僕は医者ではないし、医療に関する社会科学的な研究者でもない。だから、僕のいうことが絶対正しいなどと主張する気はない。ただ、医者が言うこともまた絶対正しいわけではない。
通常、健康診断(健診)を医者は勧める。早期発見や予防のためというお題目である。彼らは専門家であるのだから、なにがしか根拠があると僕たちは思うところだ。
ところが、同じ医者が健診に早期発見や予防効果はないと指摘もする。それどころか、健診は健康に悪いという指摘もなされる。レントゲンで被曝したり、バリウム飲んで調子悪くなったり、検査自体がストレスなんだから、そうなんだろうと思う。
僕は後者の方が説得力あると思う。というのは、後者の方がエヴィデンスを提示しているからだ。実際、健診経験者と健診未経験者を比較して、健診経験者の方が長生きするというデータはないともいうし、僕が知る限り、そのような主張を可能にするデータを見たこともない。それゆえヨーロッパでは健診を法制化してはいない。蛇足だけれど、エヴィデンスにがんじがらめになるのもどうかとも思っている。
どちらが正しい見解なのかと僕自身が結論を述べるだけの調査もしてはいないが、理解できることがある。結局、健診に効果があるかはよくわからないという事実だ。なんせ見解が統一されていないわけだから。まあ医療の科学性って中途半端なんだと思う。また健康のために健診が必要というのはPRでしかないことになってしまう。
僕は健診をしないと自身の健康状態がわからないとか、健診結果に気を揉むような社会状況が広がる方がよっぽど問題があると思っている。そこには健康不安という一種神経症的な傾向が蔓延していると思う。
健康に関する正常ということに捉えられる僕たちが存在している。ただ正常というのは個々人によっては違うということがある。それなのに目安程度の数値を気にして、病院で検査しなければならない、病気かもしれないと、人によっては怯えているのである。実際病院で働いていた時、そういう人たちを結構見ていた。
それだけではない。医者自体が「健診結果を気にしすぎだ」と言っているのを聞いたことが何度もある。「病院というのは症状が出て来るものだろう」「自覚症状もないのに」などとも言っていた。
じゃあ、なんで健診を勧めているのか?矛盾だらけである。予防や早期発見は病院の役割を拡大しているのは間違いない。結果、病院依存が進むことも間違いない。ちなみにこういう状況を医療化という。医療が僕たちの健康や生活を覆い尽くす社会が良い社会とは思われない。
つまり気にすぎだと思う。心配が前面に出ているのが僕たちの社会だけれど、死を考えることも含めて、人々がおおらかに生きられる社会をと願っている。