図書館は、読書センターであるだけでなく、学習情報センター、コミュニケーションセンターとしての機能を強化する必要があります。多様な学習テーマに対応できる多様なメディア環境を整備し、教師や児童生徒の必要に応じて提供するとともに、児童生徒が必要に応じてメディアや情報の妥当性と信頼性を自分で評価し、選択できるように指導したり、ともに学び合う場として再生する必要があります。
(2) 教育課程の編成と展開に参画し、学習指導の改善を提案し、支援し、推進する
多様なメディアを活用する学習指導において、学校図書館は、カリキュラムの編成から授業案の作成と実施まで一貫して授業支援を行なうことが求められています。しかし、今なお、情報教育や「総合的な学習の時間」など児童生徒の主体的な学びを促進する意欲的な取り組みが、学校図書館や司書教諭の関与なしに進められているケースも多いようです。プロジェクト学習や問題解決学習など児童生徒が主体的に知識や技能を学ぶ過程で、多様な資料や情報を収集、整理、提供することはもちろん、そのような学びを推進するために、教師一人ひとりの相談に応じ、授業改善の方策を提案し、支援することもまた司書教諭の大事な仕事です。従来の「調べ学習」をこえて、問題解決、課題達成など、矛盾の克服や創造性開発に向けた学びを促進し、最近の社会構成主義や人間活動理論にもとづく新しい教育理念を「総合的な学習の時間」のみならず一般の教科指導や、その他の教育活動においても積極的に展開してもらいたいものです。そのためには、教師や児童生徒が求める情報を的確に把握することはもちろん、無自覚的・潜在的なニーズを掘り起こしてサービスを提供することも、学校図書館専門職員が身に付けるべき経営手腕のひとつとして必要になるでしょう。また、学校図書館の守備範囲を限定しないで全教員と積極的にかかわりながら、既成の手続き(ルール)や発想も見直して、利用者の便宜をはかっていくことも必要でしょう。
(3) 学校図書館の経営を組織化する
従来、充て職の司書教諭が図書館に常駐していないことが多く、学校司書などの職員が一人で学校図書館の職務を担当することになり、ともすると学校全体の動きから孤立する傾向がありました。しかし、これからの学校図書館は、児童生徒や教職員、保護者に対しても、情報サービスはもちろん、さまざまな提案や働きかけを行なうことが必要です。それは一人で対応できることではないので、現場の状況に応じて、さまざまなスペシャリストのチームを構成することが望ましいでしょう。司書教諭、学校司書、係り教諭、およびボランティアなどの協力者を組織して学校の内と外に開かれた経営を協同で行い、学校外の諸機関や学校内の他の部署と対等な立場で連携していくことが必要です。このような組織にあっては、司書教諭は、組織をまとめ、児童生徒と教師にたいしてファシリテーター、コーチの役割を果たすといった形でのリーダーシップが求められるでしょう。
(4) 教員研修
上述のような学校図書館にあって、司書教諭は、教科教員をもって充てるという現在の制度ではその役割を十分に果すことは望めません。メディア専門職としての知識と技能を持った専任の司書教諭の養成と配置が必要です。しかし、このような学校図書館や専門職の役割について、一般の教員に十分に認識されていないのが現実です。学校全体で学校図書館の再生に取り組む体制を作るためには、まず、司書教諭だけでなく管理職や一般の教員を対象としたリカレント教育を地区や学校単位で実施する必要があるでしょう。
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