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アメリカ、イギリスなどで6月20日にオープンした本作。世界で2200万人以上が観ているという人気ブロードウェイ・ミュージカルをクリント・イーストウッドが監督するという注目の映画でありながら、批評家の評価は冷たいものでした。
私は7月に渡米してこの映画を数回観たのですが、映画としては決して悪い出来ではないと思いました。ただ、それまでのネガティブなレビューをたくさん読んでいたので、相当の「覚悟」をして観たというのはあります(笑)つまり、相当に地味で躍動感のないものを見せられるのは覚悟していたわけ。
確かに、3連続ヒットの最初Sherryは「ああ、なるほど…」、Big Girls Don’t Cryは「まあまあ。ニック役に何度もマイクを向けているのは(舞台にはないが)なかなかいい」とどめのWalk Like a Manは「おっと、そういう解釈にしましたか…」つまり、最大の盛り上げ曲の一つであるこの曲に勝負をかけてないんですね…なんか、このシーンで私は悟りました…
舞台になじんでいる人はWalk Like a Man, Dawnなどもライブ感いっぱいで盛り上がる演出で見せてほしかったでしょう。舞台では、Walk Like a Manは、セルジオ・ツルヒーヨの振り付けも冴えわたり、躍動感いっぱいのシーンになっているのですが、映画では「ボブ・ゴーディオが大人になる」シーンに画面は置き換えられます。(ちなみに、舞台では「ジャージー契約」の後Oh, What a Night!が始まり、まさにここのシーンにつながります。歌詞の意味から考えると、こちらのほうがしっくりくるんですけどね)
また、舞台ミュージカル「ジャージー・ボーイズ」のアートワークでもある4人の後ろ姿の絵は、舞台ではDawnを歌い終わったときの「決めポーズ」です。映画でも同様のものを期待されて当然だと思うのですが、映画では、この曲は「サワリのみ」、完全なBGM状態になってしまっています。
とにかく、舞台で盛り上がる曲の多くが、映画では「BGMになってしまっている」…これに落胆して、途中で席を立ってしまったお客さんもいたと聞きます。
でも、映画としてはよく作られていると思います。回数を重ねるたびに映画の解釈が好きになっていきます。もっとも、アメリカでも映画そのものの出来が悪いという批判はなかったような気がします。あくまでも「舞台ミュージカルの映画翻案として成功しているとは言えない」というものでした。
舞台では「いわゆるミュージカル的な表現」も多少あるのですが、映画では、そこがすべてなくなっているであろう…というのは、個人的にも、ある程度想像できることでした。正直、映画を観ていても、フランキーは「トミーの借金のすべてを払う!」と宣言した後、私の中ではStayのイントロが鳴るのですよね。舞台では、ここの対決シーンでも歌うのです。舞台ならではの象徴的手法とでも言うべきか、とにかくこういうのはスクリーンではなじまないでしょう。映画では、そこを抜いたのは正解だったと思います。
それでも、パフォーマンスの見せ場の多くの部分がBGM同然になってしまうというのは、確かに疑問はあります。やはり、もうちょっと「映画で舞台の感動の追体験をしたい」というミュージカルのファンの気持に沿った作り方もできたのではないかと…。人気舞台ミュージカルの映画化の大きな意味のひとつには、舞台の追体験ができる喜びを映画館で味わってもらうことも含まれると思うのですが、この映画は、この点は薄くなってしまっている…というよりは無視されてしまっています。
これでは、「ジャージー・ボーイズ」が国民的ミュージカルであるアメリカで受け入れられないのも仕方がないと思います。映画の出来どうこうよりも…日本人の感覚に(無理やり)例えるとしたら、忠臣蔵なのに大石内蔵助が「おのおのがた、討ち入りでござる」と言わないのと同じようなものなのですよ。
また、アメリカでは、映画批評をする立場にある人はトニー賞をとったミュージカル作品をチェックしていないわけがない。つまり、アメリカの批評家は全て舞台を観ていると言っていい。しかし、日本の映画批評家で、この「ジャージー・ボーイズ」の舞台を観ている人は殆どいない。まぁ、日本未上陸の作品なので仕方がないのですけど。
ブロードウェイの人気ミュージカルは数ありますが、来日公演があったり、日本でも翻訳上演されるなどして知られている演目も多い中、この「ジャージー・ボーイズ」ほど、日米で知名度の差があるミュージカルはありません。もともと「ジャージー・ボーイズ」は英米豪などの英語圏での人気が素晴らしく、言葉の壁というリスクを背負ってまで非英語圏に進出する必要はなかったのでしょう。「マンマ・ミーア!」のように、世界の多くの国と言語で上演されてから映画化されたのとは多少事情も違ってきます。
ちょっと話はそれましたが…
パフォーマンスのシーンなどは、舞台を観た人なら「えっ、これだけなの?!」と拍子抜け…であっても、良くも悪くも、舞台を見ていない人にはそれがない。だから、日本では、映画の優れている面だけを素直に評価できる人が多いのでしょう。
ただ、日本で映画を語る人たちというのは、ミュージカルや舞台に関心のある人があまりいないばかりか、「ミュージカル」については、むしろネガティブな印象しか持っていない人が多いですよね。まぁ、そういう人たちでも、今回はイーストウッド作品だということで映画館に行かれた方が多いんだと思いますが。そういう人たちに言わせれば「あまり(狭義の)ミュージカルっぽくない」ということはプラス評価に値することなのでしょう。
とにかく、日頃からミュージカルに興味のない人にとっては、いくら「ジャージー・ボーイズ」がトニー賞を受賞した大ヒット・ミュージカルとは言われても、元のブロードウェイミュージカルなんてのも、所詮は「軽いノリで歌ったり踊ったりして、フォー・シーズンズのモノまねをやっているようなショーなんだろ…」くらいの想像しかされないのでしょう。ですから、「意外にもドラマとしてしっかりしていた」というのが、すべてイーストウッドの腕だ!…となってしまう。あるサイトでは「バンドの成功と破たんと言う{ありがちなテーマ}をイーストウッドが良質のドラマにした」なんて書いてあるんですが、そんな「ありがちな」ストリーのミュージカルがトニー賞の作品賞をとれるはずがないのですが…それでも、もともとミュージカルに興味のない人なら、そこまでは考えが及ばないでしょう。
アメリカでは、シカゴトリビューン紙などの「良質の舞台を、安易な方法で映画化しただけ」という手厳しい評価もあったのですが、日本では「ジャージー・ボーイズ」の作品としての本来の面白さを知る人は少なく、結局「ジャージー・ボーイズ」が面白いのは、すべて「イーストウッドが素晴らしいから」となってしまう。で、映画関係者あるいは映画ファンが手放しで絶賛しているんですから、評価が高くなって当然でしょう。
昨夜のBS JAPAN「シネマ・アディクト」の芝山氏の話を聞いていても、わたしはあまりしっくりきませんでした。芝山氏は「ジャージー・ボーイズ」を真っ先に高評価された方々のうちのお一人で、私も嬉しく思ったのですが…まず、氏がおっしゃるには「ジャージー・ボーイズを、スコセッシなどが撮ったとしたら、(イタリア系のコミュニティーが舞台でもあるので)もっとドンパチやるシーンも入れて描いただろう」と…。氏は雑誌では「ジャージー・ボーイズ」の舞台を一度見られたことがあるとは言っておられますが、あくまでも、あの舞台の映画化で、だれが監督になろうとも、一体どこを「ドンパチ」にするというのか???私は理解に苦しみます。はっきり申し上げて、「まず監督ありき」で語られるのにはついていけないな…というのが正直な感想でありました。
とにかく、第4の壁を破る演出も、小気味良い楽曲へのつなぎも、ほぼ元の舞台の通りです。OUR SONSがFOUR SEASONSへ、ビバルディ、「人喰いアメーバの恐怖」、リンゴ・スター、洗面所、タオル、テン・イヤ~~ズ!などのネタ、ブリル・ビルディングの会話や、ツアーで2台の車に分乗している時の会話、法廷の会話、「恋のハリキリ・ボーイ」の解釈に文句をつけるトミー、そして会話の中における「ホーンセクション」への言及をクライマックスシーンにつなげる鮮やかさ…ほぼ舞台の通りなのです。「イーストウッド節が冴えわたっている」なんて言う人がいますが…どこが「イーストウッド節」なのか教えていただきたい。もし、そう感じられるのなら、きっとイーストウッドとリック・エリス&マーシャル・ブリックマンの脚本コンビには共通するセンスがあるんでしょう。そうだとしたら、それはそれで面白いとは思います。
「ジャージー・ボーイズ」は、日本では映画化されるまではごく一部のミュージカル・ファンしか知らないミュージカルでありましたが、そのファンの間でも「この作品はとても日本人好みだし、日本でやってくれるといいね」と話していました。
まず、その「音楽」。フランキー・ヴァリ&ザ・フォー・シーズンズの名前こそコアな音楽ファンにしか知られていないかもしれませんが、その音楽は誰でも耳にしたことがある。今回の映画を見られた方の反応を見ても「知らない曲ばかりだった」なんて言う人は誰もいない…世の中が豊かになり始めたころに日本の歌手によるカバーでヒットした曲、夜のバラエティ番組で使われた曲、バブルの煌めきの中でカバー曲としてヒットした曲…知らず知らずのうちに日本人の生活の中に入り込んでいた曲が認知されていく過程を見ているのは感動的でもあります。最近では昔ほど洋楽を聴く人がいないようですが、彼らの音楽はちょうど日本人がアメリカのポップスに憧れていたころの音楽で、わかり易くて親しみやすくてどこか甘酸っぱい。
また、例えば「ドリームガールズ」のジェニファー・ハドソンのような迫力のある超絶歌唱も素晴らしいけれど、このジョン・ロイド・ヤングのような「日本のアイドルよりもちょっと上手い」ぐらいの歌唱が、日本人にはちょうど好感が持てるものなのではないかという気がします。(実は、私はジョン・ロイド・ヤングは特別に歌が上手いとは思ってない…その話はまた別に~)
ストリーに関しては、義理人情という不文律の掟が支配する世界というのは、日本人にも大いに馴染みがあるもので、その中で自己犠牲も厭わないの登場人物は、やはり観る人の共感を得るでしょう。もしかしたら、アメリカ人よりも日本人のほうがわかる世界観ではないかと思います。ジップ・デカルロから与えられたクレイム・チェックック、ゴーディオとの握手による契約…シンボルの使い方も上手い。それも、黒目黒髪の日本人にもどこか親しみが持てる容貌の男たちが演じるわけですからね(笑)
私は主にミュージカル映画ぐらいしか観ないので、この「ジャージー・ボーイズ」も他のミュージカル映画と比べることしかできないのですが、例えば「オペラ座の怪人」の映画にしたって、世界的には「失敗作」とされて評価も低いものでしたが、日本のみで大ヒットしました。これもゴシックロマン、コスプレ的な面白さ(?)、哀感のあるメロディーなど、日本人の好む要素に溢れた作品でした。ミュージカル映画というのは、理屈抜きで、五感に身をゆだねて楽しむようなところがあるので、日本人の好む要素が含まれている作品であれば、日本でのみヒットしても不思議はないと思います。ただ、「オペラ座の怪人」の場合は、日本では観客に圧倒的に支持されましたが、批評家の評価は普通だったと思います。批評家がこぞって絶賛している「ジャージー・ボーイズ」とはその点で異なっていますが。
この「ジャージー・ボーイズ」は、イーストウッド監督が食材そのものが持つ質感を大切にして、繊細な香りの出汁で、ほんのり薄味で料理してくれたもので、まさに上質の日本料理のように仕上げてくれたものだと思っています。濃い味に慣れっこになっているアメリカ人には「これ、味付いてんの?」としか思われなかったのかもしれません。(きっと、そうでしょう)
私は既に15回この映画を観ています。(そろそろ観納めかも)でも飽きることはありません。アメリカで観たときも「これを評価しないなんて、この人たちも困ったものだ」なんて思ったものでした。薄味であろうが濃い味であろうが、スクリーン上で繰り広げられているのは紛れもなく私が愛してやまない「ジャージー・ボーイズ」の世界です。
しかし、私は舞台版の大ファンなので、どうしても舞台版贔屓になりますが、日本での反応を見ていると、「食材をさておき、料理人ばかりを誉め過ぎでは?」という思いは消えないのでした(笑)
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