ジョウは、ファイター1に乗ってアル・ピザンのピザンターナ宇宙港に到着した。
極秘中の極秘の来星だった。完全プライヴェートということで、ジョウの来訪はごく一部の政府要人にしか知らされていなかった。
宇宙港では、政府専用ゲートに誘導された。ジョウは見事なランデイングでファイター1を着陸させ、ハッチを開けて身軽に降り立つ。荷物はわずかだ。
今日はクラッシュジャケットは身につけていない。地味な、黒のスペースジャケットを選んだ。
身分を表すものは極力避けた。マスコミに勘づかれないことを最優先した。
ジョウは出迎えた宇宙港のスタッフと政府関係者に誘導されて、足早に到着ゲートに向かった。
入国審査は必要なかった。ピザンでは、当然のことだがジョウは顔パスだ。
用意された黒塗りのリムジンに乗り込むと、発車したかどうかもわからないほど、スムーズに進んだ。
一路、宮殿へ向かう。
リムジンの中でジョウはスペースジャケットを脱いだ。持参したスーツに着替える。
ネクタイを締めた。何年ぶりかに正装する。
いや、クラッシャーにとって正装はクラッシュジャケットなのだが。さすがに非番というか仕事を離れての来訪時にふさわしい着衣とは思えなかった。今日は、国王と王妃に面会するので、クローゼットの中で一番品質の良いスーツを選んだ。黒に近いダークブルーの生地が、ジョウによく似合っていた。
髪をざっと掻き上げ整える。いよいよだと思う。
6年ぶりに見るピザン市内は、以前来たときよりも整然とビルや施設が建ち並び、発展していた。
街をゆく人々の顔つきも明るい。緑が多く、公園でも子供たちが遊んでいるのが見えた。
立ち直りつつある。ガラモスの反乱が、ひと昔前のことのように人々の間で良い意味で風化しているのを感じた。
アルフィンを初め、国王が、王妃が、そしてピザン国民が手を携えて明るい未来に向かって力を尽くした、その証だった。
ジョウはリムジンの車窓に映る景色をじっと眺めていた。陽光がビルの壁面に反射してまぶしかった。
結婚。
プロポーズが嬉しくないわけではない。むしろ、飛び上がるほど嬉しい。でも……、
アルフィンは当惑した。
このタイミングで切り出した、ジョウの真意がわからなくて。
「どうして? あたしたち、こないだ再会したばかりよ。6年も離れていて、宇宙港で10分かそこら会っただけなのに。なんでそんな大事なことをこんな風に……あっさり言うの?」
ジョウはむきになった。
「あっさりなんて言ってない。本気だ。理由が聞きたいのか。君と一緒にいたい。それじゃだめか」
「ジョウ」
スイッチが入ったように、ジョウがまくしたてる。抑えようとしても、昂ぶる気持ちを抑えきれない。
モニター越しというのがなんとももどかしい。
「6年離れていたのに君のことを忘れられなかった。この先も忘れられないのは、もうわかりきっている。
いい加減、自分を誤魔化すのは止めた。欲しいものは欲しい。アルフィン。俺は、君が欲しい。
君しか要らない。宇宙港で再会して、それがわかった。痛いくらい」
アルフィンの目を真っ直ぐ見て、ジョウが言う。
もうニュースや配信動画で君を眺めるだけの日々は過ごしたくない。
生身の君と、この先ずっといっしょに生きたい。
だから、とジョウはそこで間を取った。呼吸を整える。
そして、言った。
「結婚しよう。皇太子だか王子だか知らないが、他の男のところになんて行くな。君は俺がもらう」
ジョウはじっとアルフィンを見つめた。
アルフィンがたじろぐほど、強いまなざしだった。必死さがにじみ出ている。
その圧力がすごくて、ついアルフィンが手で押しとどめた。
「待って、ジョウ。お願い、待って」
モニター画面の中でそうやっても、効果は無いとわかってはいたが。
もう、幸福すぎてめまいがしそうだった。手が、指先が震える。
「あなた、今なんて? ニュースや動画配信であたしを眺めていたって、言った?」
「あ」
ジョウはうっかり口を滑らせたことに気づいた。
ばつが悪そうに目を逸らしたジョウに、アルフィンは畳みかけた。
「離れていたときも、あたしのことを見ていてくれたの? ずっと?」
「……ごめん。君がどうしているか、気になって、時々」
ストーカーみたいでイヤだよな? ジョウがアルフィンを掬うように見る。
アルフィンは必死に首を横に振る。ふるふると。
そんなこと、ない。
「謝らないで。嬉しい。――あたしも、同じ。あなたの活躍をニュースでよく見ていたわ。今、こんな仕事をしているんだって。怪我がないといい。危険な目に遭わないといいって、祈るような気持ちでいつも見ていた。……おんなじね」
「アルフィン」
「……忘れるなんてできないって、もう諦めかけてた。6年。あなたを思い出さない日は一日もなかった。でも、実際会いにいく勇気も無いし、会ったとしても、何をどうしたらいいか全然わからなくて。結局、身動きできなかった。毎日つらかった。――ジョウ、つらかったの」
寂しかったの、あたし。そう告げる。
碧い瞳が揺らめいた。まつげの影が頰に落ちる。
「だから、あなたがプロポーズしてくれるなんて、信じられない……。夢なの、これは」
「夢じゃない」
ジョウはきっぱりと言った。
「結婚してほしい。俺と」
俺といっしょに生きて欲しい。同じ景色を見て欲しい。ずっと側にいて。
「ジョウ」
アルフィンの目から涙が滑り落ちる。ほろほろと。
きれいな滴がとめどなく流れた。
「夢じゃないのね、本当のことなのね」
あたし、と言いかけてぐっと涙をこらえる。
「本当だ。信じてくれ」
「うれしい。――うれしいわ、ジョウ」
涙にむせびながら、アルフィンは胸元で手を強く組んだ。
「じゃあ」
ジョウの眉間が開き、肩のラインがふっと緩む。ずっと力が入っていたことを知る。
「ジョウの側にいたい。あたしにはそれだけでいい」
他には何も要らないの。途切れ途切れに、やっとのことでそう言った。
「結婚してくれるか、俺と」
ジョウが再度訊くと、アルフィンが何度も頷いた。胸がいっぱいで言葉にならない。
「ちゃんと口にしてくれ。君の言葉で聞きたい」
ジョウが優しく促す。
「――はい。お受けします」
こみ上げるものを堪えて、アルフィンは言った。くしゃくしゃの泣き顔だったけれど、やがて笑顔に取って代わる。頰を濡らす涙を手で拭った。
「プロポーズ、ありがとうジョウ」
そこで、ジョウは長く息をついた。どっと安堵が押し寄せる。
良かった……。ジョウは思わずテーブルに突っ伏した。
「ジョウ」
気遣わしげにアルフィンが見る。ジョウは気力を絞って上体をなんとか起こした。
その晩初めて心から笑った。柔らかい表情を見せる。
「ほっとしたよ。――断られたら、どうしようって思った。他のやつに取られたらって」
本音を漏らす。アルフィンは少しだけ困ったように笑う。
「縁談は受けるつもりはないって言ったじゃない」
「それでもさ」
「そんなに心配性だった? ジョウ」
「心配性にもなるさ。何億光年も離れているんだ。すぐに駆けつけられない距離で誰かにかっ攫われたら、目も当てられない」
「……いつ会いに来てくれるの?」
アルフィンがかすかに甘える声を出す。
プロポーズを受けて、心がほどけた。王女の顔ではなく、ジョウだけに見せる女の顔になっている。
バスローブを肩から滑らせるように、立場をするりと脱ぎ捨てた。
ジョウはそれに気づき、心臓がことりと音を立てるのを感じた。
はんなりとした色気を纏っている。目の縁が充血して赤かった。
それに見とれながらジョウは言った。
「あと2週間待ってくれ」
「2週間」
アルフィンは繰り返した。
「そうだ。2週間したら仕事にけりがつく。君に会いに行ける。それまで、頼む。待っててくれ」
「ジョウ」
2週間したら、そうすれば。
ジョウは自分に言い聞かせるように口にした。
そして、今ジョウは宮殿の前に横付けにされたリムジンから降り立った。
巡回中の警備兵や宮殿周りの植物の世話をしていた庭師たちが、目礼で彼を出迎える。宮殿に勤める関係者には、ジョウの来訪は昨日のうちに知らされていた。
ただし、箝口令つきで。
情報が外に漏れることはない。王宮内の職員の結束は固く、国王一家に忠誠を誓っている者ばかりだ。
自分たちの主が、内々で頼むと言えば確実にそれに従う。
「ジョウさま」
王室付きの筆頭秘書官がジョウを出迎えた。
面識があった。グラハム。年配の有能な秘書だ。6年前も何かとよくしてくれた。
だいぶん頭に白いものが混ざったが、人柄のにじみ出るにこやかな微笑は以前のままだ。
「ようこそお越しくださいました、お久しゅうございます。
遠路の長旅、お疲れ様でございました」
恭しく頭を下げる。銀縁の眼鏡が一分の曇りもなく窓からの陽射しを受けて光った。
「わざわざすまない。出迎えてもらって。宇宙港への車の手配もありがとう」
「当然です。ピザン国民一同、心よりあなたさまのお越しをお待ちしておりました」
ピザンの国民にとって、ジョウは若き英雄。歴史に名を残す偉業を達成した人物だ。
現に、学校の歴史の教科書にも6年前の反乱鎮圧のことが載っている。彼は知らないが。
ジョウはよしてくれ、と肩をそびやかした。
「大仰なあいさつはやめてくれ。歓迎はありがたいが。身の置き所がない」
くすっとグラハムは笑みをこぼした。
「6年前もそんな風におっしゃいましたね。丁重に扱われると、理由を見つけて逃げてしまわれた」
「あいにく育ちが良くないもんでね」
本音が出た。
「そんなことは」
グラハムが何か言葉を継ごうとしたところへ、物音を聞きつけた職員たちがロビーに顔を出した。
「ジョウさん、……クラッシャージョウさんだ」
「お懐かしい……よく、おいでになってくださいました」
「いらっしゃいませ、本当に」
ジョウのところに人が集まってくる。みな一様に懐かしさと興奮の色をその面に浮かべている。好意と親愛の情がロビーを満たしていく。中には仰ぎ見るように彼を尊敬の目で見ている老人もいた。
ジョウは「お久しぶりです。また、世話になります」と自分の周りに集った人々に挨拶をした。
「……ところで、アルフィンは」と重ねようとして、名前を呼ばれる。
「ジョウ」
(5)
極秘中の極秘の来星だった。完全プライヴェートということで、ジョウの来訪はごく一部の政府要人にしか知らされていなかった。
宇宙港では、政府専用ゲートに誘導された。ジョウは見事なランデイングでファイター1を着陸させ、ハッチを開けて身軽に降り立つ。荷物はわずかだ。
今日はクラッシュジャケットは身につけていない。地味な、黒のスペースジャケットを選んだ。
身分を表すものは極力避けた。マスコミに勘づかれないことを最優先した。
ジョウは出迎えた宇宙港のスタッフと政府関係者に誘導されて、足早に到着ゲートに向かった。
入国審査は必要なかった。ピザンでは、当然のことだがジョウは顔パスだ。
用意された黒塗りのリムジンに乗り込むと、発車したかどうかもわからないほど、スムーズに進んだ。
一路、宮殿へ向かう。
リムジンの中でジョウはスペースジャケットを脱いだ。持参したスーツに着替える。
ネクタイを締めた。何年ぶりかに正装する。
いや、クラッシャーにとって正装はクラッシュジャケットなのだが。さすがに非番というか仕事を離れての来訪時にふさわしい着衣とは思えなかった。今日は、国王と王妃に面会するので、クローゼットの中で一番品質の良いスーツを選んだ。黒に近いダークブルーの生地が、ジョウによく似合っていた。
髪をざっと掻き上げ整える。いよいよだと思う。
6年ぶりに見るピザン市内は、以前来たときよりも整然とビルや施設が建ち並び、発展していた。
街をゆく人々の顔つきも明るい。緑が多く、公園でも子供たちが遊んでいるのが見えた。
立ち直りつつある。ガラモスの反乱が、ひと昔前のことのように人々の間で良い意味で風化しているのを感じた。
アルフィンを初め、国王が、王妃が、そしてピザン国民が手を携えて明るい未来に向かって力を尽くした、その証だった。
ジョウはリムジンの車窓に映る景色をじっと眺めていた。陽光がビルの壁面に反射してまぶしかった。
結婚。
プロポーズが嬉しくないわけではない。むしろ、飛び上がるほど嬉しい。でも……、
アルフィンは当惑した。
このタイミングで切り出した、ジョウの真意がわからなくて。
「どうして? あたしたち、こないだ再会したばかりよ。6年も離れていて、宇宙港で10分かそこら会っただけなのに。なんでそんな大事なことをこんな風に……あっさり言うの?」
ジョウはむきになった。
「あっさりなんて言ってない。本気だ。理由が聞きたいのか。君と一緒にいたい。それじゃだめか」
「ジョウ」
スイッチが入ったように、ジョウがまくしたてる。抑えようとしても、昂ぶる気持ちを抑えきれない。
モニター越しというのがなんとももどかしい。
「6年離れていたのに君のことを忘れられなかった。この先も忘れられないのは、もうわかりきっている。
いい加減、自分を誤魔化すのは止めた。欲しいものは欲しい。アルフィン。俺は、君が欲しい。
君しか要らない。宇宙港で再会して、それがわかった。痛いくらい」
アルフィンの目を真っ直ぐ見て、ジョウが言う。
もうニュースや配信動画で君を眺めるだけの日々は過ごしたくない。
生身の君と、この先ずっといっしょに生きたい。
だから、とジョウはそこで間を取った。呼吸を整える。
そして、言った。
「結婚しよう。皇太子だか王子だか知らないが、他の男のところになんて行くな。君は俺がもらう」
ジョウはじっとアルフィンを見つめた。
アルフィンがたじろぐほど、強いまなざしだった。必死さがにじみ出ている。
その圧力がすごくて、ついアルフィンが手で押しとどめた。
「待って、ジョウ。お願い、待って」
モニター画面の中でそうやっても、効果は無いとわかってはいたが。
もう、幸福すぎてめまいがしそうだった。手が、指先が震える。
「あなた、今なんて? ニュースや動画配信であたしを眺めていたって、言った?」
「あ」
ジョウはうっかり口を滑らせたことに気づいた。
ばつが悪そうに目を逸らしたジョウに、アルフィンは畳みかけた。
「離れていたときも、あたしのことを見ていてくれたの? ずっと?」
「……ごめん。君がどうしているか、気になって、時々」
ストーカーみたいでイヤだよな? ジョウがアルフィンを掬うように見る。
アルフィンは必死に首を横に振る。ふるふると。
そんなこと、ない。
「謝らないで。嬉しい。――あたしも、同じ。あなたの活躍をニュースでよく見ていたわ。今、こんな仕事をしているんだって。怪我がないといい。危険な目に遭わないといいって、祈るような気持ちでいつも見ていた。……おんなじね」
「アルフィン」
「……忘れるなんてできないって、もう諦めかけてた。6年。あなたを思い出さない日は一日もなかった。でも、実際会いにいく勇気も無いし、会ったとしても、何をどうしたらいいか全然わからなくて。結局、身動きできなかった。毎日つらかった。――ジョウ、つらかったの」
寂しかったの、あたし。そう告げる。
碧い瞳が揺らめいた。まつげの影が頰に落ちる。
「だから、あなたがプロポーズしてくれるなんて、信じられない……。夢なの、これは」
「夢じゃない」
ジョウはきっぱりと言った。
「結婚してほしい。俺と」
俺といっしょに生きて欲しい。同じ景色を見て欲しい。ずっと側にいて。
「ジョウ」
アルフィンの目から涙が滑り落ちる。ほろほろと。
きれいな滴がとめどなく流れた。
「夢じゃないのね、本当のことなのね」
あたし、と言いかけてぐっと涙をこらえる。
「本当だ。信じてくれ」
「うれしい。――うれしいわ、ジョウ」
涙にむせびながら、アルフィンは胸元で手を強く組んだ。
「じゃあ」
ジョウの眉間が開き、肩のラインがふっと緩む。ずっと力が入っていたことを知る。
「ジョウの側にいたい。あたしにはそれだけでいい」
他には何も要らないの。途切れ途切れに、やっとのことでそう言った。
「結婚してくれるか、俺と」
ジョウが再度訊くと、アルフィンが何度も頷いた。胸がいっぱいで言葉にならない。
「ちゃんと口にしてくれ。君の言葉で聞きたい」
ジョウが優しく促す。
「――はい。お受けします」
こみ上げるものを堪えて、アルフィンは言った。くしゃくしゃの泣き顔だったけれど、やがて笑顔に取って代わる。頰を濡らす涙を手で拭った。
「プロポーズ、ありがとうジョウ」
そこで、ジョウは長く息をついた。どっと安堵が押し寄せる。
良かった……。ジョウは思わずテーブルに突っ伏した。
「ジョウ」
気遣わしげにアルフィンが見る。ジョウは気力を絞って上体をなんとか起こした。
その晩初めて心から笑った。柔らかい表情を見せる。
「ほっとしたよ。――断られたら、どうしようって思った。他のやつに取られたらって」
本音を漏らす。アルフィンは少しだけ困ったように笑う。
「縁談は受けるつもりはないって言ったじゃない」
「それでもさ」
「そんなに心配性だった? ジョウ」
「心配性にもなるさ。何億光年も離れているんだ。すぐに駆けつけられない距離で誰かにかっ攫われたら、目も当てられない」
「……いつ会いに来てくれるの?」
アルフィンがかすかに甘える声を出す。
プロポーズを受けて、心がほどけた。王女の顔ではなく、ジョウだけに見せる女の顔になっている。
バスローブを肩から滑らせるように、立場をするりと脱ぎ捨てた。
ジョウはそれに気づき、心臓がことりと音を立てるのを感じた。
はんなりとした色気を纏っている。目の縁が充血して赤かった。
それに見とれながらジョウは言った。
「あと2週間待ってくれ」
「2週間」
アルフィンは繰り返した。
「そうだ。2週間したら仕事にけりがつく。君に会いに行ける。それまで、頼む。待っててくれ」
「ジョウ」
2週間したら、そうすれば。
ジョウは自分に言い聞かせるように口にした。
そして、今ジョウは宮殿の前に横付けにされたリムジンから降り立った。
巡回中の警備兵や宮殿周りの植物の世話をしていた庭師たちが、目礼で彼を出迎える。宮殿に勤める関係者には、ジョウの来訪は昨日のうちに知らされていた。
ただし、箝口令つきで。
情報が外に漏れることはない。王宮内の職員の結束は固く、国王一家に忠誠を誓っている者ばかりだ。
自分たちの主が、内々で頼むと言えば確実にそれに従う。
「ジョウさま」
王室付きの筆頭秘書官がジョウを出迎えた。
面識があった。グラハム。年配の有能な秘書だ。6年前も何かとよくしてくれた。
だいぶん頭に白いものが混ざったが、人柄のにじみ出るにこやかな微笑は以前のままだ。
「ようこそお越しくださいました、お久しゅうございます。
遠路の長旅、お疲れ様でございました」
恭しく頭を下げる。銀縁の眼鏡が一分の曇りもなく窓からの陽射しを受けて光った。
「わざわざすまない。出迎えてもらって。宇宙港への車の手配もありがとう」
「当然です。ピザン国民一同、心よりあなたさまのお越しをお待ちしておりました」
ピザンの国民にとって、ジョウは若き英雄。歴史に名を残す偉業を達成した人物だ。
現に、学校の歴史の教科書にも6年前の反乱鎮圧のことが載っている。彼は知らないが。
ジョウはよしてくれ、と肩をそびやかした。
「大仰なあいさつはやめてくれ。歓迎はありがたいが。身の置き所がない」
くすっとグラハムは笑みをこぼした。
「6年前もそんな風におっしゃいましたね。丁重に扱われると、理由を見つけて逃げてしまわれた」
「あいにく育ちが良くないもんでね」
本音が出た。
「そんなことは」
グラハムが何か言葉を継ごうとしたところへ、物音を聞きつけた職員たちがロビーに顔を出した。
「ジョウさん、……クラッシャージョウさんだ」
「お懐かしい……よく、おいでになってくださいました」
「いらっしゃいませ、本当に」
ジョウのところに人が集まってくる。みな一様に懐かしさと興奮の色をその面に浮かべている。好意と親愛の情がロビーを満たしていく。中には仰ぎ見るように彼を尊敬の目で見ている老人もいた。
ジョウは「お久しぶりです。また、世話になります」と自分の周りに集った人々に挨拶をした。
「……ところで、アルフィンは」と重ねようとして、名前を呼ばれる。
「ジョウ」
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