君の好きなところ２

君の好きなところならたくさん、数え切れないほどあるけれどーー


＜ファイター１＞でミネルバに帰着したときには、銀河標準時でもう23時を回っていた。
キャノピーを開けて操縦席から降り立った俺を出迎えたのは、アルフィンだった。
「ジョウ」
オフホワイトのパジャマを着ている。ベッドに入る頃合いだったのか、横になっていたのに俺の帰りを聞きつけてわざわざ起きてきたのか。
「アルフィン」
「お帰りなさい。遅かったね」
アラミスへの出張帰りだった。出張というのは名ばかりのていのいい本部からの呼び出し。
同職で不祥事を起こしたやつがいて、マスコミに大々的にすっぱ抜かれた。本部が各チームの責任者を緊急招集して、服務規律の遵守を徹底するよう訓告を行った。
往復する距離と同じだけ疲弊した。
「ただいま」
俺は照明を落とした格納庫で、近寄ってきたアルフィンを抱き留めた。
腰に腕を回し、ひょいと抱きあげる。細い身体。柔らかく、体重を感じさせない。
「あっ」
「一週間ぶり、かな。俺を待たないで寝てろって何回も言ったろ。だめじゃないか」
「ごめん」
バランスを崩しかけてアルフィンが俺の肩にしがみつく。歓声を上げた。
俺の顔にさらりと彼女の金髪がかかる。
「俺のいない間、何か変わったことは？」
「特にないわ。ジョウ、ご飯は食べた？」
おでこを俺の額にくっつけるようにして間近で目を覗き込む。抱き上げたままなので、アルフィンの両脚がぶらんと宙に浮いている。
「食べた」
「うそ。ずっと操縦してたんでしょ。まともなの、食べてると思えない」
ばれたか。
実はアラミスを経ってから、固形食は口にしていなかった。
「作って置いたあなたのぶんの夕食、温めようか。ちゃんとしたもの、お腹に入れないとダメよ」
「ん。時間がずれたから今夜はいいよ」
「ちょっとだけでも食べて。スープとかは？」
「それぐらいなら」
言うと、ほっとしたように笑う。
「よかった。キッチンに行こう？」と自分を降ろすように目で促す。
俺は逆にアルフィンをしっかり抱え直して、そのまま格納庫を出た。
人気のない通路をすたすた歩いていく。
「ジョウ、どうしたの。降ろして」
抱いたまま離さない俺に、アルフィンが戸惑った様子で訊いた。
風呂上りで、ほんのりいいにおいがする。ボディソープか、シャンプーの香りか。肌触りの良いパジャマの生地越しの彼女の体温も、ささくれた俺の心と身体を優しく包む。
空腹で、移動距離も長かった俺にとって、アルフィンの用意してくれた夕食も温かいスープもとても魅力的だが、何よりも、俺を気遣う彼女の存在そのものが癒しだ。
「なんとなく、気分」
くっついていたい。腕の中に抱いていたい。離したくない。
ホームシックというか、それに近いもの。圧倒的に彼女が欠けていた。この7日間。
その隙間を埋めたい。
「もう、変なジョウ」
俺の肩に腕を回しながら、アルフィンが微笑んだ。
言葉とは裏腹に、それはそれは嬉しそうに。


――君の好きなところならたくさん、いくつでも挙げられる。
いつもいい匂いがするところ。ふっくら柔らかいからだ。
指通りのよい長い髪。笑うと、唇から白い歯が覗くところ。
笑顔がとびきり可愛いところ。抱き上げるとはしゃいできつくしがみついてくるのも可愛い。
俺のからだを気遣ってくれる。食事に気を配って、三食料理を作ってくれる。
ちゃんと食べて、スープだけでも飲んでと口うるさく言ってくれるところ。
夜、俺のためにわざわざ食事を温め直してくれるところ。
そもそも寝ないで俺の帰りを待ってくれるところ。――きちんと寝んでくれ、と口が酸っぱくなるまで言ってるのに。
「おかえり」といつも出迎えてくれるところ。
俺の帰る場所でいてくれる。

照れくさくて口には出せない。でも、伝わったらいいと思う。
俺の腕に身をゆだねながら、アルフィンがそっと耳元に口を寄せた。そして、
「ねえジョウ。……今夜は、一緒に眠らない？」
はずかしそうに伏し目がちに囁いた。


君の好きなところ、一つ追加だ。


END

この後は、キッチンで支度するアルフィンに後ろからくっついてジョウは片時も離れないで、そのまま膝の上に彼女を載せてあーんとかしてもらって、最後はベッドでいい子いい子してもらいながら眠りに就くという設定です。甘えんぼのジョウさんをお送りできずに残念です。笑

⇒pixiv安達　薫