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And This Is Not Elf Land

All My Sons

偉大な劇作家アーサー・ミラーも、今まで「サインフェルド絡み」でしか取り上げていなくてすいません。こちら


1947年発表のALL MY SONS(みんな我が子)は、エリア・カザンが監督してBroadwayで上演され、その時のトニー賞を受賞しています。戦後間もないアメリカの裕福な家庭が舞台となっています。



戦後間もない時代のアメリカの閑静な住宅地。そこに住む会社経営者一家の一日を描く全三幕の劇。

朝、家主のJoeは隣人のFrank, Jimと談笑している。前夜の強風によって、戦争で行方不明になったJoeの息子、Larryの記念樹が倒れてしまった。

FrankはJoeの妻に頼まれて、Larryの星占いをしていると言う。

Frankは一年違いで兵役を免れ、今は商売をしている。

Joeの妻、Kateは息子が生きているものと信じているが、しかし、もはやそれを裏付けるものはFrankの「星占い」しかない。

Larryの婚約者だったAnneが家に滞在している。彼女はLarryの兄のChrisを愛するようになり、結婚を望んでいるが、Kateを納得させるのは容易ではないは明らか。

隣人のJimは評判のいい医師ではあるが、妻のSueと口げんかが絶えない。


Joeは、今やゼネラル・モータース社の工場かと見紛うほどの大規模工場を経営している成功者。彼自身は、実際は学歴もなく、緻密な思索家でもないが、生物としての勘と、社交性、そして不屈の生命力をもって現在の立場を築いてきた。彼はこの世界で生き抜くための全ての知恵を知り尽くしていると自負する人間である。

一方、そんな彼の過去には疑惑の影が付きまとっていた…。戦時中、戦闘機の部品を、不良品と分かっていながら出荷し、そのために多くの若い空軍パイロットが犠牲になってしまった。しかし、彼は責任の全てを共同経営者に押し付け、今は普通に暮らしている。共同経営者だったGeorgeはAnneの兄であり、彼は今も服役しているのだった。

Joeは懸命に過去を正当化しようとする。家族を守りたかっただけであり、むしろ、度量が足りなかったGeorgeに責任があるのだと自分に言い聞かせる。

しかし、次第に事実が明らかになる。実は、AnneはLarryの遺書を持っていたのだった。Larryも空軍のパイロットだった。戦場で父の犯した罪を知った彼は、父の罪を償うために欠陥部品の飛行機だと知りながら、飛び出したのだった。

戦場で極限の体験をしているChrisは、父を許せるはずもなく、家を出ると宣言する。

Joeは失意のままに、自らに向けた銃の引き金を引くのだった。’All my sons!’(みんな我が子だったんだ!)と言い残して。


日常的な朝のシーンから、一つの扉が開くと、次々とに新しい事実が明らかになってくる。
過去に過ちを犯した主人公、いつか真実が明らかになるのではないかと怯えながら生きている。そして、衝撃の事実を知るメッセンジャー(ここではAnne)が登場し、主人公は死をもって償うことになる。このような、人間の本来の姿と、劇的な本質の融合はギリシア悲劇の形式を踏襲するものであると言われている。(私はギリシア悲劇など触ったこともないので、ここまでしか書けませんが…)


アーサー・ミラーの代表作「セールスマンの死」にも共通するのは、どちらの主人公も、いわゆる「アメリカの夢」の信奉者であるということ。そして、悲劇的な結末。All My Sonsにおいても、全てを手に入れたと信じていたJoeは、実は全てがillusionに過ぎなかったのだと気付くのに時間はかからなかった。夢と絶望はいつもとなりあわせ。

アーサー・ミラーの作品は社会と個人と永遠の課題を扱っている。Joeを誤った行為に駆り立てたのも、戦争特需で潤うことに何の疑問も持たなかった時代の空気が遠因であるに違いなかった。私たちは日々動き続ける世界に生きているが、究極の部分では、時間も空間も超越した、個体と環境の関係性のなかで喘いでいるだけなのかもしれない。

《追記》
演劇の本は日本では入手しにくいものが多いんですが、なんと先月末に早川書房からハヤカワ演劇文庫の第一弾として、アーサー・ミラーの「セールスマンの死」とニール・サイモンの「おかしな二人」が創刊されたそうです。書店に直行!(「セールスマンの死」なんて、翻訳のものは、古い「旧仮名づかい」のものしか持っていないんですから…)
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