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And This Is Not Elf Land

WAR HORSE



「言葉を話さないものたち」の演技が素晴らしい…

昨年のトニー賞ベスト・プレイに選ばれ、今なおヒットが続いているWAR HORSE。原作はイギリスの有名な児童文学。スピルバーグによる映画は、日本でも間もなく公開されます。

F列のど真ん中という、非常にいい席が取れまして、迫力のある舞台を堪能できました。

内容的には…良くも悪くも「児童文学」でした(?)つまり、無垢で、無欲で、儚げなものは、文句ナシに「善」であって、世の中の矛盾とか、人間の醜い欲望とか、そういうものを自然に正していくという…まぁ、世の中、そんなに甘くはありませんわ(しかし、それを言っちゃあオシマイですがな…ここではそんな捻くれたことは書きませんよ…笑。美しい作品世界を堪能しようじゃありませんか)実際、全体的には、非常にいい舞台でした。観て損はありません。

このWAR HORSEはプレイ(劇)です。音楽も効果的に使われますが、基本、台詞で進みます。中心人物たちは、イギリス訛りで話しています。戦争のシーンになると、ドイツ訛りやフランス訛りの英語も出てきて、ちょっと混乱(?)しますが…原作や、これから公開される映画を「予習」にすることもできますしね。何よりも、パペットを使う舞台というのは、基本、日本人にも馴染みがありますし、どこか「昔見た」的な感じがします(笑)


この舞台となっているのは、20世紀初頭の、イングランドの南西部デヴォン。半島の中央に位置している、なかなかユニークな地形の土地なようですね。しかし、美しい田園風景とは別に、そこに生きる人々の生活は厳しい。

主人公のアルバートの家も、本当は、生活の役に立ってくれる農耕馬が必要だったんでしょう。アルバートと仔馬のジョーイの「心の交流」はまことに美しいですが、裏には「そんな甘っちょろいことは言ってられねぇよ!」という現実があるんですよね。これは、お母さんの台詞の中に何度も出てきます。しかし、そんな中で、アルバートとジョーイは真の心の友になっていくんでした。特に、第一幕は、イギリスの田園詩のようで美しいです。音楽も、プロジェクションも完璧。そんな中、賭けに勝つために、アルバートが、ジョーイに必死で農耕を教えようとするシーンに、私は泣けた!!

そして、どうしても、私は、アメリカのフロリダを舞台にしたTHE YEARLING(小鹿物語)と比べてしまいました…あの、ちょっと複雑な後味を残す話と比べたら、こちらは、なんて純粋でいい話なのでしょう。特に、ジョーイが仔馬だったころの交流のシーンは、本当に美しくて、愛おしくて…自然と涙が出てきました。パペットの操作をする役者さんも素晴らしい!

しかし、ジョーイが大人になって、大きくなると…ちょっと、あの「大きさ」に違和感が(汗)だって、獅子舞の獅子と変わらない大きさだし(…)んんん~、ちょっと大きすぎね???だって、あのサイズじゃ「愛おしさ」は感じないですよ…などなど、思っているうちに、物語は急展開を見せます。

第一次世界大戦が勃発し、ジョーイは軍用馬として戦場に送られてしまいます。第一次世界大戦というのは、あの過酷な塹壕戦とともに、人類史上初めて、一般兵や民間人に多大な犠牲を出した戦争ということで、特に欧米の人々の中では、今でもその悲惨な歴史が語り継がれています。長引く戦争の中で、兵士たちの間の厭戦気分も相当なものだったようです。ヘミングウェイなども書いているとおり…

第二幕は、ドイツの将校のフリードリッヒが重要人物となってきます。実際に戦う軍人たちのやり場のない思いと、戦争の悲惨さが「これでもか」と描かれます。そんな中で、同じく軍用馬である、黒馬のトプソーンとジョーイとの交流が泣かせるの!もうねぇ~、さっきは「でかすぎる」なんて言ってゴメンナサイでした(笑)

戦争という、悲惨な現場に送り込まれることになったジョーイでしたが、いつになっても忘れないでいたのは、イングランドの美しい田園風景の中で…俗世間の、せせこましい損得とか、利害とかに関係なく、自分を「一つの命」として、純粋な気持ちで守ってくれたアルバートとの友情でした。そして、そのアルバートから教えられたことは、もっとも心の深いところで、いつまでも記憶されているのでした…いやいや、泣くよ、これ!

悲惨な戦争と、その中で戦うものたちの葛藤…このあたりは「これでもか!」と描いています。もしかしたら、日本人であれば、もっと違う描き方をしたかもしれないとも思いました。一方、それとは対照的に…いや、それだけに、「話し言葉を持たない」馬の演技の素晴らしさが際立っていました。

「言葉はすべてを伝えない」と言ったどっかの作家がいましたが…そんなことも思い出される、素晴らしい舞台でした。

コメント一覧

Elaine's
フブキさま、

マット君は、ときどき、アルバートも演じていたんですか。それはそれで、ちょっと見てみたかったです~とにかく、WAR HORSEという舞台は、細かい演技は当然ですが、それと同様に、パペットとの掛け合いという緻密な技術も要求されますし、とにかく、パフォーマーとしての高い力量が求められます。

私は、実際に見るまでは、WAR HORSEは、文楽さながらに、パペットを効果的に使うというユニークな人間ドラマ。日本人にもアピールするはず…これは、日本プロダクションが取り上げるのは時間の問題だろう~と思っていたのですが、観ているうちに、だんだんその思いは弱まっていきました。

あそこまで、隙のないプロの仕事ができるパフォーマーをそろえるって…果たして、今の日本で可能なのか…私はフブキ様のように、国内の演劇も豊富に観ていないので、断言はできないのですが、でも彼らと同じレベルのパフォーマーって、そんなに、どこにでもいるはずはない、と思えてしまいました。


お子様たちが成長されるとともに、家族の選択も変わってくるんですね。でも、マット君同様、みなさん、これがまた次なる成長へのきっかけとなられますように。

こちらは、桜はまだつぼみです。もしかしたら、私の記憶にある限り、最も遅いお花見となりそうです。
フブキ
Elaine'sさま

こちらこそ、恐縮です。お忙しい中、コメントへのお返事ありがとうございます!

私のほうこそ最近はすっかり自分のブログチェックもできないことが多く・・・・。

ビリー役、やっぱり陰のある役だったんですね。MATTにぴったりの役だったように感じます。主人公、アルバートも何度か代役で演じたみたいですし、本当にElaine'sさまのご指摘通り、役者として成長できる役だったと思います♪

4月・・・引っ越し、転勤のシーズンですね。我が家も夫に辞令が。それが、MATTが高校卒業後に演技などを学んだ地なのですが、子供らの学校や私の仕事の関係で、まさかの単身なんとやらの可能性大。

ちょっとトホホしております。

お堀の桜もそろそろ満開でしょうか。どうぞ、素敵な春をお過ごしくださいませ。
Elaine's
すっ・・・すいません!
フブキさま!

あり得ない放置、すいません

さきほど、フブキさまの自宅を訪れてみましたら、非常に充実した記事で、考えさせられてしまいました。今後の展開も気になるニュースですが、フブキさまの解説記事も期待しています。

こちらのほうは、ようやく暖かくなりました。(しかし、週末はまた雪の予報が出ていますが)週間予報に晴れマークの並びはなかなか出ません。それでも、どうにか、春の見通しは持てるようになってきました。

マット君は、従兄のビリーの役をしたのですよね。役者として成長できる役だったと思います。ちょっと陰のある役で、主人公のアルバートとは、くっきりと対比させてあるキャラクターで、下手な演じ方をすれば、ありきたりな人物造形に陥ってしまう役どころですが、現キャストも、しっかりと演じていました。

映画版の「戦火の馬」も観たかったのですが、結局、映画館へ足を運ぶことはできませんでした。4月からは、何とか時間が取れそうです。また、映画の記事も書いていきたいと思っています。

フブキ様、今回は、このような失礼をしてしまいまして、本当に申し訳ありませんでした。今後も、ぜひぜひ、よろしくお願いします。フブキ様は、実際にお会いできるチャンスが「大」の方なので(笑)近い将来に実現すればいいと思っています。
フブキ
連投、すみません(-_-;)
Elaine'sさま

連投、ごめんなさい! そして、先ほどのコメントのオオボケもごめんなさい<(_ _)>。もう帰国されているのに、何を勘違いしたやら\(◎o◎)/!  最近、脳の働きが鈍化しておりまして・・・。失礼いたしました(*_*);
フブキ
ありがとうございました!
Elaine'sさま、こんにちは! 先日来、NYでの観劇の記事、わくわくしながら読ませて頂いておりました☆ そして、Elaine'sさまの WAR HORSE のご感想も今か今かと心待ちにしておりました♪

大好きな役者さんが出演していた作品、もう彼は離れてしまいましたが、ずっと気になっておりました。彼にとって、この作品に出演できたことはどんな意味があったのかなど、いろいろ思いを巡らしておりまして・・・。

劇評によると、とにかく馬が素晴らしいとあり、昨年のTONYでもいくつかの部門で受賞もしており、成功している作品であるのは間違いない・・・とは確信していたものの、でも、馬がいいだけのお子様向けの作品に過ぎないのでは・・・と危惧しておりました。なので、Elaine'sさまの目から見た率直な感想を是非知りたかったのです!

そして、今Elaine'sさまの記事を読み、とても安堵いたしました。確かに馬は素晴らしいのでしょう。「児童文学」作品だったことでしょう。けれど、『観て損はありません』とのElaine'sさまのお言葉、これは凄い! 

実は、Elaine'sさまのご感想、もちろん楽しみにはしていたものの、心の片隅で戦々恐々している自分もありました・・・。『単に馬がよくて、きれいごとの作品だった。それだけ。』という感想だったら・・・と。しかし、それだけではない何かをElaine'sさまが感じ取ることのできる作品だったということ。これはもう凄い賛辞です!ああ、よかった。彼はまたよい作品に巡り合えたのだ、そう分かりました。

本当に、いつも素敵な記事、ありがとうございます。今回も、ハプニングもあり、いろいろ中身の濃い充実したNY観劇をされたご様子で、私もどきどきしながら記事を読ませて頂いておりました☆ 今は帰路につかれたところでしょうか。彼の地もElaine'sのお帰りを待っていることでしょう。雪は、一息の模様です。ただ、まだまだ寒い日も続くことと思います。くれぐれもご自愛くださいますよう。

感謝を込めて。

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