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And This Is Not Elf Land

ステージからスクリーンへ(8)


ボブ・ゴーディオとメンバーが初めて出会うシーンで歌われるCry For Me。映画でも、思わず拍手したくなるシーンです~。

このシーンについての感想で「みんな、譜面見てすぐに演奏できるのが凄いと思った」というのがあって笑いました。


現実的に考えれば、おそらく譜面にはコード記号のようなものが記してあったでしょうし、ギターやベースの人は、いわゆる「コード弾き」ができたでしょう。また、舞台では、トミーが「ニックはハーモニーの天才で、相手がどんなメロディーをうたっていても、そばにいて即興ですぐにハーモニーをつけることができた」と語る場面があります。実際のニック・マッシもそのあたりの素晴らしい才能の持ち主だったとのことですが、他のメンバーだって、多かれ少なかれ、ハーモニーの感覚は持ち合わせていたのではないでしょうか?なにせ、みんな歌好きのイタリア系の人々の中で育っているのですから、日本の音楽環境とはちょっと違うのではないかと思います…また、フランキーの〝Don’go baby~″にしても、仮に譜面には書いてなかったとしても(ボブの表情をみると、そんな感じでしたね)日本の民謡を歌う人が、ちょっとした「合いの手」を即興で入れることができるのと同じで、歌に親しんでいた人には難なくできたであろうと考えられます。

…しかし、ホントはそんなことはどうでもいいのです(笑)

だって、これは「ミュージカル」なんですから~

みなさまの感想にもあるように、映画の「ジャージー・ボーイズ」は、いわゆる「狭義のミュージカル」ではないかもしれません。つまり…台詞を歌にしない、日常動作をしながら歌ったりしない、苦しんだり悲しんだりしているときに歌ったりしない…

しかし、「狭義のミュージカル」には、もう一つの特徴があります。

つまり…
「初対面のはずなのに、なぜか、まるで入念なリハーサルをしたみたいに、いきなり息の合った歌を聞かせる」

舞台の「ジャージー・ボーイズ」では、ここのシーンはまさにこれに当たります。舞台は、全体的にはドキュメンタリー・タッチのドラマのように進行するのですが、歌うことで感情を吐露する場面もしっかりあります。でも、映画では、そういうシーンは殆どなくなっています。例えば、My Eyes Adored Youにしても、舞台では、フランキーの夫婦の関係に亀裂が入る場面で、フランキーが他のメンバーとともにこの曲をしっとりと歌いあげるのですが、映画では、娘への歌い聞かせからバックミュージックへと移り変わる手法がとられています。

…で、ここのCry For Meなんですが…舞台は全体的にミュージカル的な表現も残しているので、ここは「初対面なのにハーモニーばっちり」でもさほど不思議ではないのです。(「ドレミの歌」と同じですよ)でも、映画のこのシーンの扱い…難しいところだと思います。この映画では、「狭義のミュージカル」的な手法を排していますから。

ところで、昨年、映画で主演しているジョン・ロイド・ヤングのフランキーをブロードウェイで観たとき、ここのシーンでは、彼はしきりに譜面に目をやる仕草をしていて…明らかに他のフランキー役の役者よりは、このシーンをリアルに見せようとしている様子が伺えました。あれを見たとき、私は「この人、映画もいけるのでは…?」と直感的に思ったのですが、実際にそうなりました。

話は戻りますが…映画「ジャージー・ボーイズ」は「狭義のミュージカル」でこそありませんが、「音楽」を主な表現手段としているには違いありませんし、その中で、第4の壁を破ったり、過去と現在を自由に行き来したりすることで観る者を常に揺さぶります。いわゆる「ミュージカル」として、様式の面白さを堪能できる部分も残しているといえます。

人間ドラマの部分からリアリズムの面白さを感じるのか、音楽や演出から様式の面白さを感じるのか…このあたりは観る者にゆだねられているのでしょう。また、そういう自由を残してくれている作品であるからこそ、支持されるのではないかと思えます。

初対面で息の合った歌を聞かせるシーンで、彼らのリアルな実力に感心した…なんて感想が出るというのも、なんとも面白い。(「ジャン・バルジャンってどこで歌を練習したんだ?」という人は誰もいないのにね…笑)


さて、このシーンに関してもう少し語らせていただくと…

ここで、ウェイトレスの二人がCry For Meに合わせて一緒に踊ります。若い女性同士でダンスをするというシーンって…実は映画でも舞台でもあまり見ませんし、ここはちょっと印象的なシーンですね。

このシーンは舞台にもありまして、イーストウッドがこの場面を映画にも採用してくれたのです。(このシーンに感動した人は、イーストウッドではなくて、舞台監督のデス・マカナフを賞賛してください)(…まぁ…しばらくは「一言多くても」ご勘弁を…笑)

舞台でも、ここは私の好きなシーンです。三連のまろやかなリズム、ロマンティックなメロディー、女の子の体が自然に動き出し、それぞれが自分の愛する人との出会いを夢見ながら踊るのです。この女の子たちが、それぞれの愛に出会うことができるように…と願わずにはいられない。愛にあふれた素晴らしい演出だと思います。


さて、映画では、このボブ・ゴーディオと3人のメンバーが初めてであったクラブの店名は明らかにされていませんが、舞台ではSilhouette Clubとなっています。この店はニューアークの近くに実際にあった店です。今はなくなっていますが、昨年、この店があった辺りに連れて行ってもらいました。今も、小さなバーやカフェが並ぶ下町のたたずまいを見せています。

案内してくださったオードリーさんによれば、実際は、トミーがフランキーやニックよりも先に、個人的にボブと会っていたということです。あれだけ強い力を揮っていたのが事実とすれば、そういう話も不思議ではありません。舞台でも映画でも、ジョー・ペシの存在を面白く絡めるために、こういう流れにしたのかもしれませんね。

ところで、ボブ・ゴーディオという天才作曲家とフランキー・ヴァリが出会ったこのSilhouette Clubなのですが、実は、彼らの運命的な出会いがあった数年後に焼失しています。

以下は、あくまでもオードリーさんが足で稼いでこられた「話」なのですが…その火事の原因は分からないままだったそうですが、実は火事の前日にマネージャーのところにトミーから電話があり「店の楽器類を全部運び出しておけ!」と言われたのだそうです。マネージャーは意味がよくわかりませんでしたが、それでもみんなから恐れられているトミーの命令でもありますし、言うとおりにしないで後で面倒なことになるのも嫌なので、とりあえず楽器を運び出しておきました。するとその晩に火事が起こったのだそうです。

火災の原因は何だったのか?トミーの電話にはどんな意味があったのか?トミーは火災について何らかの事情を知っていたのか?すべては謎のままだそうですが…とにかく、トミーは、結果的には楽器を守ってくれたのだし、さすがはミュージシャンだな~と(そういう結論かよ…笑)


今回はCry For Meのシーンについて語らせていただきました。

コメント一覧

Elaine's
suzyさま、

舞台のボブ・ゴーディオは鮮やかな赤と青のシャツを着てさっそうと登場するので、本当に素敵です:)

舞台は顔の表情がよく見えない分、服の色でそれぞれの個性を表現しているのも面白いですよ。
suzy
そうでしたか
こんばんは~

なるほど~
このシーンでのボブはまさに”掃き溜めに鶴”ですね。

4人がそれぞれのパートを加えていき、
周囲を巻き込んでいく様子に
ただただ感動しただけでした。
何とも単細胞ですね。

ジョー・ペシの動き、しっかりと見届けて参ります(笑)
情報ありがとうございます。
Elaine's
suzyさま、

こちらではもう上映が終わってしまっているので、ドリンク付きプレミアムスクリーンで鑑賞されたというお話、非常に羨ましく聞きました。

ここのシーンは映画でもとても素晴らしかったですね。「遠い国からやってきた」聖人が現れたようです。「俗」を象徴する場末のクラブと、とてつもない可能性を秘めた天才ミュージシャンの対比が見事で、そういうところが観る人の心を打つのではないかと思います。

舞台では、最後はジョー・ペシもコーラスに加わるんですけどね(笑)そのシーンは舞台を観てのお楽しみ♪
suzy
このシーンに一票!
こんばんは~

週末復習を兼ねて(?)、
約1か月ぶりに2回目の映画鑑賞をしてきました。
1回目の地元シネコンは
土曜日にもかかわらずガラガラで、
客層は団塊世代以上って感じでしたが、
2回目の六本木ヒルズは、同じくガラガラでも
若い方が多くてうれしくなりました。
スパークリングワインいただきながらJB鑑賞という、
幸せなひとときを過ごすことができました。

クライ・フォー・ミーのシーンは、
初めて見たとき鳥肌が立ちました。
新し目のシネコンだったせいか、
音響効果がバッチリで、
映画館で観て本当によかったと思いました。

ウエイトレスの女の子がダンスを始めたもの
自然な感じで、場を盛り上げていましたよね。

適材適所といいますか、
曲作りが得意でなおかつ歌が上手い人、
魅力的な歌声とセンスを持つ人、
楽器とハーモニーを即興で入れることができる人、
ダンスで花を添える人…
うまく表現できませんが、
洋楽好きにはたまらないシーンでした。

画像のJLYの表情がたまりません~
Elaine's
あこさま、再びのご来訪ありがとうございます。

5年ぐらい前までは、シカゴとトロントでもシットダウン公演をしていましたし、私はシカゴ‐トロント‐NYの三角地帯の真ん中ぐらいに住みたいなどと「かなり本気で」考えていましたから(笑)

舞台の「ジャージー・ボーイズ」は、あのデス・マカナフの演出がクセになる要素でもあると思います。私は、マリーとの初デートでBGMの最後にフレーズをウェイターが受け継いで歌ったり、ボブ・ゴーディオと引き合わされるシーンでのウェイトレスたちの一瞬の「バカ笑い」とか、ああいう計算されつくした演出が素晴らしすぎます!

マットはもう6年います。最初は彼のニックには「文句たらたら」だったのですが、恐ろしいことに(笑)慣れてしまいました。マットには「日本人が一番気にいるキャラクターはニックだと思う。だって、ニックってサムライみたいでしょ?」というと「僕も同感」と言ってました。前回は「もはや、ショーを独り占め状態ね」というと「いや、そういうつもりはないよ」と照れていました。

今回の映画でも、やはり日本の皆さんにはニックの存在が深く焼き付いたようですし、またニックの記事もUPしたいと思います。
あこ
映画も好きだけど舞台もまた観たいです。
Elaine'sさま

こんばんは、映画をリピートしているのが刺激となっているようで、Jersey Boys、ブロードウェイで3週間前に観たというのに禁断症状がもう出始めています。。舞台のスピーディな展開とライブな感覚をあー、また味わいたいなぁと思っています。怖い系の観客はまだお目にかかったことありません、リアル感ありますね。100回以上観た人何人もいるのですね!わかります。Elaine'sさんの日本に住んでてよかったというのもすっごくわかります。私もロンドンに住んでいたらなーとか、ディズニーランドみたいに年間チケットないの?と探したりしましたがあるわけもなく、でも住んでいたらいつも観たくなっちゃうから、それは大変だと思い直し、日本でよかったと。。
ジャージーボーイズって、観ているとストーリーに入り込んでしまってグループの人生に喜怒哀楽し、歌うシーンでは実際のライブを見ているようです。私の初フランキーはジョン・ロイド・ヤング、翌年ドミニク、 ウエストエンドではライアン(何度もリピート)、マイケル・ワトソンと観ています。ブロードウェイのニックは全てマット・ボガード。私のなかではNick=マットで、なんかスルメみたいであの演じ方はジワジワと観るほどに好きになってます。すごい拍手もらってますね。ライアンはウエストエンドでは揺るぎないポジションだったのですが、ブロードウェイだと他ボーイズのキャラがそれぞれ際立っているから間合いの取り方とかウエストエンドと全然異なり、せりふも態度もずっとアメリカンテイストになっていました。ジョン・ロイド・ヤングのウエストエンドはどんなだったのでしょうか?今回はJoseph Leo Bwarieも観ました。とにかくジャージーボーイズ大好きです。来日してくれたらうれしいですねー!それでは、またお邪魔させてください。

Elaine's
あこさま、初めまして!!
JERSEY BOYSって、ほんとに「中毒性」がありますよ(笑)私は、向こうのファンの方で「100回以上見た」って人を何人も知っています。今となれば「日本にいてよかった」と思えるほどです~
映画というのは、やはり浸透力が凄い。普通に「フランキーが」「トミーが」なんてネット上で語られているのを目にするにつけ、もう感無量です!
ブロードウェイのお客さんは、ニュージャージーの地名や施設名が出ると異様に盛り上がる一団がいたりとか、明らかに怖そうな人がいたりとか(!)なかなか面白いですよ。また、いろいろなキャストのお話を聞かせてください~盛り上がりましょうね!!
あこ
ブログ拝見させていただいています。
Elaine'sさま

初めまして、あこと申します。ブログを拝見させていただき色々教えていただいています。ありがとうございます!2年前にジャージー・ボーイズを初めて観てから、中毒?と思うほど好きになりました。音楽はわー、これもあれも知っている曲だと改めて驚き、ストーリーの面白さと4ボーイズそれぞれの愛すべきキャラクターは何度観ても惹かれます。それ以来Broadway, Westend とリピート観賞しています。どのフランキーも独自の良さがあって好きですが、中でもライアン・モロイFrankieにはまってしまって先月NYに観に行ってきました。やはりブロードウェイなので観客の反応もすごく、化学反応でしょうか、ロンドンのライアンとはちょっと異なる雰囲気のフランキーで面白かったです。そして、ジャージー・ボーイズ映画の考察楽しく読まさせていただいています。ほんとに詳しく、色んな発見をしています。映画はまだ一度しか見ていないので、Elaine'sさんの考察を踏まえて再度見てきます!ジャージー・ボーイズもっとみんなに知ってもらいたいですね!今後ともどうぞよろしくお願いします。あこ
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