ボブ・ゴーディオとメンバーが初めて出会うシーンで歌われるCry For Me。映画でも、思わず拍手したくなるシーンです~。
このシーンについての感想で「みんな、譜面見てすぐに演奏できるのが凄いと思った」というのがあって笑いました。
現実的に考えれば、おそらく譜面にはコード記号のようなものが記してあったでしょうし、ギターやベースの人は、いわゆる「コード弾き」ができたでしょう。また、舞台では、トミーが「ニックはハーモニーの天才で、相手がどんなメロディーをうたっていても、そばにいて即興ですぐにハーモニーをつけることができた」と語る場面があります。実際のニック・マッシもそのあたりの素晴らしい才能の持ち主だったとのことですが、他のメンバーだって、多かれ少なかれ、ハーモニーの感覚は持ち合わせていたのではないでしょうか?なにせ、みんな歌好きのイタリア系の人々の中で育っているのですから、日本の音楽環境とはちょっと違うのではないかと思います…また、フランキーの〝Don’go baby~″にしても、仮に譜面には書いてなかったとしても(ボブの表情をみると、そんな感じでしたね)日本の民謡を歌う人が、ちょっとした「合いの手」を即興で入れることができるのと同じで、歌に親しんでいた人には難なくできたであろうと考えられます。
…しかし、ホントはそんなことはどうでもいいのです(笑)
だって、これは「ミュージカル」なんですから~
みなさまの感想にもあるように、映画の「ジャージー・ボーイズ」は、いわゆる「狭義のミュージカル」ではないかもしれません。つまり…台詞を歌にしない、日常動作をしながら歌ったりしない、苦しんだり悲しんだりしているときに歌ったりしない…
しかし、「狭義のミュージカル」には、もう一つの特徴があります。
つまり…
「初対面のはずなのに、なぜか、まるで入念なリハーサルをしたみたいに、いきなり息の合った歌を聞かせる」
舞台の「ジャージー・ボーイズ」では、ここのシーンはまさにこれに当たります。舞台は、全体的にはドキュメンタリー・タッチのドラマのように進行するのですが、歌うことで感情を吐露する場面もしっかりあります。でも、映画では、そういうシーンは殆どなくなっています。例えば、My Eyes Adored Youにしても、舞台では、フランキーの夫婦の関係に亀裂が入る場面で、フランキーが他のメンバーとともにこの曲をしっとりと歌いあげるのですが、映画では、娘への歌い聞かせからバックミュージックへと移り変わる手法がとられています。
…で、ここのCry For Meなんですが…舞台は全体的にミュージカル的な表現も残しているので、ここは「初対面なのにハーモニーばっちり」でもさほど不思議ではないのです。(「ドレミの歌」と同じですよ)でも、映画のこのシーンの扱い…難しいところだと思います。この映画では、「狭義のミュージカル」的な手法を排していますから。
ところで、昨年、映画で主演しているジョン・ロイド・ヤングのフランキーをブロードウェイで観たとき、ここのシーンでは、彼はしきりに譜面に目をやる仕草をしていて…明らかに他のフランキー役の役者よりは、このシーンをリアルに見せようとしている様子が伺えました。あれを見たとき、私は「この人、映画もいけるのでは…?」と直感的に思ったのですが、実際にそうなりました。
話は戻りますが…映画「ジャージー・ボーイズ」は「狭義のミュージカル」でこそありませんが、「音楽」を主な表現手段としているには違いありませんし、その中で、第4の壁を破ったり、過去と現在を自由に行き来したりすることで観る者を常に揺さぶります。いわゆる「ミュージカル」として、様式の面白さを堪能できる部分も残しているといえます。
人間ドラマの部分からリアリズムの面白さを感じるのか、音楽や演出から様式の面白さを感じるのか…このあたりは観る者にゆだねられているのでしょう。また、そういう自由を残してくれている作品であるからこそ、支持されるのではないかと思えます。
初対面で息の合った歌を聞かせるシーンで、彼らのリアルな実力に感心した…なんて感想が出るというのも、なんとも面白い。(「ジャン・バルジャンってどこで歌を練習したんだ?」という人は誰もいないのにね…笑)
さて、このシーンに関してもう少し語らせていただくと…
ここで、ウェイトレスの二人がCry For Meに合わせて一緒に踊ります。若い女性同士でダンスをするというシーンって…実は映画でも舞台でもあまり見ませんし、ここはちょっと印象的なシーンですね。
このシーンは舞台にもありまして、イーストウッドがこの場面を映画にも採用してくれたのです。(このシーンに感動した人は、イーストウッドではなくて、舞台監督のデス・マカナフを賞賛してください)(…まぁ…しばらくは「一言多くても」ご勘弁を…笑)
舞台でも、ここは私の好きなシーンです。三連のまろやかなリズム、ロマンティックなメロディー、女の子の体が自然に動き出し、それぞれが自分の愛する人との出会いを夢見ながら踊るのです。この女の子たちが、それぞれの愛に出会うことができるように…と願わずにはいられない。愛にあふれた素晴らしい演出だと思います。
さて、映画では、このボブ・ゴーディオと3人のメンバーが初めてであったクラブの店名は明らかにされていませんが、舞台ではSilhouette Clubとなっています。この店はニューアークの近くに実際にあった店です。今はなくなっていますが、昨年、この店があった辺りに連れて行ってもらいました。今も、小さなバーやカフェが並ぶ下町のたたずまいを見せています。
案内してくださったオードリーさんによれば、実際は、トミーがフランキーやニックよりも先に、個人的にボブと会っていたということです。あれだけ強い力を揮っていたのが事実とすれば、そういう話も不思議ではありません。舞台でも映画でも、ジョー・ペシの存在を面白く絡めるために、こういう流れにしたのかもしれませんね。
ところで、ボブ・ゴーディオという天才作曲家とフランキー・ヴァリが出会ったこのSilhouette Clubなのですが、実は、彼らの運命的な出会いがあった数年後に焼失しています。
以下は、あくまでもオードリーさんが足で稼いでこられた「話」なのですが…その火事の原因は分からないままだったそうですが、実は火事の前日にマネージャーのところにトミーから電話があり「店の楽器類を全部運び出しておけ!」と言われたのだそうです。マネージャーは意味がよくわかりませんでしたが、それでもみんなから恐れられているトミーの命令でもありますし、言うとおりにしないで後で面倒なことになるのも嫌なので、とりあえず楽器を運び出しておきました。するとその晩に火事が起こったのだそうです。
火災の原因は何だったのか?トミーの電話にはどんな意味があったのか?トミーは火災について何らかの事情を知っていたのか?すべては謎のままだそうですが…とにかく、トミーは、結果的には楽器を守ってくれたのだし、さすがはミュージシャンだな~と(そういう結論かよ…笑)
今回はCry For Meのシーンについて語らせていただきました。
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