超一流アスリートの電撃結婚の話題が全宇宙を駆け巡った。
それはまるで、稲妻のように。
「いやー驚いたねえ」
「ほんとだね」
<ミネルバ>でも下世話なゴシップに目がないタチの者はいる。
特に今回は、今ギャラクシーリーグで一番人気のベースボール選手のネタということで、格好の話題となった。
「これまでパパラッチに全然尻尾掴ませなかったのはすげえな、さすがというか、なんというか」
ニュースペーパーを見ながらタロスが舌を巻いた。
「ストイックな生活してるって報道ばっかだったれど、人知れず、愛を育んでいたんだねえ。やるねえ」
「おっさんくさ」
リッキーがツッコミを入れる。
「ふん。悔しかったらお前も艶っぽい話の一つや二つ、仕入れて来い。できもしねえだろうが」
「なんだと?俺らを舐めんなよ。タロスは知らんかもしれないけど、こ―見えて俺ら、割と女の子にモテるんだぜ」
「ほー、それは初耳ですな、坊ちゃん」
「ガキ扱いすんな!」
いつもの痴話喧嘩が始まる。それを察知してリーダーが口を挟んだ。
「……に、したって、素性がなあ、さっぱり表に出てこないな。どんな相手なんだろうな。あの一千億ドルの男が選んだお嫁さんってのは」
「ほんとよねえ。分かってるのは国籍と性別ってだけだもんね。秘密にされると、心理として逆に知りたくなるわー」
ジョウの言葉にアルフィンが乗っかる。
「まあ、大事な人ほどマスコミは晒したくないだろうよ。いま、匿名での誹謗中傷とか事欠かないから。完全にとは無理でも、できるかぎり個人情報が流れるのは避けたいところだよな」
「お、兄貴も大事な人は《自分の手元に、閉じ込めておく》派かい?」
「……なんだそれ」
リッキーのセリフに、ジョウが首を傾げた。
「いやあ、なんとなく。現にこうしてアルフィン、手元に置いてるし」
「ちょっと、リッキー。ジョウに失礼なこと言わないでくれる。あたしの目の黒いうちは、そんなの許さないわよ」
と、それはそれは美しい青い目でアルフィンがにらみつける。
あれ? 話の方向、なんだか違くない? とその場にいる男3人は思った。だが、もはや修正はかなわない。
アルフィンは不満そうにリッキーに突っかかった。
「ジョウがあたしを囲ってるとか、そんな言い方失礼でしょ」
「いや、そっちの言い方の方が誤解を招かないか?」
ジョウは困惑顔。なんだか、妾? とか、道徳的に不味い意味合いのことをしているようなニュアンスを含まないか?と口にしたい。
けれど、できない……。それを許さない剣幕だった。
アルフィンは胸を張る。そして、
「あたしはね、あたしが居たくてここにいるのよ。誰かに囲われてる、庇護されてるなんて思ったこと一度もないわ」
「いやそれは俺もないけど」
ジョウの小声のツッコミは、敢えてスルー。アルフィンの通常運転だ。
「もしあたしがピザン本国に居たら、皇室付きとか言ってテレビ各局の張り込み記者が24時間態勢でいたり、宮殿から一歩でも外に出るともうプライベートなんか全然なくて、SPがトイレにも張り付いてきたり、それはそれは窮屈な生活を送っていたであろう存在だけれど。婚約はいつだ、お相手候補は誰だって、うるさいよ、人の結婚なんて放っといて!ってキレそうになる質問ばっか定例会見で繰り出される身分だったはずだけど。今はもう、そんなしがらみから解放されてのびのび暮らせてるの。ほんっとクラッシャーって最高。 だからおかしな言い方してジョウを貶めるの、やめてよね」
アルフィンは滔々と諭した。
内容はともかく、その迫力に押され「はい……すんません」とリッキーは引き下がるしかない。なぜか隣にいたタロスも心なしかでかい肩を縮めて反省の風情を醸し出している。
こうなると、ジョウが宥めるしかなかった。
「俺も嬉しいよ。正直。アルフィンがうちに来てくれて」
密航当初の頃は、なんて無茶する考えなしのお姫さんだって思ってたけどなと苦笑まじりで言う。
「悪かったわね。後先考えないお姫さんで」
「まあ、それは、標準装備だろ」
「ひどっ」
そこでジョウはついと手を上げて、アルフィンの頭に置いた。ぽん、ぽんと何度かあやすように撫でてやってから、
「今じゃもう、立派な俺の片腕だ。頼りにしてる。囲ってるなんて考えたこと、一度もないから」
それは、分かれ。そう結ぶ。
「……えへへ」
照れ隠しか、ふにゃっと顔を崩してアルフィンが笑う。
ジョウに撫でられたところを両手で押さえ、
「あたしはやっぱ、億万長者のベースボール選手より、うちのジョウの方がいいなあ」
と臆面もなく惚気た。
「ばか」
ジョウは完全にでれて、そっぽを向き、リビングから立ち去ろうとする。
リッキーやタロスたちに揶揄われなくない一心で。
あ、待ってよ、どこ行くのと追いかけるアルフィン。そんな二人を見送りながら、ぽつんとタロスがつぶやいた。
「こりゃあ、近々あるかもしれんな、うちでも」
「へ? 何が?」
「決まってんだろ。電撃結婚が、だよ」
幸せの空気は連鎖する。いや、伝播するのか。
タロスの予言が現実のことになったのは、それからわずか2週間後のことだった。
END
O谷選手 ご結婚おめでとうございます!
2週間後…。一体何が呼び水になったのか気になるところです。
数年前O谷選手が渡米したあたりでしょうか、同僚とお昼食べながら、お相手はやっぱ女◯アナとかじゃ面白くないよねー、この際ヴィクシーモデルばりの金髪碧眼のおねーちゃんあたりに行ってほしい等々、実に不適切かつ身勝手な会話を繰り広げてたことを思い出しました。今の日本、彼のニュース以外明るい話題はないので本当におめでたい!末長くお幸せに。
姫、J君も立派な億万長者よね。きっとそんな事普段頭にも無いんでしょうけど。こっちもおめでとうー。
願わくは、羽生選手のときのようなお相手の憶測、特定のないよう祈るばかりです。
あれだけの方が選んだお相手、間違いはないはず。あとは新天地でのご活躍とリーグ制覇を応援します。いち、日本人として(笑)
ジョウくんは、もちろん億万長者なんですが、ミネルバや搭載機、火器重機のメンテナンスで莫大な予算がかかるので、あまり自覚がないはず。というか、経理をたろさんに任せて、あまり収支が分かってないのではという見立てです。