映画『クルーシブル』DVDのパッケージを見て驚いた…これって「官能サスペンス」なのか(爆)で、キャッチコピーが凄すぎる…そのまま書くと、とんでもないスパム※が付きそうで書けません(!)
ちなみに、アメリカ本国でのコピーは「アーサー・ミラーによる、時代を超えた『裁かれた真実』の物語」となっております。まぁ、そうでしょうね。でも、日本人には「ワケわかんない」世界でしょう。少なくとも、ピューリタンについての知識がないと、突っ走りすぎた「どろどろドラマ」にしか見えないかも。(当時は、歌舞音曲は一切禁止されていたし、森は神の手の及ばない魔境だった)
これは17世紀末、マサチューセッツ州セイラムで実際に起きた魔女裁判から題材をとった戯曲を映画化したものです。アーサー・ミラー自身が映画版の脚本も書いています。実際、ミラー氏もこの奥にある「どろどろ」&「肉欲」的側面を否定していないんですけどね…とにかく、映画の方は先日初めて見たのですが、これ…わりと良くできた映画翻案ですよ。と思ったら、いろんな賞レースにも絡んでいたのですね。
でも…ウィノナ・ライダーはミスキャストだろ!?が第一印象(?)だったし、『いちご白書』の懐かしいブルース・デイヴィソンは自己保身欲の塊で聖職者の片隅にもおけないパリス牧師を演じているし、「文芸もの」の常連ともいえるポール・スコフィールドはダンフォースかよ!私には(映画のタイトル忘れたけど)良心に殉じたトマス・モア役のイメージが強かったもので…(そのイメージのままなら、むしろヘイル牧師役でしょうが)でもこの方、これが遺作になったのですね~ま、とにかく、時代の流れを感じてしまうキャスティングでもあり、面白いと言えば面白い。
私があんまり好きじゃないキャラクターであるエリザベスはジョーン・アレンが演じていて、彼女はオスカー助演女優賞にノミネートもされているんですが、私は「この人…どんだけ背が高いの!?ダニエル・デイ=ルイスと並んでも、殆ど身長差がないんですけど…」なんて、どうでもいいことばっかり気になってしまいました。
で、映画版の話はこのくらいにしときます。なんたって、キャッチコピーでぶっ飛びましたから(苦笑)
当時のセイラムのように、秩序を維持するための過度な抑圧の中では、一旦「騒動」が起きてしまうと、人々は途端に「思考停止」状態になり、例えば「子どもは悪ふざけをするもの」「死刑になると分かれば、嘘の告白でもするもの」そして「法廷で夫の不義を問われれば、妻はそれを否定するもの」という「常識」さえ見えなくなってしまう。そして、それがおぞましい集団ヒステリーをまねく…
クルーシブルは1980年に上海でも上演されました。『アーサー・ミラー自伝』によれば、自らも文革のもとで激しい迫害を受けた作家、鄭念はこれを見て「文化大革命のそれと全く同じ。中国人じゃない人に、こういう話が書けるとは思ってもみなかった」とミラーに話したと書いてあります。鄭念の子どもは紅衛兵によって殺害されており、ティーンエイジャーの暴虐という点でも共通していると語ったと言います。
文化大革命と言えば思い出すのが、80年代に日本でもヒットした中国映画『芙蓉鎮』…これと『クルーシブル』は、よく似た時代背景ではありますが、それにしてもマイナー・キャラクターなど共通した要素が見られるのですよね…『芙蓉鎮』は87年制作で、古華の小説を原作にしています。原作となった小説は読んでいないのですが、ただ、映画に関しては、謝晋監督が『クルーシブル』の影響を受けたことは考えられると思います。
『クルーシブル』では悪魔学の権威であるヘイル牧師が登場するのですが、彼は次第にセイラムで起きていることの欺瞞に気づきます。そして「荒野を彷徨うキリスト」のように苦しみながら一つの「こたえ」を見出し、告白を拒否しで処刑されようとする人々を救おうとします。
「信仰が血を求めるのなら、その信仰にしたがうことはない」「命こそ神がくれた最大の贈り物なのだ」「誇りのために命を捨てる者よりは、嘘をついて生き長らえる者の方が、神のお咎めは少ない」…しかし、自らが「選ばれた民」として、神の意志で新大陸に送られてきた身であり、その手には「世界を照らす蝋燭」が託されていると信じていたピューリタンたちは受け付けませんでした。それでもヘイルは訴えつづけます。
「神の前では人間は豚に過ぎないのだ!誇りを捨てよ」
しかし、それも理解されないことでした。
で、ここの部分が一番「気になる」わけですが…『芙蓉鎮』にも、実によく似た台詞が出てきます。主人公の陳は町一番のインテリでありながら、「ばかもの」というあだ名をつけられ、人々から見下されながらオドオドと生きています。実際、観ている側も、映画の最初の部分では、彼は本当に愚かなんだろうと信じてしまいます。実は町一番の知識人だったのだと次第に分かってくるのです。
激しい迫害の中で、彼は愛する妻に言います。
「生き抜け!豚になっても生き抜け!」
ここは、この映画の中で一番のクライマックスでもあります。
この映画を見たとき、知り合いの中国の人に、私がこの場面にとても感動したことを話すと「豚のように生きる…というのは褒められたことではない。主人公は、知識を持っていたのだから、もっと不条理と闘うべきだった。そうじゃないと、世界は変わらない…」と言われたのが忘れられません。同じような感想を、中国の映画関係者が口にしているのをテレビで見たこともあります。
映画版『クルーシブル』を見たら、思い出してしまいました…ちなみに、映画の中では、このヘイル牧師の台詞「神の前では人間は豚に過ぎない」は使われていません。
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