1937年のイギリス。インドでのビジネスで富を得た夫が亡くなり、ヘンダーソン夫人は巨額の遺産を手にするも、寂しさを紛らわすことができません。上流の御婦人の趣味である刺繍も慈善事業も性に合わない。この辺りは皮肉的なユーモアで描いてあります。ヘンダーソン夫人も、どこか「規格から外れる」人だったのでしょう。とにかく、うそ臭い慈善事業なんてムカつくだけ。親友のレディ・コンウェイと話すシーンなどは、ウィットにとんだ絶妙のやりとり、対照的な顔の表情…二人ともまさに名人芸の域で、とにかく、このツー・ショットを見るだけで笑いがこみ上げてきました。
ヘンダーソン夫人が見つけたのはWest Endにある小さな劇場。ショー・ビジネス界に進出することに興味がわきます。そして、そこを買い取り、修復し、やり手のユダヤ人プロデューサー、ヴァンダム氏を雇うのでした。絶妙のコンビとなる二人。どちらも、言い出したら一歩も引かない頑固者同士。何度も何度も衝突していく中で、不思議な友情が生まれていきます。
興行が下向きになったときに、ヘンダーソン夫人が思いついたのがヌード・レビューでした。パリのムーラン・ルージュでは普通に行われていたヌードのショーですが、厳格なイギリス社会ではご法度でした。頭の固い役人を説き伏せる夫人。ここの「話術」が見事です。料理をもてなしながら、徹底的に相手を自分のペースに乗せていくのです。
やがて、再びヨーロッパは「きな臭い」時代に突入します。空襲の恐怖にさらされながらも、前線に赴く兵士たちに、つかの間の楽しみを味わってもらおうとショーを続ける夫人とヴァンダム氏。女優のヌードは「静止画」のように見せるという約束で、芸術作品として上演許可を得ていたのですが、確かに、あるときは勝利の女神として、あるときは自由の女神として、その瑞々しい生命の息吹を披露していました。
ショーの場面は明るい色彩と軽妙な音楽を巧みに使い、女優さんたちの表情もよく、非常にセンスのいいものでした。夫人がヌード・レビューにこだわった理由が最後に明かされます。イギリス上流階級の女性でありながら、性に対してこれだけおおらかに語れると言うのは、もしかしたら、夫人がインドという異文化の土地で暮らした経験が長かったのも影響しているのだろうかと…夫人の口から、それとなく何度も出てくるインドでのエピソードを聞きながら…そうも思いました。
多くの若者が国家のために前線でその命を散らさねばならない異常な状況下、本来個人的なものである性へ興味を高らかに肯定し、人として当然であるはずの情愛の喜びを知ることなく逝った若者たちを、人間として(母として)、哀れでいとおしく感じるという思いの表明は、夫人の内にある「浪漫主義」の表れでもあり、これ自体、強い反戦メッセージとしても納得できるものでした。(夫人の発想は「女性性の商品化」を肯定している云々…というような一部フェ○ニストの意見には与しません。)
さて、衝突しながらも共に劇場を支えてきたヴァンダム氏に妻がいたと知ったときのヘンダーソン夫人の混乱ぶりは大変なものでした。この頃は、口うるさい夫人は劇場への出入りを禁止され、劇場の様子が分からずに不満を感じていたのでした。夫は妻に何でも話すもの。ヴァンダム氏の妻は自分よりも劇場のことをよく知っているに違いないと思うと冷静ではいられなくなりました。氏への思いが恋愛感情だったのかどうかはわかりませんが、一番身近にいる人でありたかったという気持ちは分かります。
世間知らずなヘンダーソン夫人は失敗もします。夫人が一人で湖のボートに乗るシーンがいくつかあります。おそらく、おそらく泣いていると思われるシーンです。しかし、彼女は最後まで、決して人前で泣き言は言いませんでした。何でも自分の思うとおりにしないと気がすまなくて、子どもっぽいところがあって、口うるさくて…でも、何かを「成し遂げる」ことができる人とそうでない人は、ここが違うのだろうと思いました。(私には無理だとも…笑)
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