フランキーには「声」があり、ボブには「曲作りの才能」があり、この二人のコンビネーションが数々の名曲を生み出し、成功をもたらしました。
この二人がそれぞれに持って生まれた自らの才能とどう向き合ったのか…ここも非常に面白い。
ボブの歌うCry For Meに魅せられたウェイトレスたちが「この歌は特定の女性のことを歌っているの?」と声をかけたとき「いや、これはTSエリオットの客観的相関物だ」と、いともあっさりとボブは答えます。会話の中に当たり前にTSエリオットが登場するというのは、相当に知的な人間として描かれているということでしょう。
若干15歳で大ヒット曲を生み出したボブは、フランキーの歌声に惚れ込み、二人はパートナーとなります。天才肌のボブは臆することなく夢や理想を求めます。
ここで重要なのは、ボブには広い視野と先見性、論理的な思考力がある一方、平均的なジャージー・ボーイであるフランキーにはそれがなく、その部分においては、二人は決して対等ではなかったということです。
舞台でも映画でも、ボブの加入が決まった次のシーンで、フランキーとボブがブリル・ビルディングへデモテープの売込みのフォローアップに行くと言います。映画では、フランキーは「家族もいるし、もっと安定した生活をしたいから」との理由をトミーに言います。ここは舞台にはありませんでしたが、この台詞というのは、まさに本音であったのかも知れませんし、あるいは、トミーにはとりあえずこう言っておくしかなかったのかも知れません。
映画においても…フランキーは素晴らしい声を持っているということで人々から注目され、賞賛されますが、フランキー自身の「野心」「夢」というものが筋書の中にあまり見えてこない。映画では、冒頭のシーンでジップ・デカルロから「お前は世界的に有名な歌手になるぞ」と言われても「本当になれるのかなぁ」と自信なさげ。次に、フランキーはボブとの繋がりを深くしますが、それは単に収入を増やして安定した暮らしがしたいからなのか、歌手として成功したいからなのか、どちらとも言えないような感じです。
ただ、才気あふれるボブと一緒にいれば、何らかの可能性が開けるだろうという予感を、フランキーは信じていたのではないかという気がします。
ボブの加入について話していたとき、ボブの態度が気に入らないトミーは「あれくらいの奴はゴマンといる!」と反対しますが、ニックは「どこにゴマンといるって言うんだ!」と言い返します。ニックはボブの才能にすぐに気づきました。映画では触れられなくて残念でしたが、実はニックも「ハーモニーの天才」と言われるほどの才能があり、即興でコーラスを作れる人でした。また、ここは映画にもありましたが、フランキーに歌の手ほどきもしたのもニックでした。
しかし、結局はフランキーとボブは、ニック抜きで、「ジャージー契約」を交わしてしまいます。このことについて、フランキーはずっと後ろめたい気持ちを抱いていました。ニックが去り際に「秘密の契約なんてまっぴらごめんだ!」とぶちまけたときに、舞台のフランキーは慌てふためいた表情をしますが、映画では特に表情を変えませんでした。
しかし、昔なじみだったトミーもニックも去ってしまい、フランキーは何も感じないでいられるはずもありません。フランキーもトミーやニックと同じ世界で生きていた人間でした。しかし、ボブはあくまでもビジネスライク…元気をなくしているフランキーに、映画でのボブは新しいメンバーのことを話します。舞台では「大勢いる人間の中からベストの人材を選べばいいだけだ」と言います。私はこの台詞を聞くと、ボブの加入に反対するトミーに対してニックが言った「(ボブのような奴が)どこにゴマンといるって言うんだ?」の台詞が頭の中でリフレインされます…結局、ボブにとってニックは「大勢のうちの一人」でしかなかったのでした。
映画では、表情がはっきりと映し出されるだけに、ボブの意向に従ってフランキーが動いているような印象が強くなっています。舞台にはないのですが、トミーに会計から手を引くように迫るシーンでは(実際のフォー・シーズンズには、こういう場面はあったのだそうです)ニックが「多数決で決めればいいじゃないか」と提案したとき、フランキーとボブは「想定外」のニックの発言に一瞬戸惑う表情を見せます。そして、ボブがフランキーに目で合図を送っています。おそらく「そんな決め方をさせちゃいけない」と言いたかったんでしょう。ちょっとしたシーンではありますが、ここまでボブの影響がフランキーに及んでいるのを見て、私は衝撃を受けました。
フランキーは「何故そうやっていつも僕を説得させてしまうんだ?」と言いながらも、ボブとのパートナーシップを続けていきます。
そして、終盤ですが…ここは舞台と映画と筋書が変わってしまっているので、フランキーとボブの関係については、舞台とはずいぶん印象が違うものになってしまいました。
舞台では、借金返済にあえいでいる中でボブは「君の瞳に恋してる」を書きあげます。しかし、レコード会社はせっかくの曲をリリースしてくれそうにありません。このあたりは映画でも描かれていましたが…ボブは自ら社長やラジオのDJと交渉します。「この曲は僕のものだ」とソングライターとしての誇りも新たに、自らの手でプロモーションをします。
舞台の第2幕は、実はフランキー役は「出ずっぱり」なのです。ミュージカル「ジャージー・ボーイズ」のフランキー役というのは、俳優にとって非常に負担が大きい。(だから、事実上のダブル・キャストになっている)この第2幕の、ボブが曲を世に出そうとに駆けずり回るシーンぐらいはフランキー役を引っ込めてもいいのではないかとも思えます…その後には最大の見せ場である「君の瞳に恋してる」のパフォーマンスが控えているわけだし、楽屋でウォーミングアップをさせたほうがいいのでは…普通に考えればそうです。しかし、舞台監督のデス・マカナフはフランキーを引っ込めません。
このときは、フランキーは舞台のそでにいて、水を飲んだりうがいをしたりして最大の見せ場の歌唱の準備をしながら、自分の曲を世に出すためのボブの苦労を見守ります。ここは、フランキーにスポットライトこそ当たっていませんが、観客からも見えるようになっています。フランキーが「片身だけ」ストリーの中にいるように見えるここの演出も本当に素晴らしいです。
これまでは才気あふれるボブに押され気味に見えたフランキーですが、ボブの闘いを目の当たりにし、「作品を創り出す」側にいる人間の苦しみにも心を寄せることができるようになっていきます。そして、名曲誕生のシーンに移るのです。
映画では、筋の展開を変えているので、ここの印象はずいぶん変わってしまっています。
娘を亡くしたフランキーに「自分を責めてはいけないよ」と言うのは、舞台では牧師です。映画ではボブでした。舞台では「その時しか登場しない」牧師にこの言葉をかけさせています。フランキーが「じゃあ、誰が責められるべきなんだ!」と絞り出すように言うのも牧師に対して。
とにかく…私の中では、ボブとフランキーは仕事上のパートナーではあっても、プライベートでは距離を置いているという印象を持っていました。ところが、映画では、年がら年中一緒に車に乗っているし…なんか、夫婦間のもめごとの相談までもしていそうな感じじゃありませんか(笑)これはちょっと違うのでは~と思いましたね。
天才肌のボブは、その才能とは裏腹に、俗事には疎いというか…そういう人間像を描いていました。私の勝手な想像だったのかも知れませんが。ボブは、ニックが言うように「現実を見ようとしない」それでも「天才であるがゆえに」それが許されていくというか…そういうタイプですね。だからこそ、好む好まざるにかかわらず、常に現実と向き合わざるを得なかったニックの怒りがあります。(この話は改めて)
映画のボブは、その声で自分の音楽の理想を具現化してくれたフランキーへの恩返しとして、失意のどん底にいるフランキーに曲を贈る、という展開になっていました。…まぁ、悪い話ではありませんし、実際ここに感動された方も多いんだと思いますが…舞台と比べると、ちょっと感傷的すぎる気もします。
先に書いたように、フランキー自身が自分の歌手としての才能を一体どうしたいと思っていたのか…ここは舞台でも見えにくい。でも、考えてみれば…舞台劇というものは、ハムレット然り、マクベス然り、「欲望という名の電車」のブランチとステラ、「オペラ座の怪人」のクリスティーヌまで「主人公の意思が見えにくい」と感じる…というのは珍しいことではありません。舞台劇の中の多くの主人公たちも、周囲との複雑な関係性の中で次第に「セルフ」がぼやけていってしまって、やがては本人の意思の及ばない大きな力の渦の中に投げ込まれていきます。観ているものはそこに普遍のドラマを感じるわけです。そして、この作品においては、フランキーにこういう役回りが与えられていると考えることもできます。
舞台の「ジャージー・ボーイズ」というのは、「舞台劇」として比較的整った形をとっています。舞台は春夏秋冬にそって4人がナレーターを務めますが、主人公であるフランキーは「冬」を語ります。苦難に翻弄されながらも、一筋の光を求めてひたすら歩みを続けます。私は「冬」のパートを見ていると、フランキーは「荒野を彷徨うキリスト」なのでは?と思うことがあります。
映画では、そこはかなり崩れてしまっています。しかし、そもそも…そういう「舞台劇としての形態」はそのままスクリーンに移すことは可能なのかどうか…それについては何とも言えません。
(続)
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