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主体的な学びを育むメタ認知能力とは?

2007年01月01日 | 「学び」を考える

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 大晦日の朝、TBS系のサンデーモーニングが世界の軍事力と平和の特集を組んでいた。そのなかで軍事評論家の小川和久氏が、民主主義社会においてシビリアンコントロールによって平和を維持するには、必要な情報をきちんと集めることが必要だが日本のジャーナリズムはそれができていない、手に入れることのできる情報はその人の能力に応じて決まる、情報収集能力を高めることが必要だ、といった趣旨のことを語っていたのが印象的だった。

 では、私たちが学校で教えようと主張している情報活用能力あるいは情報リテラシーは、現実社会(文化・歴史的文脈)のなかでどれほどの使用価値をもつのだろうか? はたして、小川氏の言うような情報収集に向かわせる動機を学習者に与えうるのだろうか? 情報活用能力を育成するということは、学習者が必要な情報を自ら収集、活用して、主体的に知識や技能を獲得できるようにすること、すなわち「学び方を学ぶ」メタ認知の技能を身につけさせようとするものである。そこで最も重要なのは、どのような課題を解決するために、どのような情報を必要とするのかを学習者自身が、どのように判定するのかということである。

 ユリア・エンゲストロームは、『拡張による学習』(新曜社、1999)のなかでメタ認知に関して、ブラウンたちの「基本的なメタ認知的技能」「学習状況の4要因モデル」を批判的に取り上げて次のように述べている。 「学習者に与えられた目標や課題が、彼らにとって意味をなさない場合はどうなるのだろうか。」「はじめは最適な自己指導力と自己認識力を兼ね備えているようにみえた学習者も、現実には、権威あるものによって与えられたあらゆる状況に適応するもっとも上手なテクニックを知っている、きわめて小利口な人間であることが多い。」

 生徒は、学校という場で行われる学習活動が自分にとって意味をなさない場合でも、教師が何を求めているかを察知し、「どうしたら最小の努力でよい成績をとることができるか」を考えようとするものだが、「真の意味での高次のメタ認知技能を形成」し、主体的な学習を行うには、次のことが必要だという。

(a) 個々の学習状況だけでなく、その状況が埋め込まれている持続的な活動の文脈(学校教育、労働、科学、芸術、その他の活動)を、たえず分析し、習得すること、

(b) 学習状況の構成要素のバランスを取るだけでなく、学習課題に内在している本質的な矛盾―つまり交換価値と使用価値の統一体としての二重の性格―を「見抜くこと」(p.148)

 たとえば、生徒が学校で主体的に学ぶようになるには、まず学校教育とはどういうものかを知ること、そして与えられた学習課題が、良い成績をとるということと、現実を把握し生産的な実践を行うために必要な知識と技能を身につけるという矛盾した両面を持っている場合、それを見抜くことが必要である。そのような矛盾に気づいた生徒は、最初のうち、授業に逆らうような質問をしたり、反論したり、学習を放り出したりするかもしれないが、エンゲストロームによると、それは個人主体から集団的主体へと発展する過渡的なものだという。

 真の知識は、過去に生きた人々や同時代を生きる人々とともに文化を形成するという集団的な営みに参加することを通して獲得され、使用されるものである。そのためには、目先の課題だけにとらわれないで、まず自分がどのような状況におかれていて、そのなかで行う活動が、何を目的とし、どのような意味を持っているのかを認識しておく必要がある。個人の欲求を満たす活動も、自分が所属する集団や組織の維持と利益を追求する活動も、ただそれだけでは自己中心的である。活動の文化・歴史的文脈を俯瞰し他者の視点をも組み込んだ思考が展開されるとき、それを乗り越えるきっかけをつかむことができるのではないか。(そのための具体的な方法論として、リチャード・ポールたちが提唱するクリティカル・シンキングの技法が有効であると筆者は評価している。)

 情報リテラシーの育成を進めるにあたって「自ら課題を設定し、自ら情報を探索、収集し、活用する力を養う」というスローガンを掲げることはたやすい。しかし、それが真の学びを育み、民主主義社会を持続させながら新たな人類の文化の形成に寄与する主体を育てる活動となるには、単に学び方の手順を形式的になぞって情報収集をさせるだけでなく、自らの活動をより大きな社会的な文脈でとらえる能力を育てることが必要だが、このことは、今後、私たちにとって重要な課題になるだろう。 お勧めの一冊です。

メタ認知的アプローチによる学ぶ技術

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目次

第1章 経験のもつさまざまな側面

第2章 学ぶことの喜びと利点

第3章 学習の方法

第4章 最初の発見から学習法を学ぶまで

第5章 認識の罠からその管理統制(コントロール)まで

第6章 知能の働き

第7章 思考スタイル

第8章 思考スタイルを考慮に入れる

第9章 より上手に学ぶための方法

第10章 変わりゆく世界に適応する

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コメント (1)    この記事についてブログを書く
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1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (佐藤 美智代)
2008-05-26 13:28:15
メタ認知のことを教えてくださり ありがとうございます。
山梨県大泉金田一記念図書館にて大人のための絵本サロン講師を依頼され、二冊の本で 紹介活動をしてください と参加者に課題を出しました。

導入には、谷川俊太郎訳「絵本 てん」を読ませてからですが
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