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And This Is Not Elf Land

ステージからスクリーンへ(10)

今回は、ロレインの登場するシーンについて。


舞台版「ジャージー・ボーイズ」は通常の台詞だけでなく、独白や傍白と言われるものもふんだんに使われていて、それは映画にも取り入れられました。

舞台ではこの種の「語り」はある程度様式化されて演じられますが、映画は空間としての制約もなくなり、こういう場面は言葉以外の情報もふんだんに伝わる。この映像の利点を生かして、どこも面白くできていました。

特に印象に残ったのが、トミーが「回転扉」と言いながら体を一回転させたり、ニックやボブがパフォーマンスの中から「抜け出してきて」語りだすところなど。カメラのアングルも自由になる分、より魅力的に映ります。

私自身、舞台の中で、もっとも気になっていた語りのシーンというのは、フランキーが、ロレインと暮らすアパートで、マリーやフランシーンに対しての心配を口にするところ。映画にもありました。

舞台で観ると、ここは台詞なのか独白なのか傍白なのかよくわからない。フランキーが「どこに向かって」「誰に向かって」話しているのかよくわからない…舞台上では、近くのテーブルで、不満げな表情で荷造りしているロレインが存在するのですが、フランキーが彼女に気づいているのかどうかもわからない。そして、その語りに突然ロレインが介入してきます「こんな狭いアパートで、あなたの家族全員の心配をするスペースはないわ」

「ジャージー・ボーイズ」の舞台全体を通してみても、ここのシーンは非常にユニーク。ちょっとはっきりしない部分もあることで、様々に解釈ができる面白いシーンでもあります。ここのシーンは映画ではどうなっているんだろう…と、興味津々で観たのですが…私は痺れました(笑)

映画では、狭いアパート内を移動しながらフランキーが語るのですね。莫大な借金の返済だけでなく、家族のことでも精神的にいっぱい、いっぱい…ついつい愚痴のようにして口から出た言葉が部屋の仕切りや壁、ドアを超えてだんだん今そこにある現実に近づいていくという演出で見せています。そして、ロレインがいる寝室にたどり着いたとき、彼女の台詞によって、もう一つの目の前の現実を突きつけられます。「こんな狭いアパートで、あなたの家族全員の心配をするスペースはないわ」

まさに、舞台のあのシーンを映像化するとこうなるのでしょう。上手いなぁと思います。

また、舞台では、荷造りしているロレインを見て、フランキーがハッと我に返り「何やってるんだ?」と言うのですが、映画では、フランキーが特に驚かないので、私のほうが焦ってしまいました(笑)ロレインはキャリアウーマンの先駆けのような女性であり、次々と出張の仕事が入って当然なのですね。確かに、かなり大きなスーツケースに詰め込んでいて、いかにも出張のための準備をしているという様子です。それがロレインの日常だったのでしょう。だからフランキーも別に驚かない。

舞台の場合は、ここは非常に象徴的になっています。黒いミニドレスを着たロレインがフェミニンな感じの丸いバッグにランジェリーなどをたたんで入れています。まさに「愛の巣から出ていく」というのはこういうことなんだ、というシーンですかね。あそこで、ロレインが普通の旅行鞄にタオルとかセーターとか詰め込んでいたら、かなり印象が変わってくるだろうな、といつも思うのです。そこが舞台の監督であるデス・マカナフの巧みなところ。


(舞台のロレイン)

ブロードウェイで長い間ロレインをしていたヘザー・ファーガソン…映画ではフランキー・ノーラン(4人に大声のバックコーラスを入れられて怒っていた歌手)役で出ていて嬉しく思いましたが…その彼女と「あの丸いバッグは多くを語っているよね」なんて話したことがありました。

ところが、映画でのロレインは色気のない(?)大きなスーツケースに普通の衣類とか詰め込んでいるじゃありませんか(笑)最初はびっくりしましたが、でも映画はあれが正解でしょう。現実問題として、ランジェリーだけ持って出ていっても仕方がありませしね…。ロレインは、妻だったマリーの対極にあるような、キャリアウーマンのイメージを大切にして描かれています。

しかし、時代の最先端を行く女性であったロレインにも…というよりも、そういう女性であったからこそ、フランキーと仲間たちとの関係は理解できないものでした。そのあたりにも説得力を持たせています。

コメント一覧

Elaine's
akikoさま、

ロレインが出ていくときに口にするのは、舞台ではジョーイではなくて、チャーリー(カレロ)の名前を言います。チャーリーはその後の彼らの主要メンバーで、音楽ファンに知られている人ですが、映画ではそのあたりの人物は触れないで終わっています。

回転木馬といえば、ちょっとした歌詞にも出てきますが「ずっと追いかけても追いつけない」というような意味かな?と思います。

ぜひぜひ、舞台の台詞にも注目してください。まだまだ面白い発見があると思います。楽しみですね。
akiko
他の方のコメントを読むのも楽しいです。私の住む地域では上映が終わったので、まだ東京は続いているようですが、ブルーレイを楽しみにします。
あの困った歌手の役の方が、舞台のロレインだったのですね!
来日公演、以前にウエストサイドストーリーを見に行って、本当にガッカリしてから見ないことにしています・・。ジャージ・ボーイズはレベルが高いということで楽しみです。
ロレインが出て行く場面は本当に印象的でした。現実ってこういうことか・・と思いました。あのときに、ジョーイの名前もでたので、いまだにフランキーはジョーイのことも大事にしてるのか?とビックリしました。本当に彼らが大事なんだなぁと。
回転木馬からもうおりる、とありましたが、回転木馬には英語ではどういう意味があるのでしょう?たのしい恋愛ではなくなった、もう現実を進む、みたいなことかな?と何となく納得はしたのですが・・。
Elaine's
ちゃらさま、

来日情報も要チェックですね!
映画のほうも長く愛される作品になりそうで嬉しいです♪
プレミアムシートというものも一度経験してみたいと思います。
ちゃら
詳しくありがとうございます~
ちょっと期待したいなと思います~
銀座と新宿、六本木(ヒルズはプレミアなので高いですが)など、まだ来週も上映するようなんで、
来週又見に行きたいなと思います
Elaine's
ちゃらさま、

ついに来日しますね~!
この冬の韓国公演はシンガポール→南アフリカの公演をしたカンパニーでしたが、あそこはもう解散しているはず。UKツアーは今年いっぱいスケジュールが入っていますし、USツアーかな~と期待しています。

ジャージー・ボーイズのツアー隊はかなりクオリティーが高いです。全米を追っかけるファンもいますし(笑)「ブロードウェイよりもいい」という人たちさえいます。実際、映画に出ていたエリック・バーゲンもマイケル・ロメンダもブロードウェイではなくツアーに出ていた人たちですから。期待したいと思います!
Elaine's
nakatakeさま、

コメントありがとうございます。よろしくお願いします。

ミュージカル映画は「都市型ヒット」と言われることがあります。やはり、生の舞台や音楽に触れる機会の多い都会の人たちのほうが、こういうタイプの映画に向かう傾向があるのでしょうね。それでもうちの地元ではこの木曜日までやっているので、あと数回観てこようと思います。
ちゃら
場所によって違うのか?渋谷は人が入るからか大きい箱に移動し、
六本木は3000円ていうプレミアムシートの映画館に金曜から移動しました
プレミアムは、値段が高いのでどんな作品でもガラカラなんですが、
金曜に翌日土曜の予約を見たら、既に殆ど埋まってました~
らいねん舞台のジャージーボーイズが見れるので嬉しいのですが、ブロードウェイやウェストエンドではなく、全米ツアーメンバーのってどんな風ですか?
以前コーラスラインが来た時に観たら、ダンスが揃ってなくて、クオリティーがいまいち、本場ブロードウェイキャストで見たかった~なんて思っちゃったんですがー
去年のオーブでのドリームガールズは良かったですがー
nakatake
こちらのブログを参考にしつつ2度目の鑑賞に行ってきました。おかげさまでさらに映像と音楽を堪能できました。田舎なので仕方がないとはいえ残念ながら客はガラガラ。で、周りにに誰もいないのをいい事に歌を口ずさみながら映画を観るというというありえない経験が出来ましたよ。
Elaine's
ちゃらさま、

有名人の方も次々とコメントしてくださって嬉しいですね。
しかし、高畑さんパンフ2冊、どうされるのか(?)
CDとかDVDとかなら、2枚買って、1枚は封を開けてないで永久保存とか(笑)ありますが…
この流れだと、舞台ミュージカルも来日してくれるんじゃないかと期待が膨らみます。
ちゃら
こういう舞台と映画の違いという貴重なお話を聞くと、ますます舞台も見たくなっちゃいます
女優の高畑純子さんも見に行かれたみたいで、
ボブ役のエリックバーゲンがどストライクで、
映画じたいも良くてもう一度観たい
パンフも残り2冊を、ゲットしたとブログに書かれてました
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