元祖「知的エンターテインメント」
OUR TOWNのワイルダーが1942年に発表した3幕劇。あまりに奇抜な手法に評価は真っ二つに分かれ、途中で帰る人も多かったと当時のタクシードライバーが証言している。それでも300回以上の上演を重ね、ピュリツアー賞も受賞している作品。
このDVDは83年に収録されたもので、ハロルド・グールド、ジョン・ハウスマンなどの名演も堪能できます。これはBWでは86年にリバイバル上演されているそうですが…もうチャンスはないかな?
(余談ですが、このDVDシリーズ、結構面白いものがたくさんありますよ。BWで上演されたストレートプレイの名作を網羅しています)(リージョン1ですが)
これは、ニュージャージーに住む中流家庭が様々な困難と闘っていく話で、何というか、人類の歴史が全部この一家に集約されているような話で…彼らの前に立ちはだかるのは自然の驚異、道徳の崩壊、自我との戦い(戦争)。結婚して5000年になるという(?)夫妻の息子は、人類初の殺人者とされるカインであって…まぁ、そんな感じで(何と大雑把な…汗)人類の進化から、聖書の中の出来事、人類の歴史すべてを巻き込んで話が進む。
それで、劇中で俳優が「素で」喋り出すというハプニング(作家はbreak-throughと呼んでいたらしい)があちこちに仕込んであって、女優が台本にケチをつけたり、こんなセリフは嫌だと舞台監督と喧嘩をしたり…果ては、食中毒で俳優が出演できなくなってstagehandの人たちに代役をさせたりとか…とにかく、当時の観客はかなり混乱したらしい。
それでもって、内容はと言えば、象徴や隠喩、哲学・倫理学からの引用も多くて、これはこれでかなり難解。そこを独特のユーモアのセンスと舞台手法で強行突破している感じ。
最初のばかばかしいニュース読み上げはSaturday Night Liveの原型のよう。とにかく、観客に揺さぶりをかけることで、不条理を笑うというコメディーの手法がさらに際立ったのでしょう。この手法は、ボードヴィルなどのスタイルに親しんでいたアメリカの観客をひきつけるに十分であっただろうし、舞台からある種のエネルギーを感じ取ることで、テーマの難解さがオフセットされたのではないでしょうか。
しかし…確かに、昔は(この第一幕のように)「地球が冷える」ことの方を心配していましたよね(いや、どのくらい「昔」か、ということは追及しない方向で…笑)実際、近未来小説などには「氷河期の再来のパニック」をテーマにしてあるものが幾つもあった気がする。今だったら、地球が温まっていくことの方が現実感のある不安なんですよね。時代は変わっていくものだ…
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