1. キスなら後にして
2. Special Thanks
3. DOUBLE meaning
4. Like a moonlight
5. 君が消えてゆく
6. さよならを忘れないで
7. 偽りのI love you
8. No Man No Cry
9. 星降る二人
10. WAKE UP
11. 雪の降る街を
94年にリリースされた稲垣潤一さんのアルバム。
今は廃刊になってしまいましたが、当時メジャーだった某音楽雑誌に「読者によるアルバム/コンサート・レビュー」というコーナーがあって、そこで私のこのアルバムのレビューが載りました。(わ~…そんな日もあったよ…)もちろん、実名で載っています。この雑誌のこの号を今も持っている人には、私の実名がわかってしまったことになります(!)
このアルバムは、いろんな意味で、ひとつの区切りになったアルバムだったような気がします。最も特徴的なのは、これが稲垣さん初のセルフ・プロデュース作品だったということ。
私にとっての稲垣さんの魅力は、何度も書いていますが…、様々な人の手によって「作り上げられた」ことによるクオリティーの高さ、稲垣さんという「人間像があんまり前に出てこない」ことによって、独特のヴォーカルが一定の「純度」を保っているということでした。稲垣さん自身は過酷な下積みを経たバリバリの「叩き上げ」で、当時のニュー・ミュージックのアーティストに多かった「比較的高学歴で器用で多才」というイメージではなくて、頑固な職人さんのようにいつも不機嫌で、細部まで気になって仕方がなくて、なかなか自分にOKサインが出せなくて…そんな中で究極の技を追求していくような、そんなイメージだと感じていました。
セルフ・プロデュース…
ちょっと複雑な思いはありましたが、しかし、ヴォーカリストに徹するやり方で成功した人が、今度は自分で全てをやってみたい!…と望むのは人間としては分からないでもないし、これも「人間の歩む道」なんだと応援していくしかない…なんて、当時はファンを通り越して、殆ど「身内」のような意識でいましたね(笑)
さて、実際のアルバムですが
今聴くと、やけに声に力が入っている(笑)。これは渡米してミキシングをしてきたものなので、音は、ちょっとバタ臭いけれど、それなりに拘りが見られるし、全体としては良く作られているという印象です。初めてのセルフ・プロデュースということで、相当の力が入っていたことが伺えます。
ただ、一つひとつの曲はねぇ…いわゆる「全盛期」の頃の曲と比べるとあんまり魅力は感じませんね。終盤のNo Man No Cry、星降る二人、WAKE UPあたりの流れは結構好きだったりしますが。
オープニングのキスなら後にしては、まぁ早い話がクリスマスキャロルの頃にはと酷似しています。稲垣さんは「女言葉」の曲を歌ってみたいと言っていたので、この曲はそういう面では新しい試みでもありました。しかし今聴くと…なんか、お昼のドラマの主題歌にしてもいいかも…と思ってしまいました。(実際、最近の昼ドラ主題歌は結構ビッグネームが歌ってますからね…私は昼ドラのファンなわけではありませんが…一応、お断りしておきます)稲垣さんが作り出す世界には、もともとちょっとナンセンスなところがありました。でも「シャレにならない」のがちょっと痛かったかなぁ…と、今となっては思いますよ。
このジャケットはバックが黒で稲垣さんが手をかざして空を仰ぐようなポーズを取っています。収録曲には「夜」「星」「月」などの歌詞が出てきますし、全体的には「夜」のイメージですね。「永遠に一度だけ訪れる星空(星降る二人)」を見ているような…星の瞬間を求めているような…
さて、このアルバムを引っさげてのツアーが始まったわけですが、地元でも都市部でも、空席が目立つようになっていました。客席から見ていても、稲垣さん自身に疲れが見られるようになっていました。
この頃は、毎年、2月の苗場に始まって、春にはニュー・アルバムをリリース、そして全国ツアー、フィナーレは武道館。ファンにとっては、稲垣さんの音楽と共に、一年間は夢のように過ぎていたのに…しかし…もしかしたら、このサイクルが崩れるのではないか…夏ごろにはそんな空気を感じ始めていました。やはり、永遠に続く夢なんてないのですよね。
そして、この年の夏、稲垣さんは泉谷しげるさんのライフ・ワークのようになっているチャリティー・コンサートに参加することになります。他のアーティストたちと共に…
これねぇ、ちょっと複雑でした。私が絶対好きになれなかった、いわゆるフォーク系の人たちとの競演~!?私の中では、稲垣さんと他の(従来の)アーティストはしっかり差別化されていたのに~他のアーティストたちと共に「フォークの名曲」を歌う稲垣さんを見るのは~…。
しかし、結果的には、このイベントへの参加をきっかけに、稲垣さんはまた生き生きとしてきました。フィナーレの武道館では、例年と変わらないカッコいいライブをやってくれましたしね。また、このチャリティー・コンサートの様子がドキュメンタリーとしてTV放映されましたが、他のアーティストたち(特に伊勢正三さん)が稲垣さんの音楽を高く評価しているのが伺えて、とても嬉しく感じたものでした。
どちらにしても、この時期の稲垣さんは何らかの帰属感を求めていたのかもしれません。私としては、日本のミュージック・シーンにおける、そのユニークなポジションを守り続けてほしい思いで一杯だったのですが、稲垣さんにそういう気持ちがなかったのか、それとも、周囲のそういう期待が重荷になったのか…今でもよくわかりません。(ご本人に聞いてみないと…笑)
なんか、アルバムの内容のことはあんまり書けませんでした。
稲垣さんはヴォーカリストとしては非凡な人だと思いますが、人間としてはあまりにフツーっぽい(笑)のです。そのあたりの危なっかしさも魅力のひとつでした。(もともと、あんまり「出来すぎ」なものには愛情が沸かない私{笑})しかし、そういう危なっかしさもだんだんシャレにならなくなってくる…でも、そういうのも「一人の人間の歩むあたりまえの道」なのかもしれない。自分の作り上げたものを守りきれない…というのも、ある意味「人間らしい」と言えばそうなのかも…とも思ったり。
セルフ・プロデュース・アルバムをリリースした後は、一年のサイクルは次第に崩れてきました。バブルがはじけて、時代の空気も変わってきていたときでした。
PS 最初に述べた音楽雑誌のレビューには、当たり障りのないことを書いていました。
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