不機嫌そうに髪をぐしゃっと掻きながら、ジョウがリビングにやってくる。苦虫を嚙みつぶしたような顔で。
ソファに座り、タブレットで雑誌を読んでいたアルフィンが、ドアが開く音で顔をそちらに巡らす。
「あら、通信終わったの。ジョウ」
「んー」
むっすりと口を引き結んで、アルフィンの隣に腰を下ろし脚を組んだ。
その顔を覗き込んで、「エギルさん、なんだって?」と訊く。
「別に」
「あ、感じ悪い。内緒話?」
「……」
ジョウは無言。だんまり。
「ルーとか、ダーナの話かな。ねえ、なんだったのよう」
ジョウはそこで初めてアルフィンに顔を向ける。
「うるさい。どうだっていいだろ、ワッチに戻れよ」
あからさまに話を変えられて、しかも命令されて、むうっとアルフィンが柳眉を逆立てる。
「何よその態度、せっかく気を利かせて二人きりにさせてあげたのに」
「別に頼んでない」
そっぽを向いたままジョウが言う。
「リーダー、横暴!」
「横暴で結構だ」
「ふん、ジョウなんて大っきらい!」
憤然と席を立って、ドスドス足音高くリビングを出ていこうとする。
その手首をジョウがつかまえ、ぐいと手元に引いた。
アルフィンはよろめき、反動でジョウの膝の上にどんと尻をつく。
「なにすんのよ!」
「大嫌いってのはなんだ」
態勢を崩したアルフィンを膝に載っけた格好なので、顔と顔が至近距離にある。アルフィンの手首を拘束したまま、ジョウの目がすうっと剣呑に細められた。
「じゃあなんでアルフィンはその大嫌いな男のところに、単身、密航してきたんだよ」
んん?とアルフィンの青い目を挑発的に掬い上げた。
虫の居所が悪い。さっきまでエギルにさんざん翻弄されたせいだ。
ジョウの聞きたいことはのらりくらりと躱し、何一つ答えようとしないくせに、かまを掛けたり、誘導尋問をしたり。要するにいいようにからかわれたのだ、また。
エギル相手では分が悪い。わかってはいる。でもそれと、気分が悪くならないのとは話が別だ。
「そ、それは、」
アルフィンはしどろもどろになった。
畳みかけるチャンスとばかり、ジョウは「ほら、どーしてだよ。大嫌いな男の上に乗っかって真っ赤になってるのはなんでだ」と絡む。
「や、八つ当たりだわ。エギルと何の話をしたのか知らないけど、あたしに矛先を向けないでよ」
アルフィンも反撃を試みる。でも、今夜のジョウには通用しない。
「あーそうだよ。八つ当たりだ。何か文句あるか」
「ひ、ひどいわ」
お酒も入っていないのに、なんなのこのふてぶてしさは。さっきも言ったけど、ほんとに横暴!
アルフィンが抗議しようとする。その口をジョウは口でふさいだ。半ば強引に。
「……ン、っ」
たまらずアルフィンが目を閉じる。
ジョウは、さっきブリッジでアルフィンにかすめ取られたキスの10倍くらい濃厚なやつをお返しする。
唇を解放したときには、アルフィンはすっかり芯を抜かれた軟体動物みたいになってしまっていた。
ジョウの肩におでこを当てて、身体を支える。はあ、と肩が大きく上下するのをジョウは手のひらでさすってやった。
そして、アルフィンの金髪をかいくぐって形の良い耳にそっと言葉を置く。
「……さっき、エギルに言われた。アルフィンに直接訊けって。密航した理由をちゃんと訊いておけって。だから、そうした」
言い訳みたいに聞こえるかな?と思ったけれど、ままよとばかり。
本当のことだ。何も後ろ暗くはない。
アルフィンはそこで、額を離してジョウの顔を見つめる。
「エギルさんが?」
「ああ」
「――もう、ほんとヤな人ね、あの人」
「それは、否定しない」
くっ。ジョウの言葉でたまらずアルフィンが吹き出した。
ジョウもつられて笑った。
リビングに二人の笑い声が響いた。
ひとしきり笑った後、ジョウが言った。
「大嫌いっての、撤回するか?」
「うん」
大好き、ジョウ。そう言ってアルフィンがジョウの首に腕を回す。
甘えるように抱きついた。
「知ってる」
「何そのドヤ顔。どうせ、密航の理由だってあなた、わかってるんでしょ」
「さあ。それは直接君の口から聞きたい」
そらとぼける。
「残念でした。あたし当直だもん。これからブリッジに戻らなきゃだもん」
べーと愛らしい舌を覗かせる。子供っぽい仕草にジョウの相好が崩れた。
でもわざとしかつめらしい顔を作り直してアルフィンに言い渡す。
「リーダーの権限で、今夜のアルフィンのワッチは解除する。航行中オート探索にして艦橋は無人でOKだ」
「なにそれ。職権濫用だわ」
横暴の次は職権濫用ときた。
ジョウは聞く耳をもたず、アルフィンをひょいと姫抱きにしてソファから立ち上がった。
「きゃ」
「苦情はアラミス本部のクレーム担当部に言ってくれ。少しでも労働環境が改善されるといいな」
そのままリビングを出ていこうとする。
「ちょっと、ジョウ、待って。ほんとに当直しなくていいの?」
「いいよ」
「じゃあ、これからあたしをどこに連れてくつもり?」
何となく、答えが分かっている問いをアルフィンは口にした。
ジョウは、「秘密だ」と返す。
さっきエギルに言われた台詞。
「っていうか、秘密にするまでもないけどな」
俺が君をこれから連れていく場所は、<ミネルバ>の中ひとつしかない。
そしてそこで、君にすることもひとつだけ。
アルフィンはほんのり頬を赤らめて、恨めし気にジョウをにらんだ。形だけ怒ったフリ。
「ほんとに、横暴」
でも、ちょっとエギルさんには感謝かな。心の中でそう付け足して、アルフィンはジョウの腕に抱かれ、彼の私室に連れていかれた。
その夜、彼女が密航の理由を言わされたのかどうかは、二人だけの秘密だ。
――Happy Birthday! JOE ――
少し早いですが、お誕生日おめでとうJOE
ドヤ顔のジョウは私の二次では珍しいですよ。。。。
ソファに座り、タブレットで雑誌を読んでいたアルフィンが、ドアが開く音で顔をそちらに巡らす。
「あら、通信終わったの。ジョウ」
「んー」
むっすりと口を引き結んで、アルフィンの隣に腰を下ろし脚を組んだ。
その顔を覗き込んで、「エギルさん、なんだって?」と訊く。
「別に」
「あ、感じ悪い。内緒話?」
「……」
ジョウは無言。だんまり。
「ルーとか、ダーナの話かな。ねえ、なんだったのよう」
ジョウはそこで初めてアルフィンに顔を向ける。
「うるさい。どうだっていいだろ、ワッチに戻れよ」
あからさまに話を変えられて、しかも命令されて、むうっとアルフィンが柳眉を逆立てる。
「何よその態度、せっかく気を利かせて二人きりにさせてあげたのに」
「別に頼んでない」
そっぽを向いたままジョウが言う。
「リーダー、横暴!」
「横暴で結構だ」
「ふん、ジョウなんて大っきらい!」
憤然と席を立って、ドスドス足音高くリビングを出ていこうとする。
その手首をジョウがつかまえ、ぐいと手元に引いた。
アルフィンはよろめき、反動でジョウの膝の上にどんと尻をつく。
「なにすんのよ!」
「大嫌いってのはなんだ」
態勢を崩したアルフィンを膝に載っけた格好なので、顔と顔が至近距離にある。アルフィンの手首を拘束したまま、ジョウの目がすうっと剣呑に細められた。
「じゃあなんでアルフィンはその大嫌いな男のところに、単身、密航してきたんだよ」
んん?とアルフィンの青い目を挑発的に掬い上げた。
虫の居所が悪い。さっきまでエギルにさんざん翻弄されたせいだ。
ジョウの聞きたいことはのらりくらりと躱し、何一つ答えようとしないくせに、かまを掛けたり、誘導尋問をしたり。要するにいいようにからかわれたのだ、また。
エギル相手では分が悪い。わかってはいる。でもそれと、気分が悪くならないのとは話が別だ。
「そ、それは、」
アルフィンはしどろもどろになった。
畳みかけるチャンスとばかり、ジョウは「ほら、どーしてだよ。大嫌いな男の上に乗っかって真っ赤になってるのはなんでだ」と絡む。
「や、八つ当たりだわ。エギルと何の話をしたのか知らないけど、あたしに矛先を向けないでよ」
アルフィンも反撃を試みる。でも、今夜のジョウには通用しない。
「あーそうだよ。八つ当たりだ。何か文句あるか」
「ひ、ひどいわ」
お酒も入っていないのに、なんなのこのふてぶてしさは。さっきも言ったけど、ほんとに横暴!
アルフィンが抗議しようとする。その口をジョウは口でふさいだ。半ば強引に。
「……ン、っ」
たまらずアルフィンが目を閉じる。
ジョウは、さっきブリッジでアルフィンにかすめ取られたキスの10倍くらい濃厚なやつをお返しする。
唇を解放したときには、アルフィンはすっかり芯を抜かれた軟体動物みたいになってしまっていた。
ジョウの肩におでこを当てて、身体を支える。はあ、と肩が大きく上下するのをジョウは手のひらでさすってやった。
そして、アルフィンの金髪をかいくぐって形の良い耳にそっと言葉を置く。
「……さっき、エギルに言われた。アルフィンに直接訊けって。密航した理由をちゃんと訊いておけって。だから、そうした」
言い訳みたいに聞こえるかな?と思ったけれど、ままよとばかり。
本当のことだ。何も後ろ暗くはない。
アルフィンはそこで、額を離してジョウの顔を見つめる。
「エギルさんが?」
「ああ」
「――もう、ほんとヤな人ね、あの人」
「それは、否定しない」
くっ。ジョウの言葉でたまらずアルフィンが吹き出した。
ジョウもつられて笑った。
リビングに二人の笑い声が響いた。
ひとしきり笑った後、ジョウが言った。
「大嫌いっての、撤回するか?」
「うん」
大好き、ジョウ。そう言ってアルフィンがジョウの首に腕を回す。
甘えるように抱きついた。
「知ってる」
「何そのドヤ顔。どうせ、密航の理由だってあなた、わかってるんでしょ」
「さあ。それは直接君の口から聞きたい」
そらとぼける。
「残念でした。あたし当直だもん。これからブリッジに戻らなきゃだもん」
べーと愛らしい舌を覗かせる。子供っぽい仕草にジョウの相好が崩れた。
でもわざとしかつめらしい顔を作り直してアルフィンに言い渡す。
「リーダーの権限で、今夜のアルフィンのワッチは解除する。航行中オート探索にして艦橋は無人でOKだ」
「なにそれ。職権濫用だわ」
横暴の次は職権濫用ときた。
ジョウは聞く耳をもたず、アルフィンをひょいと姫抱きにしてソファから立ち上がった。
「きゃ」
「苦情はアラミス本部のクレーム担当部に言ってくれ。少しでも労働環境が改善されるといいな」
そのままリビングを出ていこうとする。
「ちょっと、ジョウ、待って。ほんとに当直しなくていいの?」
「いいよ」
「じゃあ、これからあたしをどこに連れてくつもり?」
何となく、答えが分かっている問いをアルフィンは口にした。
ジョウは、「秘密だ」と返す。
さっきエギルに言われた台詞。
「っていうか、秘密にするまでもないけどな」
俺が君をこれから連れていく場所は、<ミネルバ>の中ひとつしかない。
そしてそこで、君にすることもひとつだけ。
アルフィンはほんのり頬を赤らめて、恨めし気にジョウをにらんだ。形だけ怒ったフリ。
「ほんとに、横暴」
でも、ちょっとエギルさんには感謝かな。心の中でそう付け足して、アルフィンはジョウの腕に抱かれ、彼の私室に連れていかれた。
その夜、彼女が密航の理由を言わされたのかどうかは、二人だけの秘密だ。
――Happy Birthday! JOE ――
少し早いですが、お誕生日おめでとうJOE
ドヤ顔のジョウは私の二次では珍しいですよ。。。。
⇒pixiv安達 薫